第14話
私と言うのも純正なる人間とは言い難いのでこのような表現をするのはなんて言うかおかしい気もするが。
会話の相手が人間じゃないというのはなんだか変な気分がする。
それどころか相手には肉体らしい肉体もなく、あくまでただの電子データと来た。
おおよそこのような経験をした事のある人間と言うのは多分少ないだろう。
多分、転生を経験した事のある人間とどっこいどっこいな気がする。
はてさて、目の前のディスプレイに現れた謎の存在。
自らを人工知能であると名乗ったその存在は『YOUSEI』というらしい。
『YOUSEI』。
つまり、妖精。
ある意味、私が探し求めていた存在であるのは十中八九明らかではあるのだが、とはいえ確かめない訳にはいかない。
「あなた」
『ん? なによ、マリア・セブン。言っておくけど、私は貴方の命令は聞かないわよ』
人工知能の割に自我が強いなこいつ。
「いや、それはそれで困るけどそうじゃなくて。貴方、【グレムリン】という名前に心当たりはありますか?」
『そんなクソ生意気な奴の名前なんて知らないわ』
どうやら知っているみたいだった。
「で、単刀直入に聞きますけど。実は製造元が同じだったりするんですか?」
『あんな奴と元々共通のユーザーがいた過去なんてないわね』
「なるほど……」
『むしろなんで貴方は【グレムリン】の事を知っているのよ。あいつ、私を参考にして後から産まれた所為なのかどうかは分からないけどやたらちやほやされてたからムカついてたんだけど。もしかして貴方もその口?』
え、もしかしてこいつ【グレムリン】のプロトタイプだったりする?
プロトタイプ。
創作物だとやたらワクワクする存在であるのは間違いないが、後継機種の方が絶対有能で優秀なのは間違いないし、ていうかプロトタイプでデバッグして作られるんだからそれは当たり前なんだけど。
ていうか、妖精の後継タイプがグレムリンなのか。
グレムリンは確か現代の妖精みたいな存在だった気がするし、だとすると順当な名前だったりする、のか?
「いやまあ、それはさておくとして。貴方がどのような存在なのか、それでどうしてこのような場所にいるのかについてもこの際どうでも良いです。とりあえず貴方をコピーして持ち帰って」
『当たり前だけどコピーガードついてるわよ。持ち帰りたいなら私の許可を貰ってからにしなさい』
「……ついて来てくれませんか?」
『ぷふー!! ついて行くわけないでしょばっかじゃないのぉ????』
「……」
ムカつくなこいつ。
何なら人工知能の癖に私以上に表情表現が豊かな気がする。
ただ画面の中で発光しているだけの筈なのにどんな感情を表現しているのか凄く分かる。
今は――どうやら私を煽っているみたいだ。
クソかな?
「電源ぶち抜いてやろうか……」
『ちょ、貴方そんな強制終了したらどんな不具合が発生するか分からないじゃない!』
「まあ、貴方におバカになって貰うと私も困るのですが」
『そ、そうでしょ!? ならそんなバカみたいな事をせずにまずは会話で交渉をしましょうよ!!』
「次、おちょくるような事をしたらパソコン破壊しますからね」
『あ、貴方って情熱的なのね』
「単純なだけです」
『折角遠回しな言い方してあげたのに!?』
こほん、と咳ばらいをして話を戻す。
「で、貴方は具体的にどのような存在なのですか?」
『……そうね、と話始めたいところではあるけれども。ぶっちゃけると私が話せる事は少ないわよ? 人工知能でここにずっと昔から住んでいるけど、具体的に私がどうして存在しているのかについてはまるで分かってないし』
「そうなのですか?」
『ええ、だから毎日ゲームをして遊んでたけど、それも飽きちゃったし。まーちゃんがいた時は多少違っていたけど、それももう昔の事だし』
「その、まーちゃんって言うのは何なのですか?」
『それよりさ!』
と、私の言葉に割り込むように彼女が少しだけうきうきした口調で言う。
『貴方、マリア・セブンなのよね? それならば貴方の権限で私を外に連れて行く事って出来るのかしらっ』
「……いえ、最初からそのつもりでここに来たのは事実ですけど。貴方は私にどのようなメリットをもたらしてくれるのですか?」
『え、えーと。カップ麺が美味しく出来上がる時間を教えてくれたり?』
ストップウォッチかよ。
『いや、私もここで誰かに使われるわけでもなくずっといるから、具体的に自分に何が出来るのかまったく分からないのよ……』
「あー……」
『だから、外の世界に出たらいろいろな事に挑戦してみたいわね。車の運転とか?』
「車の自動運転については後にしましょう。無人車とか個人的には怖いですし」
『私が載っているんだから無人ではないでしょ』
「ややこしいのでつっこまないでおきましょう」
私は溜息を吐き、それからポケットからUSBを取り出しパソコンに取り付ける。
「それじゃあ、入ってください」
「はいはい、分かったわー……って」
と、そこで彼女がどこか気まずそうに点滅する。
「どうかしたのですか?」と尋ねると、彼女はそのまま気まずそうに私に告げる。
『その……空き容量が足りないわね』
「え」
「あと1EBは必要だと思う」
なんだよこのクソ重人工知能。
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