第11話
それじゃあ早速目的地へと向かって出発するゼ!
と、行く前にやる事があるのを忘れないでおく。
私の本業は第七支部の管理であるため、それを疎かにしたら原作ストーリー待ったなしである。
いや、ていうか原作の私は私で管理はしていたと思うので、それを怠ったらむしろそれ以上の地獄が始まるような気がする。
さて、管理業というのは子育てと似たようなところがあると思うが、その時何が重要なのかと言うと――ランダム性である。
あるいは子供が良い子に育つために行う秘訣と言うべきか、あるいは大人にセコイ事をさせないようにする業と言うべきか。
人間と言うのは基本的に賢いモノで、自分がどのような行動をすれば得をするのかというのを真っ先に学習するものである。
パブロフの犬とまでは言わないけれども、鈴の音がするあるいは鈴の音を鳴らせばご飯が出てくるといった状況を何度も経験すれば、人は自ずと鈴の音の事を重要視してく事に。
重要なのは、そこにランダム性を与える事だ。
話は逸れるが、ちょっとした小話をしよう。
有名な話だ。
朝三暮四という有名な話だけど、お猿さんは朝と夜に提供される果実の数に対して腹を手ていた。
そしてお猿さんは提供される合計数は同じでも朝に貰える量が増えたら喜び夜の数が減った事に気付かなかったという話だった。
これの教訓についてはさておき、今回の場合は人間なので合計数に関しては間違いなく気づく事だろう。
……気づく、よな?
さて、話を戻そう。
ランダム性の話だ。
人間は学習し、自分が得する事をするようになる。
効率厨とまでは言わない、ただ効率を重視するのは間違いないだろう。
そして賢いのでちょっとした小細工程度では気づかされてしまう。
そこで出てくるのが――ランダム性。
つまり、またここでパブロフの犬の例えをするが。
鈴を鳴らしたとしても、常に同程度の餌を提供するとは限らないようにするって事だ。
鈴の鳴らし方、強さ、回数など、考察するポイントは沢山あるだろう。
それでも、あくまで提供数はランダム。
そうする事によって人間の効率的な行動をするという本能を紛らわす事が出来るのだ。
さて、これが本題の「これから私がしておくべき仕事」とどのように関係しているのかって言うと、とりあえず私は次なる市民達への食事の提供方法として「食事券」を導入しようと思っているのだ。
そしてそれは市民達の行動をカメラによって観測し、それを一定の規則によってポイント化して、それに対応した「食事券」を配布する……という事になっている。
まあ、そんな事はお金も時間もないのでしないけど。
「食事券」はデジタルマネーであり、「とある特別性」を有しているが、それはさておき本来の利用方法としては名前の通り複数枚を消費して食事を食べる時に使う。
毎日の食事は必須である事は確定だが、枚数をコントロールする事により食事の量、質を各自でコントロール出来る。
つまり、これからはお腹が空いていない時は貯め、お腹が空いていて沢山食べたいと言う時は沢山消費するという手段を取る事が出来るのだ。
これは人々の「選択する自由」を与える為の予行演習のようなものであり、同時に思考能力を養ってもらうという意図もある。
……この「食事券」は他人への譲渡を行う事が可能になっている。
表向きだと妻子持ちの夫などの存在に対しての配慮となっているが、いずれ起こる事態については予想出来る。
つまり、「食事券」がお金になるという事だ。
お金と言うものの本質はあくまでトレードの為の対価であり、実際かつて世界では貝殻が通貨として用いられていた時だってある。
価値がある偽装し辛い存在であれば通貨に成りえるのだ。
実際、現代でもとあるお菓子が通貨になってしまったという事態も聞いた事があるし……それはさておき。
兎に角、人々にはお金を使う。
取引をする経験を学んで貰う。
一応、表向きには人々の行動を管理者であるこちら側が観察している事になっているし、実際カメラでの撮影は行っているので、人々が急にカツアゲなどの悪事を働くような事はないだろう。
そもそも悪事を働く脳みそを持っている奴等なんて、それこそ匿名掲示板の連中くらいしかいなさそうだし。
そいつ等だって基本は悪い奴等じゃないしなー、悪い気持ちが育つ事すらない環境だったとも言う。
これからが、大変だ。
人々が平等に不幸せである世界よりも人々が平等に幸せである世界の方が実現が難しい。
それでも、頑張らなくては。
すべては人々を幸せにするために。
あと、あの倒したイノシシはばらしたら結構沢山の人々のお腹を満たせそうだなと思ったけど、流石に危ないので結局燃やす事にしましたとさ。
残念無念……
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