第10話

 極論になるまでもなく効率が重要なのである。


 正直このような状況に陥ってしまった原因というのは極めて単純であり、「外側の世界」が割と平和そうであるからである。

 つまり、頑張ればなんとかなりそうなのが問題なのである。

 ここで「ちょっとこれ無茶して突貫しても無理くね?」のような世界が広がっていたのだとしたら、それこそ他の管理者達も「外側の世界」に手を出そうとはしない、間違いなくしない。

 彼等はマリア・オリジンも含めて論理的かつ効率的、いわゆる非人間的な思考をしている(設定)だったし、だから行動に対してメリットが上回らなければ開拓に出向こうとはしないだろう。

 しかし、「外側の世界」は結構平和だった。

 それこそ「頑張れば結構なんとかなってしまいそう」と思えるほどに。

 そしてそれを知られたら間違いなく彼女達管理者は新たなる価値を求めて開拓を始める事だろう。

 そしてそれは人的資源を用いられる。

 危惧すべき事態である。


 結論。

「外側の世界」が結構平和なのはどうしようもない。

 数時間「外側の世界」で行動をしていた私の肉体に異常はないし――もしかしたらもっと長時間行動していたら違う結果になっていたかもだけど――少なくとも、目に見えた害は見当たらなかった。

 放射線などの汚染ではなかった筈、あくまでこの世界がこうなったキッカケというのは毒素による空気の汚染が主だった筈、これは原作知識だが。

 工業化、後先考えない開発。

 それによって環境が破壊され、そして――って感じ。

 まあ、ディストピア世界のテンプレみたいなものと言われたらそれまでではある。


 話を戻そう。

 兎に角、「外側の世界」は生物的な危険はあれど環境的な脅威は見つからなかった。

 だから開拓される余地があり、その開拓には危険が伴う。

 私がこれから行わなくてはならないのは、その開拓を安全かつ安価に済ます事が出来るようになる事である。

 間違っても人間による手作業の方が効率的となってはならない。

 そうなれば大量の人的資源が投入され、消費される事だろう。

 それだけは阻止しなくてはならない。

 

 では、具体的にその開拓をどのような手段で行うべきなのか。

 難しいけど、まずは機械を作るべきなのではないかな、と原作情報を知っている身としてはそのように思った。

 ゲームにおいて――私はゲームをしっかりプレイした訳ではないけれども――原作の主人公達は機械のジャンクパーツを集めてロボットを作り、それで私達管理者側と戦う事となる。

 そして、そのロボットの要となっているのは、人工知能。

 ……AI。

 この世界がこのようになる前。

 成長期あるいは環境破壊期において人類が作り、そして残した遺産であり、それは今もこの世界に微かに残っているのである。

 主人公達が出会う事となる、物語の始まりそのきっかけとなる人工知能の名前は【グレムリン】。

 それを今後の為に横から私が持ち去ってしまおうというのは、ちょっと出来ない。

 主人公達の物語の始まりはカントーエリア第三支部。

 そもそもここではないのである。

 そこで主人公達は古い廃棄物の処理スペースに足を踏み入れる事となるのだが、という風に物語は始まるのだ。

 

「つまり、もしかしたらここにも人工知能が残っているかもしれない」


 人工知能。

 オーパーツとも呼べるかもしれない産物。

 それをもし発見する事が出来るのだとしたら、人工知能を用いて高度な機械制御を行う事が可能となり、そしてそれは私ないし私達の開拓の手助けをしてくれる事だろう。

 そしてそれが眠っているかもしれない場所は、私が管理者であるからこそ予想する事が出来た。

 このカントーエリア第七支部には端のあたりに主人公が足を踏み入れる事となる場所に似たような区画がある。

 そこは廃棄物の処理スペースではなく、単に廃棄スペースとして今もなお残っている。

 資料として目を通した時は何とも思わなかった。

 画像データもあり、そこが錆びた鉄クズや材質不明のパーツの山によって構成されていて、そしてその区画は金属の壁によって覆われて外から見えないようになっている。

 当初、私は「雑な処理の仕方だなー」と思っていたが、しかし今になって改めて考えてみると、これは違和感しかない事実である。


 ……不思議な事だ、と私は思った。

 管理者達マリアは合理的な存在なのは間違いないし、だから私の前任者もまたそれは同じである筈なのである。

 そんな彼女は、何故かその廃棄スペースをそのままにしてこの世を去った。

 あるいは、もしかしたらそれこそがマリア・オリジンに処理された原因なのかもしれない。


 どちらにせよ、私は向かおう。

 その廃棄スペース。

 ガラクタの山、強者共が夢の痕。

 もしかしたら、今もなお私が求めている人工知能が残っているかもしれないその場所に。

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