第9話
時間を稼ぐ手段は限られている。
あるいは言い訳にも限界があると言うべきか。
ていうかそもそもな話出来る事も少ないというか、私に出来る自由な事は割と多いというか。
私は現状だと一部の制限された区画に留まる事を強いられている、いや、強いている訳だが、しかしだからと言って外部に連絡が出来ないという訳ではない。
普通に考えて外部へと連絡する手段は山ほどあるし、だから極論になるまでもなく、この場所から連絡を待っている――いや、待ってはないか――であろうマリア・オリジンに対してコンタクトを取らない理由にはならないのだ。
まあ、最悪の場合「うっかりしていて電話の持ち込みをしていなかった」とも言える訳だが、しかしこの世の中でメールも出来ない環境に「マリア」である私が長時間居続けるというのは割と大問題になってしまう。
だから、第一の前提として「まず連絡は取らなくてはいけない」のは間違いない。
これに関しては仕方がない。
第二に、連絡をしたとして結果の報告は必須であるという事。
つまりは、お茶を濁すのは難しいという事であるが、多分重要なところはここだ。
言ってしまえば、嘘を吐けるポイントと言うのはここしかないとも言える。
とはいえ舌先三寸の大ウソは吐けない。
それがバレてしまった場合どうなるのかなんて想像もしたくないからだ。
だから、常套手段ではあるが「嘘をある程度混ぜた真実」を報告するという事。
これがやはりベターなのではないだろうか?
そんな訳で、私は早速メッセージをマリア・オリジンへと送る事にする。
文面は普通に「帰還しました」とだけ。
そしてそれを送ってから大体一時間もしない内に返信が返って来る。
『結果報告を』
私は心を落ち着かせつつ、どうにかこちらの予測を上回るかあるいは斜め上な返答が返ってこないようにと祈りつつ、メッセージを返す。
『外部には鬱蒼とした自然が広がっており、おおよそ普通の成長を遂げたとは思えない巨大生物の生息が確認出来ました』
鬱蒼と植物が茂っていたのは事実だし、巨大なイノシシがいたのも事実。
ただ、それがどの程度なのかは言わない。
勝手に相手が勘違いするように、勘違い出来る余地のある言い回しをしておく。
次いで、メッセージを続ける。
『我々カントーエリア第七支部は今後、実験を兼ねてこの隣接している未開拓土地への侵入を続けようと思います。有益な情報を得次第、逐次連絡を行おうと思います』
連絡を行う。
あくまでこちらからの情報が送られてからそちら側は判断をして欲しい。
あるいはそう判断するよう決断をして欲しいと願いつつ、メッセージ。
そしてしばしのお祈りタイムの末、返信が返って来る。
『了解。他支部への実験は貴方が持ち帰って来る情報の解析が終了し次第結論を出すよう指示する。それでは幸運を祈る』
……マリア・オリジンからそのようなメッセージが届いたのを確認し、私はまずパソコンをオフラインへとする。
そしてぐっと脱力をして溜息を吐いた。
と、とりあえず時間稼ぎはこれで継続出来る、か?
そしてこれからが大変だろうし、ひとまずここから安全に外部の未開拓な土地への侵入が出来るよう、技術の開発を進めていくべきだろう。
それは、人的資源を単純に使用するよりも確実でメリットの多い手段ではなくては、他の管理者たちは見向きもしないだろう。
頭の使いよう、あるいはこの第七支部の人々からの助言も借りる必要があるかもしれない。
やる事は山積みだ、だけど頑張らなくてはならない。
私は、この世界の管理者側の人間として、人々を『幸福』に導くという義務があるのだから。
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