第7話 2人だけの決め事、俺知らず

 二人のわけあり美少女を連れて我が本邸へ。


 まずリーシャ様の方は、公爵家の方へすぐさま信頼できる侍女エミリーを伝令にたて、報告に向かってもらった。公爵閣下は血相を変えたそうだが、無事ご令嬢が保護された事を知り、安心されたそうだ。すぐこちらに向かわれるとのこと。 


 とりあえずは、助けられなかったという、一番の問題は免れる感じになった。

 まさかの断罪で即処刑扱いだもんな。晴天の霹靂どころじゃないはず。


 だってリーシャ様は、朝は侍女やら警護やらに付き添われて、煌びやかなドレスで出かけて行ったのだから。とんでもない知らせに公爵閣下も、気が気でなかっただろう。


 リーシャ様ご本人はというと今幾分かは、元気が戻ったのだろうか?


 ただ聖女マール様の方は、全くのノーマークだった。付録でくっついてきた感じだ。申し訳ないがマジで。でもあの場所で放置はできないし。


 今はどうなのだろうか? 正確には追放保留状態?

 この聖女様どういった待遇をしたらいいんだろ?


 今更だけど困っていた。

 それでも、俺は信じている。この聖女様は俺にとっての性……いや聖女であると。


 まず間違いなくあの勇者達は真偽が確認出来次第、聖女マール様のもとへ謝りに来るだろう。

 本物の性女マールは存在するのだから。

 そこでパーティーに戻ってくれと言われても……

 あの森で捨てられる予定だったんだぞ。俺なら死んでも嫌だな。まぁ死なないんだけどさ。


 とりあえず二人に家を使わせてもらう手前、父親には報告は済んでいる。半分は面倒起こしやがってって顔しているが、もう半分はよくやったなってニュアンスなんだよな。


「改めまして、本日は危ないところを救って頂いてありがとうございました」


 筆頭公爵令嬢に深々頭下げられても、困るだけなんだけどな……


「改めまして、本日は危ないところを救って頂いてありがとうございました」


 ――二人に同じ言葉を頂いたわけだが……


 聖女様の方も一つ一つの所作をとっても、気品に溢れていて、決して貴族に負けない優雅さがある。だが同じ言葉をもらっても、俺も父親もどう対応すればいいのか分からない。


 そもそも聖女ってなんだ? 人間のステージに立っていない気がするんだ。従ってこれまた対応しづらいんだ。でも聖女はいいよな、やっぱり……うん、聖女こそ正義、可愛い聖女こそが正義。ただこの聖女様、聖女服がやけに色っぽい。太腿の上までスリットが入っているんだ。これじゃあ、無駄に男の眼を引いてしまうように見えるんだけど。


 今彼女は、ちょこんと座り、首に掛けている猫のペンダントを握りしめている。大事なものなのだろう。


 そんなこんなで、二人とも今は落ち着き払っている。はっきり言って二人とも、とびっきりに可愛い。


 大したもてなしも出来なかったが、二人とも安堵してお互いよく話している。気も合うようだ。

 ただ王子様というキーワードがやたら飛び交っているが、ひょっとして俺の事を、なんだかんだ話してくれてるのかなぁ。いや、女の子はここぞってところで手の平返すからな。俺は騙されないぞ!


 夜更けには、公爵閣下も到着なさるようだったが、俺は二人が休むのを見届けてから、休む事にした。起きていても、出来る事はないからだ。


 翌朝……

 やや頭が痛い。昨日、力を使い過ぎたからとかではない。イレギュラーな二人の美少女。俺には刺激が強すぎたようだ。美少女瘴気にあてられたとみるべきか……。


 朝なんと応接室に公爵閣下がいらした。

 隣にリーシャ様がちょこんと座っている。

 今朝未明に来られて、まだ一睡もしておられないだろうに、俺が起きてくるのを待っていたそうだ。


 さすがに慌てた。


「おはようございます。

 公爵閣下。昨夜はお疲れのところ、お越し頂きありがとうございました」


「何を言う。リーシャから話を聞いたよ! 君がいなかったらと思うと……気が気でないよ」


「あの……俺の方こそすみません。どうしても対外上、あのタイミングでしか助ける事が出来なくて、リーシャ様に怖い思いをさせてしまいました」


「クロード様。大丈夫でございます。あのタイミングだからこそ、お父様は感嘆していらっしゃるのです。思慮の足りない行動は、身の破滅を招きますので……」


「ああ、その時まで流してくれたからこそ、王家に正式に抗議が出来るんだ。全く大したもんだよ! さすがリーシャが惚れた相手だな」


「そうですわよね!」


「……それはどうも……ってはい?

 リーシャ様、俺しがない子爵家のせがれですよ?」


「クロード君、何を言う。

 君だからこそ、リーシャを託せるんじゃないか。そこに家柄なんぞ関係ないさ。リーシャと話して、わたしも目が覚めたんだ」


 まずい……頭痛がひどい。

 あ!

 俺は昏倒した。


「クロード様!」


「…………」


 目が覚めたら、すぐ真上にリーシャ様の顔があった。

 どうやら、膝枕されていたようだ。

 知ってはいたがムッチムチだ。最高のクッションだな。人生終えるなら是非ここで。膝枕好きは、父親ゆずりなんだろうか……女は膝枕で決めろとは、こういう事なのか? きっとそうなんだろうな……


 そして、俺は認めるよ。膝枕を考え付いた人は天才だと言う事を。異論は認めない。


「リーシャ様、ご心配おかけしてすみません」


「いえ。わたしが無理させてしまったのですね。気が付かなくてすみません。でもあんなに喜んでいるお父様わたし初めて見たんです……」


「それにすでにマールちゃんと、今後の事を全て決めてありますの!」


「ああ。じゃあ良かった……って、え?

 どういう事ですか!?

 気になって夜しか眠れません」


「健康的ですね。だから安心してください!!!」


「はい……」


 気圧されて、その時点では聞けなかった。

 ただこの“決めてある事“が、良くも悪くも、俺のその後の人生そのものになる。


 ……予感はしていた。

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