第6話 実は努力家の時空魔法剣士でした
今なら何の躊躇もなく使える時空魔法。
本邸に瞬時についた。
リーシャ様も、聖女マール様も驚き過ぎて、開いた口がふさがらないようだ。
今日の勇者はちょっとあれだったけど……
だけど、勇者かー。懐かしいなー。苦労した記憶が蘇った……
“うちは、しがない子爵家だ。型にはまる人生にする必要はない。お前が後継ぎにならなければ、娶った嫁が継げばいい! ハッハッハ! 薬師は基本器用さ、嗅覚がものを言うからな! それと女は膝枕で決めるんだ!“
こんな言葉を念仏のように言われ続け、貴族特有の空気をまとわないでよいと言われ育った俺は、恵まれていたが、楽なんて後でいくらでも出来る、何か人の役に立つ事がしたい! とは常日頃思っていたんだ……
あれは9歳の時だ。街に買い物に行った際、勇者の凱旋に立ち会った事があった。
何もない俺には、その勇者が光輝いて見えた。
これだ! 俺も世界を救う勇者になりたい!
この年頃であれば、誰でも夢見る最高の栄誉。
俺の人生の道筋を教えてくれる指針になったのが、勇者だった。強い目標が持てた。揺らぐものはない。陰キャな性格の俺は一人で研鑽を始めた。
剣の腕はわざと重量のある鉄の剣を用い、徹底的に鍛えた。勇者の資質は努力の賜物だと聞いていたからだ。ただ一方で、この時点では魔法を覚える術が全くなかったのだが、父親の書斎から一冊の魔法書が発見できたのは
書斎の本棚には、5冊も書籍が並べられていた。
【一から学ぶ薬師の理】
【みてみて! 私こんな立派に育ったよ!】
【目指せ! 性人テクニシャン!】
【あなたも今日から夜の帝王!】
【 】
いろいろ薬師に関する書籍がある中、タイトル記載がないのが気になり、手に取ってみたんだ。
それが魔法書だったんだ。
魔法自体の基礎すら知らないはずの俺だったが、逆にこれだけしか選択肢がないからこそ、成し遂げられた。
なんと一番習得が難関だと言われる『時間魔法』だ。これは貴族学校でも、概念の習得のみの未開発な部分が多い魔法種だった。
このたった一冊の魔法書との出会いが、俺の数奇なる運命を決定づけた。
父親が何かの報酬でもらったものかもしれない。大事に飾ってあったしな。いや、そう言えば……
“今日お色気にゃんにゃんパラダイスで新人がいてな、腰つきのいい美女と、いい感じになって持って帰れたんだ。そしたら、これを持てば、あなたは救われると言うんだ。だからな、奮発して買ったんだ。あとおまけだって言って変な本くれたな“
父親の書斎には、どうみてもただのひび割れたツボにしか見えないゴミが、家宝として飾ってある。
その時のおまけがこの魔法書だったようだ。だって何か、いかがわしいシミがついてるもん。
そう、父親が持ちかえった美女は本物だった。そして、父親はそれを見抜いたのだろう。俺は、この時から父親を尊敬するようになったんだ。
このおまけの本、何も詰まっていない俺の頭には新鮮で難しいと言う感覚すらなかった。
丸5年に及ぶ鍛練で、『時間魔法』の複雑な術式を一瞬で読み解く事が出来るようになり、派生型に『空間魔法』が存在する事を知ったが、新たに魔法書を揃える必要は全くなくなっていた。
街の古本屋でみた『空間魔法』の書が、赤子ですら分かるんじゃないかと自分には思えたのだ。
ここまできてしまうとこの先は自己鍛練だ。自分自身で考え『時間』、『空間』両者の共通項以外を簡素化して術式に転換する。つまり両者の良いとこ取りだけではなく、無駄な部分だと切り捨てられていた部分まで取り込んで組み合わせてみる。
これが、思いの外楽しくて軽く飲まず食わずで丸二日間過ごす事もあった。結果単なる『時空魔法』ではなく、自分専用の『オリジナル時空魔法』を身に付けた。
更にその努力の賜物が生んだ魔法があった。
もし命を落としても心停止をトリガーとして、その事象自体をなかった事にする過去改変を自動的に行い、空間圧縮までも同時に取り入れて過去改変が起こる場所を指定しておく事まで出来る究極とも言える『オリジナル時空魔法』をも自力で開発したのだ。
つまりは術式を脳内に刻んでおけば、不測の事態で命を落とす事になっても、指定した位置で何事もなく復活できると言うことだ。俺はこの究極魔法を【
【
今も欠かさない7年間の訓練がものを言い、実はどの程度に当たるか分からないが、おそらく剣聖をも超える剣術を身に付けている。
【
いわゆる『成長チート』が無意識に出来ていた。心技体全てにおいて壮絶な研鑽の結果、俺は他に類を見ない『時空魔法剣士』へと成長を遂げていた。
パーティーで言えば、前衛が出来る後衛なのだが、『魔法剣士』のように専門職には及ばない器用貧乏ではなく、前衛としては『成長チート』による剣聖超えの剣術、後衛としては『オリジナル時空魔法』の使い手。ありとあらゆるオールラウンダーになっていた。
今では『孤高の時空魔法剣士』として、他の追随を許さぬ形でソロでも難なくやっていく自信はある。課題はこの陰キャっぷりだけだ。
俺が学園生活を送りながら、ここまでになれたのは、どこかの誰かがよく言っていた、“地獄の死の境地を味わう程、俺は強くなるんだ!“ のような死をも恐れない『成長チート』のからくりがあった。
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