第4話 聖女様のピンチ
咄嗟だった。何か嫌な予感がしたんだ。
茂みに隠れ、お姫様抱っこしていたリーシャ様をそっとおろした。なんだか残念な表情に見えるのは気のせいだろう。
茂みの隙間から、足音の方向を見てみた。
「アーク。ここらでどうだ?」
「……そうだな」
「マール! 申し訳ないが、君を今日限りでパーティーから追放させてもらう事にした」
「――えっ? 勇者アーク様! それはあんまりですわ! わたくしの聖女としての貢献ぶりを、いつも誉めて下さっていたではないですか?」
俺と、興味を示したリーシャ様が聞き耳を立てた。
こんなところで仲違いかよ!
俺はソロだから関係ないけど……
そういえばギルド嬢が言ってたな。最近高レベルパーティーでの追放劇がやたら多いって。
だからといって場所が悪いぞ。ここ魔物出るぞ。
ここでの追放は、タチが悪すぎるだろ。
「ここにいるウィザードのミミと、スナイパーのドイルとも話し合って決めたんだ。君は聖女と言う立場でありながら、その豊満な身体を利用して毎晩男を
「違いますわ! アーク様。わたくしは日々お疲れの方々を『聖感マッサージ』で癒しているだけですわ!
決して性女の行う『性感マッサージ』ではないのです。信じてください!」
「だがギルド内でも噂になっているんだ。『華麗な
「アーク。ここで嘘かほんとかを知るには、マールの股を調べれば、すぐわかるんじゃねーか? 本物の聖女ならまだ未使用のはずだ」
ドイルとかいうやつがとんでもない事言いやがった。
やばいやつがいるな。こいつはやばい。
そこで閃いた。む? あれ? マジか。俺は理解した。
それとは別に、リーシャ様が我慢出来ずに飛び出してしまった。
「あなた方! お一人を寄ってたかって虐めて、恥ずかしいとお思いにならないのですか?」
「は? あんたは何なんだ?」
勇者アークは焦っている。
慌てて俺も飛び出した。
「すみません。クロードと申します。ここで狩りしてたら、たまたまここにたどり着いてしまって、俺達まだ何も聞いてないんです!」
「そもそも『性感マッサージ』って何の事ですか? わたしにわかるように説明して頂けませんか?」
「めちゃくちゃ聞いてるじゃないか! 何も聞いてないんじゃなかったのか?」
まずいなー。こじらせないでくださいよ。リーシャ様。
もう……こうなったら。
「あの……そこのマールさんが『性女』ではない証拠ならあります。王都のロジック街のメイン通り三番目の路地を曲がって突き当たったところの”お色気にゃんにゃんパラダイス”に行ってみてください。
そこにいるはずです。本物の『性女』マールさんが。マジですごい技持ってます。病みつきです! だからそこのマールさんは清廉潔白です」
「えっ? そうなのか? それが本当なら俺達はとんでもない冤罪を彼女に負わせてしまった事になる……ミミ! ドイル! すぐ現場に行ってみよう! 本当に技がすごいのかも確かめる必要があるな」
勇者アーク達は、風のように去っていった。
ほっと胸を撫でおろした。
そういえば、マールさんは元気だろうか? あんなすごい技毎日出したら……落ち着いたら行ってみようかな。
「クロード様、すごいですわ。先ほどの魔物といい、今のちょっと柄の悪い方たちを追い払う手立てといい、わたし尊敬致します」
「あのー。わたくしはどうしたらよろしいのでしょうか?」
聖女マール様は、癒しの天使だった。声がバリ可愛い。でも性女マール様も癒しの堕天使だ。
「すみません。俺のせいで状況をこじらせてしまって……でも……それでも……」
「……?」
「これだけは自信を持って言えます。あなたは清楚な聖女様です!」
「……ありがとうございます……わたくし聖女のマールと申します。少なくともあのままでは、わたくしは冤罪を拭えぬまま追放され、ここに放置されていました。お二人とも助けて頂いてありがとうございます」
聖女マール様はピチピチのはち切れそうな聖女服に身を包み、流れるような銀髪の美少女だった。整った口元に藍色の綺麗な瞳。吸い込まれそうだ。
「いえ、わたしも先ほど助けてもらったばかりですので……ここにいるクロード様は、王子様なのです。わたしリーシャと申します。よろしくお願いします」
「――はい? 王子って?」
「あら、わたしを馬車で運んだ騎士の方が、わたしを降ろした時、最後にそう言ってましたの。“安心して! 王子様が来てますよ!“ って」
げっ! 尾行気付かれてたのか……王家の人間だから助けるわけにはいかなかったって事か……俺もまだまだだな。“高慢お嬢様じゃあな“ じゃなかったんですね。すみません、騎士様……
……とにかく、今ここに留まる理由は全くない。二人を安全なところまで連れていく必要があるな。
「では、二人ともついてきて下さい」
「
子爵領本邸周辺の空間と現地点の空間に、それぞれ切れ目を入れ、くりぬき繋げた。
三人で円形の出入口を跨いだ。
そう、時空魔法剣士の俺の真骨頂だ。
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