第2話 眠れない俺
そうして過ごしているうち真夏になり、夏バテなのか俺は朝起きられなくなった。
具合が悪いと上司に電話をすると『甘えて迷惑をかけるな!』と怒鳴られた。
次の日も、次の日も俺は起き上がることができずに、会社に休む旨の連絡をすると電話越しに罵声を浴びせられた。
(仕事に行かないと……)
そう考えると心臓がぎゅうとし、ドッドッと鼓動がうるさい。
もう、息を吸うのも吐くのもつらく、毎晩どうやって眠っていたかさえ思い出せなくなっていた。
俺は仕方なく、重い体を引きずって近所の病院へ行く。
医者には、過労とストレスだと言われ眠れる薬をもらった。
眠れる薬をもらって、仕事をしばらく休ませてもらうことになった。
休んでいる場合ではない、はやく会社へ戻らなければと焦ったが、同時にホッともした。
客や上司に怒鳴られずにすむ。
ただそれを手放しにうれしいとも思えなかった。
(自分は負けたんだ。何にと言うわけではないが、何かに……)
その敗北感は、社会の輪から弾かれたような、寂しさを感じさせた。
*
気慰めだと思っていた薬も、意外に効いているのか少し眠れるようになった。
(睡眠が満たされると腹も減るのだろうか?)
カップ麺もシリアルも、もう底を突いたことが急に気になった。
冷蔵庫にあった賞味期限切れのハムを食べたら、ねばついていて変な味がした。
(残飯をあさっているカラスはこんな感じかも知れない……)
ボロッと両目から涙が出た。
自分が急に薄汚く醜い生き物になったような気がして、俺は嘔吐した。
吐き出したからと言って、この黒く塗りつぶされた感情まで追い出すことは出来ない。
俺は、ただ泣きながら胃液を吐き続けた。
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