【短編】黒いカラスはその翼で

天城らん

第1話 ゴミ捨て場のカラス


 俺が、火曜日にゴミを出すと決まってカラスが先にごみ袋をあさってる。


 黒くてデカいハシブトガラスだ。


 ゴミの中から残飯を探しているのだろうが、あいにくマンションのごみ捨て場にそんなものはない。

 精々あっても、生ゴミだけだ。


(朝からくさいし、気持ちが悪い。勘弁してくれ)


 俺が、自分のゴミを出すためにカラスを手で追い払う仕草をしても、ふてぶてしい奴らは物おじしない。


 ゲーゲーとただ不快な鳴き声を上げながら、少し下がって様子を見ている。

 それは俺を恐れているわけではない。

 自分が食い残した生ゴミをとられないように見張っているだけだ。


(お前らのエサなんかとるわけがないだろうが……)


 そんなことを考えても、カラスに伝わるわけもなく、さっさとゴミを出して俺はその場を後にして出社した。


  *



 初夏と言うのにはだいぶ暑い日が続いている。

 クールビズなどというのは形だけで、入社三年目の営業の俺など恩恵にあずかれるわけもない。


 気温32度。

 背広を着て汗だくで営業先の会社に訪問すれば、同情心を誘っていて浅ましいと言われ、熱いコーヒーを出される始末だ。

 食べそびれた昼食をとるために、コンビニのイートインでパンとお茶を飲んでいただけなのに、仕事をさぼっていたと陰口を叩かれる。

 それだって、見切り品のパンと冷えているだけが取り柄の一番安いお茶だ。


(俺は、何のために仕事をしているのだろう?)

 

 人に媚びへつらい、迎合して自分がない。

 誰も食べなかったパンを食べ、味も分からないお茶で喉を潤す。


(朝のカラスと同じじゃないか……。

 汚くて、くさくて、浅ましい……)

 

 俺は腹の中が、黒くてドロドロしたもので塗りつぶされるような気がした。



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