第16話 野宿1
「疲れた…」
やっとの思いで、フルールは人混みから脱出した。
もう…腕が痛い。
なにもできない…。
―どうして、フルールがこんなにゲッソリしているのかというと。
少し前にさかのぼる―。
♢♢♢
「あれ、フルール・マリアじゃねぇか!?」
「!?」
誰かの一言に、フルールは肩をびくつかせた。
そして、その一言で、いっせいにフルールに視線が集まる。
(最悪だよもう…)
フルールはうんざりした。
そして、もちろん色紙とマジックペンを差し出された。
中には、「色紙を忘れたから背中に書いてください!」という人もいた。
仕方なく背中にも書いたけれど。
フルールがサイン会(?)から解放されたのは、自分がフルール・マリアだということがバレて15分ほどだった。
だから、もう自分の名前を書きすぎて、腕が痛い。
しかも、もう体力的にも限界である。
新しい人が来る前に、フルールはその場を去ったのであった。
♢♢♢
…で、今に至るわけである。
まだ空は明るいが、お日様が西に偏っている。
ちょっと早いけど、野宿にしよう。
そう決めたフルールは、テントを建てる場所を決めようと地図を取り出した。
これは、元から持ってきていたものである。
島全体が描かれているその地図は、細かく書き込まれていた。
「えーと…あ、ここテント建てられるかも」
地図上で林を見つけた。
キャンプ場みたいだ。
よし、ここに決めた。
フルールはリュックを背負い直して、杖を取り出し、そこにテレポートした。
テレポートした先は、もう林の中だ。
予想はしていたが、ずいぶんとひっそりとした林だ。
もう栄えていないのか、人もあまりいない。
見かけるとしたら、2、3人ほどだ。
でも、結構日光は差し掛かって明るいので、まあいい場所だと思う。
明るいうちに、テントを建てよう。
一番広くて、なおかつ日光が差し込むような場所を選んだ。
いったんリュックサックを地面に下ろす。
リュックで熟睡していた水助を起こして、手伝ってもらう。
「水助、ランプとテントの袋取って」
「はぁーん!?俺さまに命令するな!」
「水助、忘れたの?ドラゴンジャムのこと」
「ぐっ…」
ドラゴンジャムに使った銅貨4枚は、完全に無駄となった。
それは、水助のせいである。
水助はなにも言えないという感じで、リュックサックから、旅に出る前日に買っておいたテントの袋とランプを取り出した。
丸い袋に入ったそれは、ただ広げるだけでテントができちゃう、っていう感じのテントだ。
うん、ラクチン。
袋のチャックを開けて、テントを出す。
まんまるに固まっていたからか、なかなかテントの形にはならなかった。
つん、と押してみると、まるでスイッチを押されたかのように、テントの形になる。
あ、なった。
なんという…技術。
中もまあまあ広い。
リュックサックを置いて、外にいる水助に声をかけた。
「水助、枝を拾ってきて。あと、落ち葉も」
「俺さま雑用なんかじゃ…っ」
「ドラゴンジャム」
「うっ…」
水助は、またもや素直に枝と落ち葉を拾いに行った。
しばらくは“ドラゴンジャム”と言えば、言うことは聞いてくれそうだ。
さて、水助が枝と落ち葉を拾っているうちに。
フルールは、ランプに、魔法で火をともした。
ぼんやりと光った火は、小さかったけれど、ほんのり温かかった。
あとは、テントが動かないように固定する。
ペグ…とでもいうのだろうか。
カン、カン、とハンマーペグを打つ。
四角にペグを打ち、これで、テントは動かなくなった。
ふぅ、とおでこに浮き出た汗をぬぐう。
そうだ、晩御飯の準備をしなければ。
ここの林…なんかいるかなー。
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