第15話 ドラニア地方4



「が、がらかったっ…」


ようやっと落ち着いた水助は、ゴクゴクと水を飲み干した。

魔法で水を作ったフルールは、空っぽになったコップに、再び水を入れる。

やっぱり、ドラゴンジャムは辛かったか。

食べなくて正解だ。うん。

水助の体が真っ赤になるくらいだ。絶対辛い。

真っ赤だったぷよぷよの体が、水色に戻りつつある。


「はぁ…えらい目にあった。見た目はおいしそうだったのになぁ。クソッ」


水助は、まだ半分以上も残っているジャムを見て、ため息をついた。



水助の食べたジャムには、ドラニアフルーツ★★★★が入っていた。

★の数が多いほど、辛いという意味になる。

そりゃあ火もふくし、体の色も変わるわけだ。

もう何杯かの水を飲んだ水助は、ようやっと落ち着いたのか、すやすやと眠ってしまった。

(え、寝るの?ウソでしょ、食パンの残りどうしよう)

フルールは、水助の食べかけの食パンを見て、うんざりした。



結局、あのパンは捨てることにした。

食品ロスとかいうけれど、あれは、もう食べたくない。

ドラゴンジャムは…カーラの宿にでもあげよう。


ベンチの上に広がった荷物をまとめ、リュックサックに入れる。


一番上には、眠っている水助をいれた。

「はぁ…」

ほんと、眠ってるばっかりでさ。

まあいいけど。

フルールは忘れ物がないか確認したあと、リュックサックを背負って立ち上がった。


♢♢♢


フルールたちがお昼ご飯を食べた場所は、どうやら公園らしい。


『ドラニア公園』


という看板があった。

特にすることもないので、フルールは公園を巡ってみることにした。

意外と広く、人もたくさん訪れていた。

(結構、人が来るもんだな)

フルールはそんなことを考えながら、天を仰いだ。

すると。


ヤケに人が集まっている場所があった。


その中心には、なにやら像が置いてある。

…なんだあれ。

普通に気になった。

道を外して、真っ先にそこに向かう。


遠くで見たトキとは違って、結構大きかった。


訪れた人たちは、写真を撮ったりしている。

フルールはその人混みの中に入り、像を見た。


…あれ。


(わたし…コイツ、見たことある)


あれ、なんだっけ。


誰だっけ。


考えていると、ふいに目がいったのは、この像の説明だった。

フルールはアゴに手を当てて、ぶつぶつと小さく口に出して読んでみた。


「『この像は、最強のドラゴン・ドラニアです。ですが、ずっと大昔、フルール・マリアというエルフにたった一撃で倒され、今では最弱のドラゴンと呼ばれています。フルール・マリアに会ったらサインをもらいたいですねー!』」


フルールは読み上げたあと、思わずあとざすりした。

マジか……。この像、どっかで見たことがあると思ったら。


結構前に倒した…ドラニア?


だから、ドラニア地方なのか。

「本当に、フルール・マリアって存在するのかしら?ただの迷信じゃないでしょうね」

「分かるわぁ。ウソだったら、色紙を持っている意味がないもの」

…みんな色紙を持っているのは、コイツからきたのか。

全く、誰だよこの石像作ったの…。


フルールは、目の前にある立派な像を見て、ため息をついた。


そのとき。


「あれ、フルール・マリアじゃねぇか!?」


「!?」

誰かの一言で、フルールは肩をびくつかせた。

そして、指を指された張本人は、約30枚にも及ぶ、自分の名前を書くことになる。



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