第14話 ドラニア地方3
(さっそく無駄な買い物をしてしまった…)
フルールは、思わずため息をついた。
この調子でバンバン金を使っていたら…本気で金がなくなる。
しっかり考えて使うようにしよう。
買ったばかりのTシャツはリュックサックに入れて、再び歩き出す。
すると。
くーきゅるるるるー
「…」
…お腹、減った…。
近くに公園はないか。
とりあえず、ベンチでもなんでもいい。
なにか、休める場所…!
昼ご飯は、さっき買った食パンでいいとして。
座って食べたい。
歩きすぎて…足が痛い。
公園を探し求めて歩いていたら、足がジンジンと痛くなってきた。
運動不足だ。完全なる。
キョロキョロとあたりを見回していると。
あ。ベンチ発見!
「水助、あそこでお昼ご飯たべよう」
リュックサックに声をかける。
「どこでもいいから、さっさと座れ!」
やっぱり、どこかナマイキな返事が返ってきた。
♢♢♢
そっと腰を下ろす。
(やっと座れた…)
カーラの宿を出てから、一回も座ってなかったもんなぁ。
ふぅ、と一息つく。
そして、なにやらたくさん入っているリュックサックのボタンを開けて、潰れかけの食パンをゲットした。
「フルール、食パンを焼け」
「はぁ?」
「お前も魔法でどうにかしろ!」
「はいはい」
もう水助の命令口調にも慣れたかもしれない…。
そんなことを思いながら、魔力を手に集中させ、杖を作る。
そして、水助が持った食パンを、じんわり、炎で焦がした。
「焦げたじゃねぇかぁ!なにしてくれとんのじゃぁぁ!」
「いや、仕方ないじゃん…」
焦げちゃったんだし。
「どーせ、水助はさっき買ったドラゴンジャムでも塗るんでしょ」
「なっ…なんで分かった!」
「なんとなく」
フルールは微笑みながら、食パンをちぎった。
(やわらかっ)
あまりのやわらかさに、フルールは驚いた。
「いただきます」
そう言ってから、口の中に入れる。
もぐもぐと噛み、ごくりと飲み込んだ。
やっぱり、食パンはあっためないで、そのまま食べるのが一番である。
やわらかくて、おいしい。
…ちょっと、ぱさぱさしているけれど。
無駄な買い物かとは思ったけれど…あそこのパン屋、これからも使っていくか。
そう思いながら、食パンをひとかじりした。
そして、水助はというと。
ルンルンと、鼻歌を歌いながらさっき買ったばかりのドラゴンジャムの箱を開ける。
中には、プチプチシートと、真っ赤なジャムが入ったビンが入っていた。
水助は、そのジャムのビンをそっと持ち上げて、じゅるりとヨダレを垂らす。
そして、フルールにあっためてもらった(というか焦がされた)食パンを持って―やっと気が付いた。
「あ、塗るスプーンがねぇ…。フルール、スプーン!」
「はぁ~?ぶっかければいいじゃん」
ミケンにシワを寄せて、フルールはそう言った。
ちぇっ。
(じゃあ、自分でなんとかしてやんよ)
水助はジャムのビンのフタを開けて、そのまま、食パンにぶっかけた。
キラキラと輝いているジャム。
見た目は、おいしそうだ。
「いただきまーす!」
水助はそう言って、その小さな食パンにかじりついた。
どんどん食べ進めていく。
その様子を、フルールが少し引いた様子で見ていた。
ドラゴンジャムから、すごいにおいがするのだ。
いいにおいではない。こう、刺激が強いというか、もう辛いのが分かるというか。
やがて、水助は半分ほど食パンをほおばった。
「え、大丈夫…?辛くない?」
フルールも、思わず声をかける。
「フルール!これ、めちゃくちゃうめぇよ!」
あ、おいしいんだ。
だが。
みるみる、水助の体の色が、水色から真っ赤に変わっていった。
思わぬことに、フルールは思わず目を見開いた。
「え、え、え…ちょ、待って、水助?」
「あはははは、フルール、これめちゃくちゃうめぇよ!ゴホッ」
「辛いんでしょ、正直に言いなよ…」
口から炎まで出した水助を、フルールは心配そうに見ていたのであった。
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