第10話 カーラの宿の晩御飯



その日の夕方。

メアとルーラは、フルールのために一番いい部屋を貸してくれた。

ここの宿はベッドもフカフカで、ごはんもおいしく、最高の宿である。

部屋についているお風呂も、いい湯加減で、気持ちよかった。

まだ濡れている髪の毛をタオルで拭きながら、ドライヤーで髪の毛を乾かす。


これから晩御飯だ。


ルーラの作るごはんはとてもおいしい。

スライムの水助も、「悪くない」とか言って、バクバクと食べ進めていた。

なので、フルールと水助は、お昼を食べてから今まで何も食べてこず、晩御飯をとても楽しみにしているのだ。

そろそろメアが呼びに来るはずだ。


ベッドの上に座って待っていると。


コンコン、とドアを叩く音がした。

フルールはほぼ瞬間移動といってもいいくらいの速さで、ドアを開ける。

「わっ、びっくりした。フルール、今から晩御飯だけど。来れる?」

すっかりキレイになったツインテールが揺れる。

「もちろん、行く」

「じゃあ、一階に降りてきて!受付の横に、広い部屋があったでしょ。あそこでご飯食べるから」

「分かった」

メアはそれだけ言うと、忙しそうにベツの部屋に行ってしまった。


フルールは大急ぎで髪の毛をポニーテールにし、ベッドの上で熟睡していた水助に目を留めた。


(マジで寝すぎじゃない?水助)

怖いというくらい眠っている水助をつまんで、起こす。

「いったぁぁ!なにすんだよ!」

一瞬にて起きた水助は、ギロリと、小さな目でフルールをにらんだ。

「ごはんだよ。ルーラさんが作ってくれた晩御飯」

「行く!」

水助は小さな足でジャンプして、フルールの肩に飛び乗る。


初めて、水助がフルールの肩にのった。


(意外と重い…)

肩、こる。

仕方ないので、フルールはリュックサックに水助を入れることにした。


「あぁっ!なにするんだよ!」

「これでよし」


リュックサックの中で暴れる水助を無視して、フルールはドアを開けた。


♢♢♢


一階に降りると、何人か、勇者や魔法使いが集まっていた。

(顔見せると、なんとなくめんどくさくなりそう)

そう考えたフルールは、一番端っこの、目立たない席に座った。


きっと今、作っているのだろう。


奥の部屋の方から、すごくいいにおいがする。

メアも手伝っているのか、メアの姿は見えない。

においからして…肉?

とにかく、すごくおいしいということはもう分かった。


リュックサックがもぞもぞと動き、勝手にボタンが開く。


中から、水助が飛び出してきた。

「すっげぇおいしそうなにおいがする!肉か!?」

「さあね」

「おいフルール!はやく食わせろ!」

「ムリだよ。今作ってるんだよ」

「ちぇっ」

水助は分かりやすく舌打ちしたあと、フルールの隣に座った。

座ったといっても、ただ、そこにいるだけだけど。

しばらく待っていると。


メアの姿が見えた。

手にはおぼんを持っていて、ここからじゃ見えないけれど、湯気が立っているのが見える。


しかも、とてもおいしそうなにおいが部屋を包み込む。

(早く食べたい…)

そう思った途端。


くーきゅるるるるー


「!」

フルールの腹の虫が、見事に鳴った。

その様子を、水助がニヤニヤしながら眺めていた。



「お待たせフルール!一番最後でごめんねぇ」

「ベツにいいよ」

「はい、スライムくんのやつも!」

机の上にのった水助は、目の前のごちそうに目をキラキラに輝かせた。


真っ黒な鉄板にのった、丸いお肉。


「ハンバーグでーす!カーラの宿で人気なメニューの一つなんだよー」

ハンバーグ…。

お肉か。

周りには、コーンやブロッコリー、そしてポテトフライなどが飾りつけされている。

「おいしそう…」

ヨダレが垂れそうになって、あわてて飲み込む。


このあと、フルールと水助は、ハンバーグがおいしすぎて、めちゃくちゃチマチマ食べたんだとか。



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