第7話 襲われた少女2



フルールは、こっそりその場を立ち去ろうとした。

だが、そんなわけにもいかず。

方向を変えて歩き出そうとしたフルールを見つけたその人間が、声を張り上げた。



「そっ、そこのエルフ様!お願いです、助けてください!」



ほぼ泣いているかのような声で、そう叫ぶ。

フルールは歩き出した足を止めた。

振り返ると、人間―いや、少女が、泣きそうな表情でフルールを見ている。

真っ黒な髪をツインテールにしたその少女は、もうゴブリンに捕まりそうになっていた。

かろうじて攻撃を避けているのか、もうボロボロだ。


さすがに、このまま見過ごしたらかわいそうだ。


フルールは、うーんと悩んだ。

…まあ、人助けくらい…やってもいいだろう。

そう考えたフルールは、リュックサックを一度地面に下ろした。

魔力を固め、集中させ、杖を握る。

杖は木でできているが、重く、魔力の強さが感じられる。

フルールは杖を持って、少女に近づいた。

そして、少女に向かって手を差し伸べる。


「ほら、早く」

「あ…は、はいっ」


少女に手を伸ばす。

すると、ゴブリンが少女にしがみついた。

「ひっ」

少女が、思わずというように声を漏らす。

ゴブリンに怯えているのか、フルールの手を掴もうとするが、手が前に出せない。

なかなか手を握らない少女。

「いいから」

フルールはそう言って、少女の手首をつかんだ。

そして、ひょいと持ち上げて、軽々と後ろにぶん投げる。


一瞬、少女には何が起こったのかが分からなかった。


今なにが怒っているのかを把握したときには、もう視界がぐるぐると回っていた。


「…っ、いやああああ!なにするんですかぁぁぁぁっ!?」


再びそんな絶叫が耳を突き刺す。

だが、そんなの関係なしに、フルールは、目の前にいるゴブリン二人に向かって杖の先端を向けた。



「リーズべ」



そう唱えると、杖の先端から無数の光の帯が飛び出す。

ゴブリンは攻撃態勢に入ったが、間に合わなかった。

無数の光の帯は、見事ゴブリンに命中した。

思わぬ反撃に、油断した二匹のゴブリンはそのまま真っ黒となって、チリになり、消えていった。


杖を魔力として分解した。


フルールの杖は、魔力でカタチを保っている。

つまり、魔力そのものの杖、ということになる。

ゴブリンが消えたあたりには、カゴが落ちてあった。

それを拾ってから、フルールは、天を仰ぐ。

(あれ、なにか忘れているような…)

すると。


「おっ、落ちるぅぅぅぅっ!」


そんな絶叫が、後ろから聞こえてくる。

「あ、そうだった」

少女を後ろにぶん投げたことをすっかり忘れていたフルールは、少女に向かって全力疾走する。


「いやぁぁぁぁあぁっ!」


「うるさい」


フルールはそう言って、地面に落っこちる寸前のところで少女を受け止めた。


♢♢♢


「大丈夫?」

「ははははいっ、すみませんでした…っ」


腰が抜けたのか、一回も立ち上がらない。

せっかくのツインテールだったのに、カタチが崩れてしまった。

買い出しの途中だったのだろう。

少女が持参していたカゴには、ゴブリンの大好物のきのこが入っていた。

ゴブリンに襲われた原因は、きっとこれだ。


「これ、ゴブリンの住処によく生えてるきのこだよ。これを取っちゃったから、たぶん怒ったんだろうけど。次から気を付けてね」

「は、はい…すみませんでした」


少女は、しょんぼりと肩を落とした。

「じゃあ、わたしは行くから。きみも、そろそろ帰りなよ」

フルールは置いてあったリュックサックを背負う。

そして、再び歩き出そうとしたら。


「あっ、あの!ちょっと待ってください!」


さっきの少女に呼び止められた。

なんだなんだ、と思って振り返る。


「わたしの家、宿なんです!お礼に、泊っていきませんかっ…?」


おお。

今日は野宿をしなくてもよさそうだ。



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