第6話 襲われた少女



ずいぶんと歩いた。

しばらくすると、町の門が見えてきた。

大きくて、一番上には、この町の紋章が彫り込まれている。

(あそこだ)

あそこを抜ければ、この町を出ることができる。

門を抜けた先には、ただただ、草原と道が広がっていた。


門の前には兵隊たちが立っていて、それを無視して通り抜けた。


だが。

「あのっ、ちょっと待ってください!あなた、フルール・マリアですよね!?」

兵隊の一人が、フルールに声をかけた。

「は?」

思わず振り返る。

兵隊は興奮しているのか、フルールにマジックペンを差し出した。

(ん…?)

何、何をされるんだ。

頭の中がクエスチョンで埋まる。


「昔、ドラニアを倒した最強のエルフですよね!サインください!」


キラキラに目を輝かせたその兵隊は、さらに色紙を差しだす。

(え…サインってなに?)

自分の名前をかけばいいのか、と思い、色紙に、適当に自分の名前を書きつけた。

それを羨ましそうに眺めていたもう一人の兵隊も、おずおずと色紙を差しだす。

いや、なんで色紙持ってんだよ。

ナゾに思いながらも、適当に自分の名前を書いた。

「はい」

二人に色紙を渡す。

二人は顔を輝かせた後、小さくガッツポーズをして、再び仕事に戻った。


「じゃあ、わたしは行くから」


自分の名前をかいたフルールは、門を潜り抜けた。

ほんと、なんだったんだ…。


♢♢♢


やっと、町を出られた。

騒がしくない。むしろ静かすぎて怖い。

そよ風が、フルールの横を通り抜ける。

雑草たちが、風に揺られて踊っていた。


空は晴天。


旅に出るには、とてもピッタリな日である。

(やっと静かになった…)

静かな雰囲気が好きなフルールは、もうあんなうるさい町とはお別れしたかった。

のんびりと、空を仰ぐ。



そう。これからは、静かな日々を送るんだ。



いろんなところを回って、“からっぽ”を埋める。

そう決意して、フルールは再び視線を元に戻した。

だが、フルールの決意した、「静かな日々」は打ち壊されることになる。

フルールは、目の前に広がっていた光景に唖然とした。

視線の先には、なにやら争っているのが見える。

(えぇ…ウソォ)

近づいてみると。

少し先のほうで、二匹のゴブリンがいた。


しかも、真ん中には―。


「ちょっ、やめて、来ないで!」


「やだやだやだっ、キモチ悪い!」


そんな絶叫を上げているのは。


人間…。


今後、絶対に関わりたくない人物であった。



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