第5話 出発



次の日。

再び床で寝ていたフルールは、むっくりと起き上がった。

寝ぐせを直して、髪の毛はハーフアップにして。

服も、パジャマから普段着に着替える。


今日は、運命の日。


…旅に出る、当日である。


昨日、いろいろ買った。

バッグやテント、寝袋など。

食料は、まあなんとかなるでしょうということで買わなかった。

もう準備は整った。

ちなみに、あのスライム用のショルダーバッグは、結構喜んでくれた。


まだベッドの上ですやすやと寝ている水助を起こした。


「水助、朝だよ」

「はぁ~…?まだ寝る…」


寝返りを打って、うつ伏せになり再び寝ようとする水助の体を持ち上げた。

「あぁっ、なにするんだフルールッ」

「目、覚めた?もう出るよ」

部屋は電気もついていなければ、カーテンも開けていない。

水助は、まだ寝ぼけながらも、昨日フルールが勝ってきたショルダーバッグを手に取った。

もぞもぞとショルダーバッグを身に着ける。

うん、似合ってる。

フルールは、昨日買ったリュックサックを背負った。

まだ、リュックサックの中身は軽く感じる。

さっき起きたばっかりなのに、水助は再び寝ようとしていた。

そんな水助をリュックサックの中に入れて、フルールは家の玄関を開ける。


「…いってきます」


そう言って、フルールは玄関のドアを開けた。


♢♢♢


一階に降りて、飲食店のおばちゃんに声をかけた。

二階の家は、おばちゃんが管理している。

「おばちゃん。しばらく、家を留守にするから、よろしくね」

「あら、そうなのね。分かったわ」

おあちゃんはニッコリと笑ってそう言った。

「ごめんなさいね、夜遅くまでうるさいでしょ?何度注意しても聞かなくって」

あはは、と明るく笑うおばちゃん。

「大丈夫だよ。いってきます」


そう言って、フルールは建物を出た。フルールは、適当に町を歩いていた。

(今思えば…どこに行こうか、全然決めてなかった)

ぼんやりとそう考える。

この町のことは、もう、よく知っている。

どうせなら、ベツの町にでも行ってみるか。


そう考えながら、フルールは、町を出ようと歩き始めた。


本当に騒がしくなったと思う、この町は。

前までは、本当に静かだったのに。

朝なのにザワザワと賑わっている町を見て、フルールは、「本当に変わったよなぁ」と改めて言った。


しばらくすると、背負っていたリュックサックがもぞもぞと動き出した。


お目覚めですか、スライムさん。

水助は、リュックサックのスキマから少しだけ顔をのぞかせた。

「フルール、ここどこだ?」

「町だよ。水助はわたしの家に来るまで、ここ通ったんじゃないの?」

「通ってねぇよ。てか、俺さま、投げられてフルールの家に入ったんだし」

「え、本当?窓ガラス割れてなかったけど」

「俺さま、窓ガラスだけはすり抜けられるんだよ!」


きーっ、とリュックサックの中で暴れる水助。

えぇ…そんなスライムもいるんだ、と思いながら、フルールは足を進める。

初めて聞いた。窓ガラスだけ通り抜けられるスライム。


「どこ行くんだ?」

「とりあえず…町を出ようかなって思ってる。ここら辺は、もうよく知ってるし」

「ふーん。ま、町を出たら教えてくれ!俺さまは寝る!」

「へ?あ、ちょっと、」


水助の声が聞こえなくなると同時に、リュックサックが再びもぞもぞと動く。

そして止まったかと思うと、小さな寝息が聞こえた。


(寝すぎじゃない?さすがに…)


わたしだって寝たいのに、と思いつつ、フルールは町の端っこを目指して足を動かした。



―こうして、フルールと水助の、“からっぽを埋める旅”が始まる。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る