第3話 わがままスライム



ミオリネと電話をしていると、だんだんと眠気が増してきた。

「ごめん、もう寝る」

ミオリネの心配性は、電話を切る直前まで続いた。

なにかしゃべっていたミオリネの言葉を遮って、電話を切る。

テレビも消して、電気も消した。

真っ暗になった部屋の中、フルールは布団の顔をうずめる。

しばらくすると、寝息がきこえてきた。


 ♢♢♢


チチチ チチチ


小鳥の鳴き声が聞こえてくる。

カーテンのスキマから、やわらかな光が差し込んできた。

「…うぅ~ん…」

背中が…痛い。

なんでだ…と思いながら、とりあえず、むっくりと起き上がる。

その答えは、すぐに分かった。


床で寝ていた。


「まただ…」

フルールは寝相が悪い。

ベッドの上で寝ても、必ず床で寝ているのが当たり前となってきている。

掛布団ごと一緒に床に落ちたのか、掛布団がフルールの下敷きになっていた。

寝ぼけ眼をこすって、とりあえず掛布団からお尻をどかす。

「…ほこりだらけになっちゃった」

掛布団には、ところどころにほこりがついていた。

洗わなきゃ、とは思うが、…やっぱり、めんどくさい。

適当に掛布団をベッドの上に放り投げる。


窓に近寄って、カーテンを開けた。


明るい朝の日光が、部屋の中を照らす。

(まぶしい…)

なんて思いながら、頭に触れる。

もちろん、いつも通り寝ぐせだらけだ。

洗面所に行こうと、くるりと体のむきを変えると。



ベッドの上には、見慣れない、水色の物体があった。



「…え……?」


思わず、フルールはマヌケな声を出した。

水色の物体…というか、ちょっと透けてる感じだ。プヨプヨしてる。大きさは…スイカと同じくらい。てか、目ちっちゃ!手足ある!かわいい…!

そして、真っ黒で小さな目が、フルールを見つめる。

「…だれ?」

恐る恐る、ベッドに近づく。



「腹が減った。お前、ごはんを用意しろ」



「は?」

命令口調でそう言われて、フルールはポカンとした。

(というか、いつの間にベッドの上に…)

そう思ってる間もなく、その水色の物体はジタバタと小さな手足を動かして暴れる。

「さっさとしろ!じゃなきゃ、このベッド食べるっ」

「え、ベッドは食べないで…」

寝る場所なくなる…。

そんなことよりまず、この水色の物体をどうにかしなければ。

(とりあえず、ごはんを持ってくればいいのか?)

寝室を出て、台所に行く。

今日の朝、食べる予定だったパンを切って、一切れをお皿にのせる。

それを持って、再び寝室に戻った。

「これでいい?」

「まあ、いいだろう」

(何様だよ…)

その水色の物体は、小さな手を伸ばしてパンを手にとった。

そして、小さな口からパンを食べる。

そこから食べるんか…と思いながら、フルールはしばしその様子を観察していた。

それに気づいた水色の物体が、フルールをにらむ。

「お前!エルフだな?」

「え?…そうだけど。きみはなに?水に見える」


「水ぅ!?お前、俺さまの姿を見て、スライムだってこと分かんねぇのか!?」


あ、スライムなんだ。

やっとこさ、フルールは理解した。

確かに、水色の物体で、しかも透きとおってて…。

スライムしかないか。

「ちなみに、きみの名前は?」

「俺さまの名前ぇ?俺さまの名前は水助みずすけさまだ!よーく覚えとけ!」

「水助…なんか、そんまんまの名前だね」

「バカにしてんのか!あぁ!?」

「いや、バカにしてないし…」

正直なことを言っただけなのに、なぜこんなに怒られなければならないのか。

というか、不法侵入ですよ、スライムさん。

スライム―水助は、最後の一口のパンを口の中に放り込んだ。


「ちにゃみに、おまえのにゃまえもきいておこう」

「え?なんて?わたしの名前?」

「そうだ!それいがいにゃにがある!」


まだパンが口に残っているのか、言葉が聞き取りづらい。

(…まあ、どうでもいいけど)

「わたしの名前は、フルール・マリア。エルフだよ」

名前を教えると、水助はまじまじとフルールを見た。

「フルール・マリアか……もしかして、あの最強エルフか?」

「…まあ、そうなのかな」

「ふーん。…まあ、いい」


いいんだ…。


てか、よくしゃべるなぁ、このスライム。

命令口調だし。


…こうゆうのは、わがままスライムと言うのでは…?



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