第11話

「ショウタロウ一緒にドッジしよー」

「龍馬、『祥太郎先生』でしょ! 先生は久美たちとオセロするもんね?」

 

放課後児童クラブの子供たちは今日も元気だ。

こういうところに集まる小学生って内気な子が多いイメージだったけれど、真逆だ。

いろんな大人と接する機会の多い彼らは社交性の塊だ。


「いいよなーお前らは気楽で」

 

俺は二人の頭の上に手を乗せて撫でた。

 

小さいなりにいろんなこと考えているのかもしれないけれど、俺だって大人にこういう風に言われるのはムカついてたけど、大人になってみると子供は本当にそう見えてしまう。あの時の大人たちの気持ちがよく分かった。



「はー、意味わかんねー」


「こーらあんたたち、先生困ってるでしょ。順番に遊びなさい」

 

他の子の宿題を見ている渡瀬さんが声をかけてくれた。


「ふーんじゃあいいもん。りくちゃんでいいからオセロしよ」

「今みんなで宿題してるのー。久美も一緒にしなさい。ほら、こっちおいで」

 

渡瀬さんが大好きな久美は、おとなしく従って渡瀬さんのそばに駆け寄った。


「じゃ、俺らはドッジやるかー」

「お! やったー行こう~」

 俺はゆっくり立ち上がって外へ走り出す竜馬たちの後を追いかけた。






「花房くん大丈夫? 何かあったの?」

 

全員が帰った後、俺と渡瀬さんは締めの作業を始めた。今日は子供の数も少なく、学生も後の予定が決まっている人が多かったので二人だ。


「あーうん、ちょっとね…… 心配かけてごめん」

 

俺は窓の鍵かけ確認をしながら言った。


「話して楽になることがあったら聞くよ。もちろん嫌ならいいけど」

「嫌とかじゃないんだけど……」

 

さすが渡瀬さんだ、気遣いがすごい。

 

 

単純な気遣いだけではないのは、薄々気がついているのだが。



なんとなく、しっとりとした空気が俺たちの間に流れた。

多分渡瀬さんがずっと何かを言いたげにしているからだ。

 

ふと窓の外を見ると、校舎の後ろに茜色に染まった空があった。

陽の光が照らして作り出す雲梯の影が妙に濃かった。



その瞬間、自分の中で何かのスイッチがかちん、と入った音が聞こえた。



「渡瀬さんみたいな人が彼女だったらいいのにな」

 

俺はぽつりと、聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟いた。


「え……そ、それってどういう……」

 

渡瀬さんの声は明らかに高くなった。


「あ、ごめん……何でもない」

 

俺は駆け足で流し台の横の台帳をとり、チェック項目に丸をつけていく。

 

渡瀬さんは静かに台所に近づいた。

薄暗い中でも彼女の顔が赤らんでいるのがはっきりと分かる。

 

水道の蛇口から水が一滴落ちる。俺は生唾を静かに飲み込んだ。



「あの、私、花房くんのこと……か、彼女さんがいるのは知ってるんだけど、でも……」

 

渡瀬さんはもじもじとして、はっきりと言葉にしない。


 

俺は彼女の腕を掴み、引き寄せてキスをした。


「あっ…」

 

俺は初めて会った時のアイコさんの笑顔を思い出して、なるべくそれに近いものを浮かべる。


「花房くん、好き……」

 

そう言って渡瀬さんは俺の首の後ろに手を回し、唇を押し付けてきた。





 

なんだこいつ、ブスのくせにヤリマンじゃねえか。


 

 

久しぶりのセックスはしっかりと気持ちよかった。





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