第2話 ギャルは運動が好き
「うぃーす、百島、さんきゅっきゅ」
「・・・なるほど」
百島大離れの正面玄関で待っていた犬見さんにそんな返事をすると「何がなるほどやねん!」っと突っ込まれる。少し焼けた肌に焼けてない部分が服の下に見える、そして人なつこい笑み。何処となく柴犬っぽい。
「申子から聞いたで。なんか今日はヤバい感じなんやろ?うわ、わくわくするわ」
「恐れ知らずでですね」
「あたぼうよ、こちとら体育会系だからね」
力瘤を見せてくるのでやりますねとだけ言うと「何がやりますねやねん!」とまた頭を叩かれる。別に関西の人では無い。だったらなんなんだと思う。
「ってか申子と二人っきりだったんやろ。もしかして・・・二人で・・・うわ、スケベやわ!!」
「いや、特には。スマブラなどをしました。ドンキーを使って相手を掴んで自滅するなどしたらぶち切れられました」
「・・・百島ってほんと話すと面白いんよな。想像よりもカスで笑ってしまう」
犬見さんがにひひと笑うのを見て俺も一応笑うが「不気味やけん、辞めとき」と言われる。なんなんだこの人は。
「お、ようやく玄関。ではお邪魔しますね・・・」
「スリッパです、ちょっと他の準備しますね」
「いや、邪魔するんなら帰ってって言わんと!!」
犬見さんを無視しながら玄関口に置かれた提灯を手に取る。その中にある蝋燭に火を付けるとふわっとした明かりが灯る。百島屋敷、その奥に向かう道は酷く薄暗い。そして、これもルールである。
【百島屋敷の廊下に灯る明かりは一つだけ】
「じゃあ、行きましょう。奥の部屋に申子さんはいます」
「・・・分かったわ、なあ、腕掴んでもええ?」
「はい、どうぞ」
俺が手を出すと少し照れて「なんでやねん・・・」と言いながら手を繋いでくる。でもこれの方が安心である。俺と犬見さんは共に俺の自室へと向かう。怯える彼女、それでもわくわくしている。
そりゃそうである。彼女達は肝試しのためにこの家に来ているのだ。
――――――
数週間前。
「申子から写真貰ったけどめっちゃデカいやん、家!!」
校舎裏で飯を食っていると犬見さんが話しかけてくる。走ってきたからなのか汗ばんでおり、首のタオルで顔を拭いている。
「まあ、色々事情がありまして」
「庭もクソ広いし・・・じゃあバーベキューとかキャンプとかも出来るやん。後、池。あれって泳げる感じなん?」
「汚いですよ。まあ大離れの奥にプールがあるのでそっちなら掃除すれば」
「うぃひーーー」
ご機嫌な犬見さんが肩を組んでくる。胸がバンバン当たってくるので当たってますよと言うと「当てて上げてるんよ!!」と元気に言われる。そうですかと答えるとまた頭を叩かれる。
「いやでも、マジで居座るつもりよ。私達三人。あんだけデカい家なら部屋の数個使わせてや?」
「・・・それはおすすめしません。使えるのは俺がいる部屋だけですね」
それを言うとなるほどねと更に肩組んでくる。もう胸がぶつかり過ぎて痛いぐらいである。ただもう止められないので俺は更にパンを口に入れる。
「百島・・・分かったわ。私達がちょっとぐらいならエッチなことしたる。それで部屋貸してくれるやろ。こう・・・挟んだりしてやるわ、あと揉ませたる。・・・まあ入れるのはちょっとしてからになるけど・・・初めてやし」
いや何言わすねんと突っ込みを入れるが俺は黙って彼女の方を見る。真剣さが伝わったのかしゅんと肩をすくめる。やっぱ柴犬っぽい。
「正直、皆さんが遊び半分で来るのは分かってます。肝試しの延長で泊まるつもりなのも知ってます。それでも、もう知った以上は守ろうと思います。なので部屋は無理です。多分守れなくなります」
「へえ、かっこええやん」
このこのと突いてくる。俺はなるほどとだけ言って受け止める。
「まあ、元々片っ端から人呼んで貰って全員生け贄にしてやろっかなと思ってたので利用するしないはお互い様って感じですね」
物騒すぎるわと突っ込みを入れる彼女だが俺が一切表情を変えないので「まじ?」と質問してくる。
はいと言うとちょっと距離を取られる。正しい判断と言えた。
――――――
「・・・暗すぎるわ。なあ、もっと明かり強くしてや」
「大丈夫です。道は分かっています。それに今日は離れが騒がしい。目立つことすると目を付けられます」
手を繋いでた犬見さんは更に腕を掴んで最後には抱き付いている。歩きにくいがまあ下手に距離を取られるよりはいいだろう。暗闇を照らして、一歩また一歩と進む。
無限に続く様に思える廊下。窓は無い。ただ木造が続いている。また握る手が強くなる。そして小さく震えている。
「・・・犬見さん、やっぱ戻りますか?家まで送りますよ?」
「だ、大丈夫やって。もう泊まりの連絡してるし、それに申子や雉野だけで泊まらせたら・・・それこそ二人に好き勝手されちゃうやろし・・・行くわ!!」
彼女の言葉を受け取り、俺は更に足早に歩を進める。どんどんと彼女の為に少しでも早く進む。あと少し、あと少しで部屋に着く。
「もう少しです」
「ほんと、良かったわ、なあ?」
犬見さんの声は俺に向いていない。俺はすぐさま彼女を抱き寄せて口を塞ぐ。そして、彼女が握っているものを見る。それは手。それもボロボロに痩せこけた手。それが闇から生えている。
「犬見さん、ゆっくりと離して下さい。そして、俺に体重を預けて」
うんうんと頷きながら言われたことをする犬見さん。手はそのまま闇に消える。一安心だが気は緩めれない。彼女の口を封じて、抱き寄せたままふすまを開け部屋に入る。
そこは俺の部屋である。
そこはかなり広く畳に木造の襖や柱がある古風なもの。そこにゲーム機やパソコン、TVなどが転々と並んでいる。その中心でスマブラをしていた申子さんは俺達を見て「あ!!」という。
「お前さ、そのなんだちょっと引っ付きすぎだろ?早く離れろよ!!」
もう安全圏、申子さんの言うとおりである。
距離を取り、口を押さえてた手を離す。少し唾液が付いてて粘ついている。少し赤らんだ彼女の背中を撫でる。申子さんが「おい、百島!!近すぎるぞ!!」と文句を付けている。
気難しい人である。
――――――
【百島屋敷の廊下に灯る明かりは一つだけを破った場合】
「ども!!配信者のぷすまでーす。今日はあの有名な百島屋敷に潜入しました」
真っ暗な廊下。
「いやー暗いっすね。スタッフー、スタッフーーーー、明かり付けて!!」
明かりが複数輝く。どたどたどたどたと足音。
「え?」
足音ではなく手音。手形が廊下に付いている。そしてそれが配信者・スタッフの体を登ってそのまま顔までたどり着く。
「は?」
その声と同時に全員の首が360度ねじ曲がる。
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