ギャルの溜まり場になってる俺の家は変な間取りの幽霊屋敷

床の下

第1話 ギャルが家に住み着いてる

「百島、帰るぞ」


「ああ、すぐ行きます」


 放課後、教室の外からそう言われていそいそと荷物を片付ける俺を見て男子生徒達が集まってくる。


「なあ、お前・・・あの人、申子さんだよな・・・つ、付き合ってるの?」


「いや?まあ、ちょっと色々ありまして」


 昔から友達はそう多くなく、人と話すことも殆ど無い。高校になっても変わらず、周りの男子生徒達、今日初めて話した。まあ、よくある陰キャという奴である。


「いや、それにしては何か親しげだったし・・・」


「なあ、申子さんって言えば・・・結構不良って感じでさ・・・なんか怖いイメージあるというか」


「もしくはカツアゲされてるとか?」


 皆が口々に言う中、俺は「はあ?」「まあ?」と気の抜けた調子で言い続ける。その中でも中心的な人物が少し大声を上げる。


「いや、でも百島のことだからマジで揶揄われてるだけだって」

「そうっしょ」

「やる気なさそうだし、パシり扱いされてんじゃない?」


「・・・まあそんなところです」


 俺がやる気なさげにそう言うとハッと鼻で笑われてカラオケ行こうぜと去って行く。助かった。既にみんなもそういう空気になっている。俺は足早に荷物を持つと教室から出て行く。


 そして、門の所には彼女がいた。


 制服の上にジャージ、スカートの下にもジャージ、地毛の金髪に顔こそ綺麗だが異様にキツい目つき。申子さんである。何処となく猿っぽい。


「おせえよ、行くぞ。」


「了解です。他二人はどうしたんです」


「犬見は部活、雉野は図書館で本借りてから行くって、二人とも真面目だねぇ」


「申子さんが暇なだけでは?」


「あっ?」


 尻を蹴られる。そのまま彼女と共に二人で向かうのは俺の家。別に付き合っている訳では無い。ただ、彼女達の溜まり場になっているだけである。


――――――


 話は数週間前に遡る。


「あんた、一人暮らししてるってほんと?」


 いつも通り、校舎裏で飯を食っていると隣クラスの申子さんがそう聞いてくる。驚きもせずもそもそとパンを食いながら「まあ?」というとハキハキ喋れよと背中を叩いてくる。痛いね。


「じゃあさ、じゃあさ、常に誰もいないって事だろ?」


「じゃなきゃ一人暮らしとは言いませんね」


「揚げ足とってんじゃねえよ。まあいい、なあ、おまえんち今度行っていいか?頼む」


 理由は碌でもない事だろう。多分、友達呼んで遊べる場所でも探してるのだろう。最初は単に探索だけだろうが徐々にバーベキューだのパーティーだのやって男を連れ込んで最終的にはヤリ部屋ならぬヤリ家になると相場が決まっている。


 望むところである。むしろこっちからお願いしたい。


「いいですよ、というか好きなときに遊びに来て下さい」


「マジかよ、いやー持つべきは同級生、じゃあさ、友達も連れてきていいか?」


「構いません、どんどん呼んできて下さい。もうしっちゃかめちゃかにしましょう」


「・・・お前、案外面白いんだな」


 そりゃどうもとお辞儀をして連絡先などを交換する。そして、去って行く彼女を見ながら俺はまたもそもそと食事をする。色々説明しないとなと俺はポケットからメモ帳を取り出す。


 それはあの家のルールブック。これ無しでは住めない。それをペラペラと捲っていると・・・目の前に足が見える。ボロボロの裸足。目を軽く閉じる。


 いない、いない、何もいない。


 おまじないをすればいつも通り消える。だから俺は誰とも一緒に飯が食えない。見えちゃいけないものが見えてしまう。


――――――


「相変わらずクソデカ、屋敷というよりちょっとした村じゃん」


「本屋敷に倉二つにアパート一つに一戸建て二つ、池が一つに井戸一つ・・・確かにちょっとした村ですね」


「ねえ、あんたってやっぱクソ金持ちなんでしょ、百島きゅーん。末永く一緒に遊ぼうねー」


 うきゃうきゃと言う申子さんと「ええ、まあ?」と気の抜けた返事をする俺。目の前には巨大な木造の大門。


 そのまま二人で正面から入る・・・訳無く、横扉から入る。これがまず一つ目のルール。


 【百島大離れに入る際は必ず隣扉から入る】


「じゃあ、行きましょう」


「おう、先頭は頼むぞ!」


「ビビらないで下さいよ」


「ビビっとらんわ!」


 庭先で尻を蹴り上げようとする申子さん。だが「ひぃ」という声が聞こえる。俺はその方角を見る。そこには草陰、そこの下から足が見える。ボロボロの裸足。俺は申子さんの肩を抱き寄せて耳に口を当てる。


「同じ事を言って下さい」


「は、はい」


「いない、いない、何もいない」


「いない、いない、何もいない」


「いない、いない、誰もいない」


「いない、いない、誰もいない」


 そして、彼女の顔に手を当てて目を閉じさせる。俺も目を閉じて、同じ事を二度させる。目を開けるとそこには・・・足は無かった。これは初めてである。いつもなら音や気配だけ。実体が他の人に見えるなんてあり得ない。


「申子さん、お二人に連絡を入れて下さい。俺からより申子さんの方が怖がらせずに済むと思います。必ず敷地に入る時は一報をお願いします。俺が迎えに行きます」


「わ、分かった。・・・でも、ちょっと、離れろ」


 ああ、と少し距離を取る。顔を少し赤くしている。猿っぽいなと思うが別に口に出してないのに察せられたのかぽかぽかと殴られる。これだけ元気なら大丈夫だろう。


「じゃあ、行きましょう。それとも帰ります?送りますよ?」


「大丈夫、今日は泊まり着も持ってきたし、親にも連絡したし・・・行くぞ!」


 うおお!と声を出して威嚇している。これなら大丈夫だろう、俺は彼女の手首を掴んだまま、屋敷の扉を開けた。


――――――

 【百島大離れに入る際は必ず隣扉から入るを破った場合】


「ここじゃね?あの有名な幽霊屋敷」


 不良数人。


「うわ、門でっか、これさ、開くんか?」


 ガンガンと蹴りを入れる。


「横の扉開きそう、ってかインターホンあるじゃんwwwウケる!!」


 ボタンを押しまくる。だが返事は無い。


「やっぱ人住んでねえんじゃね?だってめっちゃ人死んでるんでしょ?この屋敷」


「ってか、この屋敷内の建物全部で人死んでるらしい」


「ウケる」


「おい!!!正面扉開いたぞ!!横から入るってだせえって」


「分かるわ、これって絶対正面からだよな」


「男なら前、前からずんずんと」


 ズボンを脱いで腰を突き出しながら正面門から不良一人が入る。


「おい!!面白すぎる!!って!!」


「もう一回頼むは動画撮るから!!」


 正面門から入った不良の動きが止まる。後ろから分かる程、白くなっている。


「ど、どした?」


「なに、なに?ビビらせようとしてるん?」


「足」


 そう言った瞬間、不良の体が吹き飛ばされる。数件先まで飛ばされて地面に衝突、首では無く頭がへし折れている。そのまま絶命。


「あ?え、やば、き、きゅ、きゅう、きゅう、きゅう」


「110?119?どっちだっけ」


 騒ぐ不良を余所に扉は勝手に閉まる。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る