第3話 ギャルが集合する

「二人とも来るの早すぎるって、暇なの?」


「暇じゃねえよ、百島がどうしても早く来いって言ったの」


「言ってないです」


「私も同じくやな、部活切り上げてさっさと来て下さい、さみしーよーってラインが送られてきたから仕方が無くやね」


「送ってないです」


 雉野さんを部屋に連れてきたら二人が嘘を吹き込み始める。そんな調子を見て呆れている雉野さん、そのままゲームをする二人の間に入って持ってきた本を読み始める。


 犬見さんの茶髪や申子さんの金髪とも違う真っ黒な長い髪、手足もすらりと細くモデル体型とはまさに彼女の事を指すのだろう。だが、その顔立ちは猛禽類を思わせる鋭さがある。つい迫力負けしてしまう。


「そんなところで棒立ちしてたら寒い、早く入ってきて」


「はい」


 扉を閉めて部屋に入るとうんうんとこっちに来いの合図をする雉野さん。俺は言われるがまま来ると足を突き出してくる。


「揉んで、疲れた」


「あんたね・・・百島やることないよ」


「雉野ってさ、ちょっと心開くと滅茶苦茶甘えるんよね」


 犬見さんと申子さんが呆れる中、俺は別段減るもんでもないと揉み始める。確かにこっているのかくるぶし辺りが固まっている。ぐにぐにと回転させるとお、お、おという声を出す雉野さん。鶏みたいだ。


「ちょちょっと、あ・・・あ・・・そこをぐりっと・・・そうそう・・・そこを捻ると・・・あーすごい」


「・・・自分の恥部を弄らせてるの?」


「聞いてるこっちが恥ずかしくなるんやけど」


 ゲームを中断して二人が俺達を見る。どんどん慣れてきて彼女の足首はすっかりと解れている。


「運動もしてないのにこんなに凝ってるの。逆に凄いと思います」


「う、五月蠅い、昔っから体が硬いの。しょうがないでしょ」


 ゲシゲシと蹴られるがその全てを手で受け止める。申子さんや犬見さんと違って速度が無い。それを見て二人ともあほくさと言いながらゲームに戻る。会った時もこんな感じだった。


――――――


 数週間前。


「あんたさ、あの幽霊屋敷に住んでるってほんと?」


 校舎裏でパンを口に入れようとした瞬間、また話しかけられる。俺はいつになったらゆっくり飯が食えるんだ。そんな気持ちを知ってか雉野は「食べていいわ、勝手に話すから」と言ってくれる。物分かりがいい。


「その感じだとほんとって事ね、なるほど、だからあんたそんな辛気くさい顔してるって訳だ」


 もそもそとパンを食ってると「なんか言って」と脇を突いてくる。滅茶苦茶言う。急いで飲み込む。


「いや、辛気くさいのはあの家住む前からです」


「へー、そうなんだ。でも、なんかに取り憑かれてる顔してる」


 へー察し良いと思い、少し雉野さんの方を見る。やっとこっち見たと言いながらししと笑っている。こりゃ勘違いする人間もいるなと思いながらパンを食う。


「人の顔見ながらパン食うな」


「パン食ってる時に話しかけるからですよ」


「屁理屈」


 ぺしぺしと肩を突いてくる。やけに距離感近いな。そう考えているのが分かったのか。顔を覗き込んでくる。


「私はね、申子や犬見みたいにあんたの家に興味がある訳じゃ無いの。私はあんたに興味があるの」


「はあ?」


「・・・あんたさ、自分で言うのもなんだけどかなり可愛い女の子に興味あるんだよねって言われたらもっとはしゃぎなさいよ」


「本当に自分で言うんですね、可愛いって」


 生意気だ!と更に叩かれる。だがパンも食い終わったのでそれらを手で払う。


「ふん、じゃああんたが驚く事言ってあげる。ねえ、あんたってさ。あれが見えてるんでしょ」


 雉野さんは草むらを指さす。ごそごそと揺れたその間から子供の顔が覗いている。不健康な薄茶色の白い肌、そして目はどよんと濁っている。全身に鳥肌が立つ。ゆっくりと雉野さんの方を向く。


「見えてるんですか?」


「驚いた?霊感あるんだよね、私。ねえ、あれってあんたの屋敷の幽霊とかなの?」


 俺はゆっくり立ち上がると雉野さんの耳を塞ぐ。なになになにと言ってるが俺の力の強さと見上げて見えた俺の顔で何となく分かったのか黙っている。


 お昼休み、明るい空の下、それはゆっくりと草むらか顔を出す。首から下が無い。


 生首が浮いている。


 それは声を出す。


「その子、来たいていったね」


 無言。


「連れてきてあげて」


 無言。


「私の部屋にも来ていいよ」


 無言。


「ねえ、お話しよ?」


 無言。


 そして、飽きたようにそれは消える。ゆっくりと手を離す。雉野さんの方を見ると軽く震えている。それをゆっくりと抑えながら彼女を振り向かせる。息が少し荒い、俺は目を合わせて深呼吸する。彼女も無意識にそれに合わせる。


 息が落ち着く。


「あれなに?」


「詳しくは話せません。でも、あなたは招かれました。来なかったら不味いことになります。怖いかも知れませんがうちに来て貰います」


「二人も呼ばれたの?」


「いえ、ただ気に入ってるし来て欲しいと言ってました」


「あいつと会話したの?」


「いえ、出来ません」


 俺は百島大離れルールブックの最初の一文を思い出す。


 【■▲●と会話してはいけない】


――――――

 【■▲●と会話してはいけないを破った場合】


 死ぬ







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