第13話 人は見た目で判断するもんじゃないね


成瀬:ヴァリエーレの屋敷


 私たちはヴァリエーレさんの屋敷にいた。ヴァリエーレさんのお父さんと遭遇した時、ヴァリエーレさんは何か言おうとしたけど、向こうが一緒に来てほしいと言われたため、私たちも屋敷に行くことになった。横にいる剣地は、ヴァリエーレさんのお父さんを見てから、少し顔色が悪くなっている。


 気持ちは分かる。あの目や体形を見ると、猛者という雰囲気が溢れ出ている。いくらすごいスキルを持った私と剣地でさえ、この人には勝てないという気持ちになる。


「ヴァリエーレ、部屋でヨキル君と話をしてきなさい。二人だけでな」


「は……はい……」


 白いドレスに着替えたヴァリエーレさんは、怯えながら返事をし、部屋から出て行った。緊迫した空気の中、ヴァリエーレさんのお父さんは、どっこいしょと言いながらソファーに座り、私たちにこう言った。


「あー、緊張しなくていいよー。楽にして構わん」


「え、あ、はい」


 言われた通り、私とルハラは楽な座り方をしたけど、剣地はまだ緊張していた。


「ちょっとプレッシャー与えすぎたかな……メンゴメンゴ。お客や娘の前だと真面目な父を演じちゃうくせがあるのでねー。これがわしの悪いくせ」


 あ、あの目つきはくせだったのね。それよりも、この楽な状態が素の状態なのか。かなり話しやすくていい人だ。


「君たちのことはヴァリエーレから聞いているよ。腕のいい異世界の戦士だってね」


 と、笑いながらそう言うと、急に真面目な顔に戻ってこう言った。


「実は君たちに頼みがある」


「頼み?」


「ああ、頼みというのは、ベロラーダ卿の本性を暴くことだ」


 この話を聞き、剣地が真っ先にこう聞いた。


「どうして娘の結婚相手の親御さんを調べるのですか?」


「理由がある。実はこの結婚、向こうが勝手に頼んで来たのだ。わしとしては、娘は自由に恋愛させて自分にあった奴と結婚すればいいって思っていたけどね。だけど、あいつらはわしのプライベート写真を使って脅迫してくるのじゃ。ヴァリエーレと結婚させなければ、風俗店で遊びまくっているのをメディアに伝えると」


「はぁ」


「一応ペルセラゴンで有名な家だから。その当主が風俗店に出入りしているとなると、世間から相当パッシングを受けるのじゃ。噂では向こうは相当悪いことをして金を稼いでいる。この結婚も、金のためじゃ。わしがあいつらに何かあったら金を出すだろうと、あいつらは考えているんじゃろう」


 この話を聞いた剣地が、立ち上がってこう言った。


「分かりました。では、その依頼を受けます」


「おお助かる」


「で、報酬ですが、ヴァリエーレさんを貰ってもいいでしょうか?」


「つまり、娘と結婚したいってわけか」


「はい。実は向こうから告白されました」


 と、剣地は言っているのだが、ヴァリエーレさんのお父さんは私とルハラを見た後、剣地にこう聞いた。


「君はすでに妻を持っとるのかね。しかも二人。羨ましい」


「はい!」


「そんな状態で、ヴァリエーレと結婚したいと?」


「はい!」


「君は正直な男だな。その言葉に嘘はない」


 ヴァリエーレさんのお父さんは剣地の耳元に近付き、何か言った。だが、小声で何を言っているのか分からない。話し終えた二人は、互いに拳を軽くぶつけていた。


「ねー、何て言ったの?」


 ルハラがこう聞くと、剣地はピースサインを作ってこう言った。


「この依頼が終わったら、ヴァリエーレさんも俺の嫁だ」


 どうやら許してくれたみたい。流石に私以外に剣地の嫁が増えるとなると、少しムッとなる気持ちもあったが、ヴァリエーレさんの気持ちを考え、まぁいいかと思った。




ヴァリエーレ:ベランダ


「では……失礼します」


 ヨキル氏が、おそるおそるベランダに入って来た。態度がでかいベロラーダ卿とは比べ、あまりにも態度が謙虚だ。


「紅茶を用意しますので、少し待っていてください」


「僕がやります。紅茶を入れるのは得意なので」


 と、ヨキル氏は私の代わりに紅茶の支度を始めた。しばらくし、私の前にヨキル氏が淹れた紅茶が出された。一口飲んでみたが、とてもおいしかった。


「おいしい……」


「この紅茶、淹れるのにコツがいるのですよ」


「そうなんですか」


 この会話を皮切りに、話が始まった。話をしているうち、私はこの人のことを理解することができた。


 ヨキル氏は、この結婚に対してあまり快く思っていない。父であるベロラーダ卿が私の父上の弱みを握り、無理矢理結婚させようとしているのだ。何でもかんでも自分勝手に話を進め、違法な手段で儲けているベロラーダ卿を見てきたヨキル氏は、父親に反抗したいと思っている。


 だが、相手は父であり、金で得た強大な権力を持っている。この状況では、何もできないのだ。


「どうすればいいのか僕自身分かりません。ギルドに父の悪行を暴くよう依頼をしても、ギルドは父のことを恐れ、話を聞いてくれません」


「確かにそうですね。ベロラーダのような男だと、ギルドを潰す力もありますし」


 ギルドに連絡できない。裏で手を回すことしかできないのだろうか。そんなことを思っていると、下から声が聞こえた。


「ちょっと、ちゃんと飛んでよね」


「重くてまともに飛べない……ウゲッ! 殴るなよ成瀬……二人を背負って飛んでるんだからよー」


「ファイトだよ旦那さまー」


 ケンジたちのようだ。どうやら、ここまで飛んでくるつもりだろう。しばらくすると、辛そうな顔をしたケンジと、ナルセとルハラが現れた。


「はぁ……疲れた……」


 ケンジはスカイウィングを解除し、その場に倒れた。ケンジはその状態で、私にこう言った。


「ヴァリエーレさん。話はお父さんから聞きました」


「無関係の私たちがベランダに入るのはおかしいと思われるので、こっそりと空から飛んできました」


「力になるよー」


 その後、私はナルセから話を聞いた。どうやら父上もこの結婚は反対らしく、ベロラーダ卿の悪行を暴くように内密でケンジたちに依頼したらしい。


「私たちがあのおっさんの悪行を暴きます。それまで、ちょっと待っていてね」


 ルハラがそう言い、ケンジたちが部屋から出ようとしたが、ヨキル氏が待ってくれと叫んだ。


「一度、僕の家に来てほしい。そこで、作戦を練ろう。ただ闇雲に突っ込むだけじゃあ、父さんの悪行は暴けない」




剣地:ギルドの自室


 その後、ヨキル氏がベロラーダに自分の家でヴァリエーレさんと話がしたいと伝えると、ベロラーダは喜んで快諾した。こいつ、ヨキル氏の家でヴァリエーレさんとヨキル氏がイチャイチャすると思っている。と、俺は心の中で思った。


 ヨキル氏の家へ向かうのは翌日になった。家はロイボの町から離れた所にある。車で大体一時間半ほど。道中にはモンスターが現れるため、夜に出掛けるのは危険とのこと。雑魚相手なら俺たちだけで何とかなるだろうと思ったけど、ヨキルさんにはモンスターとの戦いの経験はないし、夜だからクロウアイのスキルを持っている俺以外、闇夜での戦いには向いていない。今日一日は話し合いで神経が疲れたから、休んでスッキリした後、ヨキル氏の家で話すのもいいなと俺は思った。


「ふぁあ……話が続いたから喉が渇いた……」


 俺は喉の渇きを察し、水をコップに入れて一杯飲んだ。そんな中、成瀬が何かの本を読んでいた。そう言えば、帰る途中に本屋によって何か買っていたな。


「何か買ったのか?」


「ベロラーダ卿に関する本。見てこれ、結構出ているわよ」


 成瀬は机の上に置いた何冊かの本を、俺に見せた。全部、ベロラーダ卿に関する暴露本とか裏のことを書いた本だった。


「うわー、こんなに暴露本あるのか」


「それ以外にも十冊は売られていたわよ」


「あのおっさんは結構悪いことをやっているようだな」


 俺は上にあった本を取り、中を読み始めた。そこには、ベロラーダ卿が過去に行った犯罪などが細かく書かれていた。あのおっさんがやったのは恐喝、詐欺、インサイダー取引、賄賂、未成年との淫行など、日本でもあったような犯罪に加え、奴隷売買、裏ギルドへの依頼など、異世界ならではの犯罪行為も書いてあった。しかし、いくら暴露本で書かれたとはいえ、これが本当なのか読者には分からない。もしかしたら、ベロラーダ卿の仕事敵がベロラーダ卿の評判を落とすために出版した本かもしれない。


 まー、本を読んであれこれ考えるよりも、実際に犯罪行為の証拠を見て、判断するしかないな。俺は本を読み終え、こう思っていた。

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