第14話 裏に潜む謎の影


剣地:ヨキルの家


 その後、俺たちはヨキルさんの家に集まった。そこでヨキルさんと一緒に、ベロラーダの悪行の証拠を手にする話し合いを始めた。ベロラーダは証拠を内密に処分している。それがいつ、どこで、どういう風に行っているかは分からない。それに、昔の悪行はもう証拠が残っていない可能性が高い。


「昔行った悪行の証拠はない。僕もそう思います。なら、最近の証拠を習得しましょう。一つでも多くあれば、父を追い込めます」


「その通りですね」


 ヴァリエーレさんはヨキルさんの提案に賛成のようだ。もちろん、俺もこの案は賛成だ。昔の証拠はもうどうやったって手に入らない。それなら、手にできる証拠を選ぶ。成瀬もルハラもその案に乗ったようだ。


「じゃあ、最近ベロラーダがやった悪いことってなんだ?」


「父は最近ウラノミチ海岸で麻薬を密輸したと情報を聞きました。父はほとんど会社にいます。会社の自室に閉じこもっている時間が多いので、悪行の証拠がそこにある可能性があります」


「分かった。ベロラーダの部屋にある麻薬を見つければ証拠になるな」


「はい。あっそうだ、麻薬を持ち出さなくても写真を撮れば大丈夫です。それでも重要な証拠になりますので」


 作戦は決まった。ベロラーダの会社に潜り込み、あいつが麻薬を持っているという証拠を写真で撮る。それで、持って帰ってメディアに見せて、世間を騒がせて警察を動かし、ベロラーダを捕まえる。


「よし、じゃあいつ乗り込む?」


「来週になるでしょう。僕が手配してあなた方を会社内に潜り込むように仕掛けますので」


「どのようにするのですか?」


「あなた方を僕が紹介した社員として、父の会社で働いてもらいます」


「働く中、証拠を探すってわけね」


 成瀬の言葉を聞き、ヨキルさんは首を縦に振った。


「はい。それと……もう一つの情報です。父は麻薬密輸を知った従業員を、裏で処分しているようです」


「殺されるってことか。もしかして、暗殺者でもいるのか」


「かもしれません。作戦が父に知られたら、戦いになる可能性もあります」


「任してください。俺たちが何とかしますって」


 俺は笑いながらこう返事した。だが、それでもヴァリエーレさんは不安な顔をしていた。


「ケンジ、ナルセ、ルハラ……無茶だけはしないでね」


「はい」


 俺はヴァリエーレさんを元気付けるため、笑顔で返事した。




成瀬:ベロラーダの会社、事務室


 時は流れ、私たちはベロラーダの会社に入ることになった。表向きは新入社員であるが、まさかギルドの戦士であると、会社の人は思ってもないだろう。


「今日からお世話になる成瀬です」


「同じく、今日からお世話になるエルフのルハラです」


 私とルハラは、短期の契約社員として潜入。その一方で剣地は一人で会社の裏に潜入している。私たちはオフィスにいるけれど、剣地は天井裏をこそこそ移動しているのだろう。


「じゃあ君たちは事務処理をお願いするよ。分からないことがあったら、事務担当のサエバさんに聞くといい。じゃ、頼むよ」


 部長はそう言うと、去って行った。その後で、サエバさんが私とルハラに近付き、話しかけてきた。


「早速だが、仕事に入ってもらおう。何、簡単な仕事だから、あまり難しく考えるなよ」


「はい」


 というわけで、私とルハラは仕事を始めた。


 仕事中、何人かの従業員と話をすることが出来た。ここで働いている人たちは、ベロラーダの悪行を大体は知っているようだ。だが、ベロラーダの方からメディアや新聞記者にそのことを言うなと脅されているようだ。サエバさんも、ベロラーダに弱みを握られていて、おとなしく従っているようだ。早く何とかしないと。


 仕事が終わった後、私とルハラは会社近くの宿屋にいた。この騒動が終わるまで、この宿屋で過ごすことになっている。ヨキルさんがホテルの経営者と知り合いらしく、ただで使わせてもらっている。


「はー、事務作業って難しいね」


 事務作業は伝票整理、他社の営業に対しての応対が仕事だった。まー、簡単な仕事が多かったから、楽にできたけど。


 しばらくベッドの上で休んでいると、ルハラが上に乗っかった。


「慣れない仕事でストレスが溜まった。発散させて」


「何をするつもり?」


「なぁ姉ちゃん、スケベしようや」


 ルハラは私の頬を舐めた後、私の体を触り始めた。


「グヒヒヒヒヒ、綺麗な体やなぁ」


「ルハラ、口調がおっさんっぽい!」


「ゲヘヘヘヘヘ、もう少しおとなしくしてなぁ」


 いつもなら魔力を使ってルハラをどかすけど、疲れ果てて魔力を使えない。こんな時だってのにルハラの性欲は変わらない。本当にしょうがないわね!


「お楽しみの時間か、お前ら?」


 ここで剣地が帰ってきた。私は何かあったのかと思い、ルハラをどかして剣地に近付いた。


「なんか見つかった?」


「全然。麻薬のまの字も見つからなかった。だけど、まだ会社全体調べてないから、どこかに隠し部屋があるかもしれないな」


 剣地はそう言って、服を脱ぎ始めた。一日中天井裏にいたせいなのか、剣地の服は一部黒くなっていた。


「うわー、結構黒くなっているなー」


 剣地のために、服を洗ってあげよう。私はそう思い、剣地の服を室内に置いてあった洗濯機に入れた。


「剣地、服は洗濯しとくからねー」


「ん? おお。ありがとう」


 シャワールームから、剣地の返事が聞こえた。その後、剣地はこう言った。


「どうだ? お前も入るか?」


 剣地は冗談でこう言ったと思うけど、こうなったら入ってやれ。私は服を脱ぎ、シャワールームに入った。


「おいおい、本当に入るのかよ」


「誘ったのはそっちでしょ。ほら、シャワー貸してよ」


 私はシャワーを借り、浴び始めた。そんな私の姿を見てか、剣地はこう言った。


「なんか色っぽいな」


「そんなこと言う?」


「本当のことを言って悪いかー?」


 剣地はそう言うと、私の背後に近付き、耳を触ってきた。いきなり体中に変な感覚が走り、私は思わず変な声が出てしまった。


「ちょっと、止めてよ」


「夫婦だしいいじゃん。もうちょっとイチャイチャしようぜ。最近、できてなかったし」


 寂しそうに剣地がこう言った。私は呆れたようにため息を吐いた後、こう言った。


「晩御飯を食べてゆっくりした後、もう一度お風呂に入りましょう、一緒にね」


「ああ。期待して待っている」


 剣地は私にキスをしてそう言うと、シャワールームから出て行った。緊張をほぐすためだと思えばイチャイチャしてもいいよね。そんなことを思っていたら、ルハラがシャワールームに入ってきた。


「お楽しみでしたね」


「もう、聞いていたの?」


「うん。ナルセも積極的になってるね」


「ええ。剣地が相手だったら、もっと甘えたいわよ」


「やっぱり女の子だね。じゃあ、今は私がナルセに甘えよーっと」


 ルハラはそう言うと、私の胸に顔を押し付けた。


「今日は疲れた」


「そうね、私も」


疲れた表情のルハラを見て、私は微笑んでこう言った。




剣地:ベロラーダの会社、天井裏


 昨日の夜はたっぷりと寝たなぁ。まだ眠いけど。成瀬とルハラと一緒に過ごしたからか、気が楽になった。さて、仕事にとりかかるその前に、成瀬とルハラの様子を伺うか。


 俺は二人が働いているという事務室を覗いてみた。二人はてきぱきとしっかり仕事をしていた。どうやら二人もかなりリラックスできたようだ。怪しまれてもないようだ。その後、俺は気合を入れなおし、麻薬を探した。


 この会社というか、ビルは六階建てだが、一階ごとの大きさはあまり広くない。三つぐらいの部屋とトイレがあるぐらいだ。ただ、六階の全体が社長室になっているらしく、そこに入れるのは社長と一部の幹部だけらしい。昨日はビル全体の地図を把握するために動き回っていたが、道を覚えた今、動くしかない。もし、麻薬があるとしたら六階にあるだろう。俺はそう睨んでいた。


 何とか上に上がることはできないか? そう思っていると、急に殺意を察しした。俺はすぐに柱の裏に隠れた。誰かいる。


「俺の気配を察したか。物取りにしてはやるようだな」


 そうだ、ヨキルさんがベロラーダは強い奴を雇ったと言っていたな。もしかしたら、そいつと遭遇しちまったってことか。


 俺はハンドガンにサイレンサーを付け、相手の出方を待った。俺にはクロウアイとスナイパーアイがあるから射撃戦には有利だが、相手は何を使うか分からない。とにかく、相手のことを知らねば。こんな所で命をかけた戦いがあるとしたら、もうちょっと成瀬とルハラとイチャイチャしておけばよかったなチクショー!

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