第12話 迷いの中で


ヴァリエーレ:シムケン山の洞窟


 シムケン山に入り、何匹もの凶暴なモンスターを倒した。だが、いくらモンスターを倒しても、私の気持ちは晴れなかった。


 急に父上から連絡が入り、ベロラーダ卿のご子息と結婚しろと言われた。私は嫌だと言った。だが、その言葉は父上には届かず、私の意志を無視するかのように婚姻の手続きが行われていた。


 いつもそうだ。父上は私の話を聞かず、いつも自分の意見で話を進めてしまう。何か言おうとしても、適当な返事を返される。今度ばかりは本当に腹が立った。私には、想いを寄せる人がいるのに。


 ケンジ……ナルセと結婚していてもいいから、私はあなたと結ばれたい。




剣地:シムケン山の入口


「またここに来るなんて」


 俺はシムケン山を見上げてこう言った。あの時は任務で来たけど、今回はヴァリエーレさんを探すため。手分けして探そうと思ったが、案外シムケン山は広かった。


「任務の時は草を探しに頂上へ行けばよかったけど」


「ヴァリエーレさんを探すとなると、この山全体を探すってことになるわね」


「でも、結構簡単に見つかるかもよ」


 ルハラが何かを見つけてこう言った。ルハラに近付くと、そこには倒れているモンスターの姿があった。


「ヴァリエーレさんがやったのかしら?」


「かもな」


 周囲を見ると、他のモンスターも倒れていた。これを目印にすれば、ヴァリエーレさんの所に行けるかも。


「周囲を見てみよう。もしかしたらヴァリエーレさんがいるかもしれない」


「うん」


「りょうかーい」


 その後、俺たちは倒されたモンスターを目印にして、ヴァリエーレさんを探し始めた。その途中で何回かモンスターに襲われたが、今の俺たちの敵ではなかった。


 数分後、いきなり空の雰囲気がおかしくなってきた。さっきまでは青空が広がっていたのに、雨雲みたいなのが広がっている。


「雨が降るわね」


「マジか。傘持ってねーのに」


「魔力で何とかしてみる」


 と、成瀬は地面の魔法を使い、俺たちの足元に草を生やした。


「地面の魔法は植物も操ることができるみたい」


「傘みたいな草を生やすのか?」


「ええ。すぐできるわ」


 その後、俺たちの地面の草は、徐々に伸びていき、大きな傘のような形になった。それを傘代わりにし、俺たちは再び歩き始めた。


 しばらく歩いていると、雨が降り出してきた。どうせ通り雨だろうと俺は思っていたが、俺の予想以上に雨は激しく降ってきた。


「おいおいおい、傘あって濡れるぞ、これ」


「そうね……天気予報だと晴れだって言っていたのに……」


 成瀬がこう文句を言っていた。俺はそうだなと返事をし、成瀬の方を振り返った。成瀬の服は濡れたせいで服の上から下着がうっすらと見えていた。


「おい、濡れて服が透けているぞ」


「ええ! 見るな、変態!」


 と、叫びながら成瀬は俺の頬にビンタを放った。


「いいだろ別に……互いの全裸を見たから、下着を見たぐらいで殴らないでくれよ……」


「それとこれとは別よ! 結婚したとはいえ、恥ずかしいから」


「だったら、下着を付けなければいいじゃない」


 と、びしょ濡れのルハラがこう言った。というかこいつ、下着を付けていないだと!


「ルハラは羞恥心を覚えなさい!」


「そんなものがあったら、自分が自分じゃなくなる気がする」


「ドヤ顔でそんなこと言わないの!」


 とりあえず、俺たちは雨宿りをするために、近くの岩場へ向かった。


「ふぃ~、何とかなったな」


「なってないわよ。雨がいつ収まるか分からないわ」


「ヴァリエーレさん、濡れてなければいいけど」


 確かにそうだ。この強い雨だ、ヴァリエーレさんがもしここにいるとしたら、服が濡れているだろう。そのせいで、ナイススタイルのヴァリエーレさんの下着がスケスケで、濡れた服のせいで胸の形がはっきりと。


「スケベなこと考えないの」


 成瀬は俺が何を考えているのか察したのか、俺に目がけてドロップキックを放った。倒れた俺は立ち上がりつつ、成瀬の方を見た。


「かっ……考えてねーよ!」


「顔で分かるわよ。鼻の下伸びていた」


「私たち結婚したのに……もう他の女の体に夢中なの?」


「そんなわけねーだろ! だったら、ここでやるか?」


 俺は服を脱ぎ、二人に近付いた。ルハラはノリノリだったが、成瀬がそうじゃなかった。成瀬の逆鱗に触れてしまった俺は強い電撃を浴びてしまった。


「バカ剣地……そういうことはすべてが終わってからよ」


「そうだな。俺、ふざけていたよ」


 俺は立ち上がり、成瀬が火の魔力で付けた焚火の前に近付いた。


 雨は一向に止む気配はなかった。雨が降り出してから、もう一時間は経過しただろう。


「本格的な雨だな」


「弱くならないし」


「強くなる一方」


 台風みたいな雨じゃあ、外には出られない。ヴァリエーレさん、無事だといいけど。俺がそう思っていると、奥の方から何かの足音が聞こえた。


「二人はそこにいろ。俺が行く」


「気を付けてね」


 俺はハンドガンを手にし、奥の方へ向かった。


「誰かいるのか」


 声を出して、相手の反応を待った。だが、音の主は何もしてこなかった。もしかして、空耳だったのか?


「おーい、誰かいるのか?」


 俺はもう一度声を出した。すると、足音が再び聞こえた。どうやらこっちに向かって走ってきているようだ。


「……ジ……ケンジ……」


 聞いたことのある声がした。その直後、俺たちは声の主が誰かを理解した。


「ヴァリエーレさん! よかった、ここにいたのか!」


 声の主はヴァリエーレさんだった。よかった、ヴァリエーレさんもここにいたのか。安心した。


 しばらくし、びしょ濡れでモンスターの返り血で赤くなったヴァリエーレさんが姿を見せた。その姿を見た俺と成瀬は、悲鳴を上げて驚いてしまった。


「どうしたの、二人とも?」


「今の姿見てみたら? びしょ濡れで血塗れだよ。ホラーゲームの敵キャラみたい」


「服を脱ぐわ」


 ヴァリエーレさんはびしょ濡れで血塗れの服を脱ぎ、下着姿になった。俺は少し見とれてしまったが、腕や足に傷がついていた。モンスターの爪で引っかかれたのだろう。


「待っていてください。今治療しますので」


「ごめんね……」


 成瀬が治療する中、ルハラがヴァリエーレさんにこう聞いた。


「結婚が嫌で逃げだしたの?」


「ええ」


 やはり。嫌な噂が流れているような男じゃあ、誰だって結婚したくない。


「自分でもどうしたらいいのか分からない。自分の気持ちを父上に伝えても……結局流されるだけ……」


 こう言うと、ヴァリエーレさんは泣き始めた。自分の意思を無視され、あれこれ勝手に決められると、さすがに辛いだろう。ヴァリエーレさんだって人間だ。自分の意思や気持ちがある。


「じゃあどうしたいの?」


「ケンジと一緒にいたい……ケンジと結婚したい」


 唐突な告白を俺は聞いた気がする。だが、成瀬とルハラはやっぱりと反応を示した。


 そりゃまぁ、ヴァリエーレさんは魅力的だし、俺も一目見た時美しいと思っていた。向こうが俺と結婚したいって言うなら、すぐにそうしたい。


「ヴァリエーレさん。俺もあなたと結婚したいです。だけど、その前にやるべきことがあります」


「父上のこと?」


 そう。ヴァリエーレさんの婚約のことだ。それをどうにかしないと、この問題は解決しない。


「とにかく。雨が止むまでここで休みましょう」


「一応策は練ってありますので、大丈夫でーす」


 成瀬とルハラが、ヴァリエーレさんに近付いてこう言った。ヴァリエーレさんは一度座り、気を落ち着かせていた。




剣地:雨上がりの洞窟


 それから数時間が経過した。雨は収まり、太陽の光が雲の間から見えていた。


「やっと止んだみたいね」


「服も乾いたようだし、下山するか」


 その後、俺たちは荷物をまとめ、焚火を消し、山から下りた。


 ロイボの町に着くと、ギルドの前に大きな馬車があった。馬車の紋章を見て、ヴァリエーレさんは何かを察したらしく、俺の後ろに隠れた。しばらくし、馬車から派手な衣装を着た太ったおっさんと太った青年が降りてきた。どうやら、あのおっさんがベロラーダ卿で、その横にいるのが息子のヨキルって奴だな。


「ん? おお! お仕事ご苦労ギルドの諸君!」


 と、ベロラーダは俺たちに挨拶をした。後ろに隠れたヴァリエーレさんのことは気付いてないようだ。


「お疲れ様です」


 横にいたヨキルは、頭を下げて挨拶をした。ベロラーダは態度がでかくて嫌な奴だったけど、ヨキルは意外と礼儀正しかったな。敬語だったし。


 そんなことを思っていると、二人はヴァリエーレさんの屋敷に向かって行った。


「まさか、ここに来るなんて……」


 俺はあの二人が直接ここに来るとは、考えていなかった。今後あの二人に会うのはちょっとまずいなと思った俺は、成瀬にこう言った。


「一度俺たちの部屋に行くか?」


「そうね。そこでもう一度話しましょう」


 戻って作戦を練ろうと思っていたのだが、屋敷の方からもう一人誰かが出てきた。白髪だったため、老人かと思っていたが、鋭い目、年齢の割にがっちりとした体形を見て、俺は恐怖を覚えた。この人、かなり強い。


「そこにいたのか、ヴァリエーレ」


「父上……」


 どうやらこの人がヴァリエーレさんの親父さんなのか。戻ろうとしたのに……クソッ、どうすればいいんだ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る