第11話 婚姻の儀


剣地:ギルドの食事場


 俺と成瀬とルハラが結ばれた翌日。ギルドの野郎共は俺を祝福してくれた。誰かに話をした記憶はないが、ルハラが俺の方を見ていたため、多分ルハラが話をしたんだと思う。


「いやー、まさか二人の少女と婚約するなんて」


「羨ましいぞ、オイ!」


「お前もこれで一人前だな!」


 荒々しい祝福を受け、俺はありがとうと返事をしながら朝飯を食べていた。そんな中、隣の部屋に住む戦士が、俺の右手の甲を見てこう言った。


「エルフと何かしたのか? 右手の甲にエルフの紋章があるぞ」


「え? エルフの紋章?」


 俺は右手の甲を見ると、薄緑色の変な紋章が出ていた。こんなの、今までなかったのに。俺は朝飯を食べ終え、部屋にいる成瀬とルハラの元に向かった。


「あら、今戻ったの?」


「成瀬、右手の甲を見せてみろ」


「これのこと?」


 成瀬の右手の甲にも、エルフの紋章が浮かんでいた。俺と成瀬はベッドで爆睡するルハラを起こし、このことを聞いた。


「ん……おはよー」


「ルハラ、これ何なのか分かる?」


 成瀬が右手の甲をルハラに見せると、ルハラはこう答えた。


「エルフの紋章だねー。これはエルフが別の種族とキスとかして、エルフの体液が中に混じったら現れる紋章だよ」


「害とかないよな……」


 俺は恐る恐るこう聞いた。いきなりこんなもんが現れたんだ。ちょっと怖い。それに対し、ルハラは笑いながらこう答えた。


「そんなもんないよ。まー、寿命が一万年増えるだけだね」


「いっ……一万年?」


「桁がとんでもないわね……」


 なんという寿命だ……つーか、エルフは一万年生きられるのか。


「ま、これで死ぬまで二人といられるね。よかったねー」


 ルハラは笑いながらこう言っているけど、寿命一万年って気が遠くなるぞ。


「ねぇ、今日はどうするの?」


 横にいた成瀬がこう聞いた。そう言えば、今日は何をするか考えてねーな。どうするかと考えた時、隣に住んでいる戦士が扉を開け、俺たちにこう言った。


「おい。何もすることないなら、結婚の儀に行けばいいじゃないか」


「それいいな。早く結婚して夫婦と認められればいろいろ楽になるぞ」


 結婚か。確かにそうだな。早く成瀬とルハラと夫婦の関係になれば、いろいろと話が回るだろう。


「じゃあ結婚の儀をするか」


「分かった。じゃあ着替えて教会に行こう」


 というわけで、話を終えた後で俺たちは教会へ向かった。




剣地:教会の受付


 教会へ着き、俺はロビーで結婚の儀受付と、書かれた看板の所に向かった。


「こんにちは。結婚の儀の受付ですか?」


「はい」


 受付のお姉さんは俺の後ろに立っている成瀬とルハラを見て、何かを察し、こう言った。


「多重婚ですね。分かりました。では、この番号札を渡します。呼ばれたらこのカウンターに来てください」


 その後、俺たちはロビーにある椅子に座って呼ばれるのを待った。俺たちの他にも、結婚する人は多くいた。中には男一人で女十人位のハーレム野郎、別の組には女一人で男多数の逆パターンも存在した。もちろん男一人、女一人のパターンもある。


 数分後、俺たちの番号が呼ばれた。俺たちは立ち上がり、教会のロビーに向かった。その後、俺たちは教会の奥へ進んだ。部屋の中は太陽の光が入るせいで、かなり明るかった。壁に貼られているステンドガラスも太陽の光で、美しく彩られていた。


「では新郎新婦、中央に来てください」


 部屋の台座に立っている神父が、こう言った。俺たちは神父様の前に立ち、神父の話を聞き始めた。校長先生の長話のようだったから話の大半は聞き流していたけど、大体の内容は把握できた。まー、どんな話かって言うと、結婚とは何なのか? 一緒になるというのはどういうことか? 浮気はダメだよとかそんな感じだった。


「では、新郎新婦、左手を前に出してください」


「こうですか?」


 俺たちは左手を神父様の前に出した。その後、神父様は魔力を発して俺たちの左手を触った。すると、俺たちの左手が光り出し、金色に光る紋章が左手の甲に浮かんだ。


「これがあなたたちの婚姻の紋です。これであなたたち三人は無事、夫婦と認められました」


「こんな簡単でいいのですか?」


 あまりにも簡単に終わったので、俺はこう聞いた。日本だと、かなり長いって聞いたけど。


「ええ。いつもこんな感じですよ。結婚行事に関するスキルが生み出されたので、そのおかげで大分楽になったのです」


「そ……そうですか」


 結婚の儀が終わり、俺たちは教会から出た。




成瀬:教会の近くの通り


 これで剣地と夫婦になった。けど、これで何か変わったとかそんな感じはしない。いつもと同じだ。


「なー、とりあえずこのことヴァリエーレさんに伝えておくか?」


 不意に剣地がこう言った。確かに、ヴァリエーレさんはいろいろとお世話になった人だ。結婚したことを報告しておかないと。私はそう思っているけど、ルハラが何かを思い出しながら剣地に近付いた。


「ヴァリエーレさん? 誰それ?」


「シキヨーク町長の騒動で会っただろ。俺たちと一緒に行動していた女性だよ」


「あー、あのおっぱいがでっかい姉ちゃんね」


 剣地がルハラにヴァリエーレさんの説明をしていた。そうだ、シキヨーク町長の事件がおわってからヴァリエーレさんはギルドに来ていない。そのことに気付いた私は少し心配して剣地に話しかけた。


「ねぇ剣地、ヴァリエーレさんって今いるかな?」


「とりあえず屋敷に行こうぜ」


 というわけで、私たちはヴァリエーレさんの屋敷に向かった。門に立っている門番に近付き、剣地が声をかけた。


「すみません。剣地と成瀬ですが」


「ケンジ殿、ナルセ殿。どうかしましたか?」


「実は俺たち結婚したのです。そのことで、ヴァリエーレさんに報告したいなと思ったのですが」


 門番は、焦った顔をし、互いに見合った。やっぱり、ヴァリエーレさんの身に何かあったのだろう。


「何かあったのですか? 最近、ヴァリエーレさんをギルドで見かけなかったので」


「ここだけの話ですが、ヴァリエーレお嬢様に結婚の話が来ているのです」


「ですが、お嬢様は結婚を嫌がり、どこかへ行ってしまったのです」


 ヴァリエーレさんも結婚? 初耳だぞ。最近ギルドに来ていないのは、これが原因だったのか。


「それだけ相手が嫌な奴なの?」


 ルハラが失礼なことを言ったので、私は訂正して頭を下げた。門番は苦笑しながら、私に耳打ちをした。


「いや、そのエルフの言っていることは正しい」


「へ?」


「結婚相手が、悪い噂が多いベロラーダ卿のご子息なのだ」


「写真をどうぞ」


 私は写真を受け取り、相手の容姿を見た。太っていて、目は細く、口はスケベなことを考えているのか、嫌な笑みをしていた。ただ、髪は綺麗だった。


「それに、ベロラーダ卿のご子息、ヨキルはかなり変な性癖を持っていると噂だ」


「女であれば、誰でもよいと言ったらしい」


「それに、あくまで噂なのだが……彼は夜な夜な女性を性的に襲っているらしい。この事件を揉み消すため、ベロラーダ卿は圧力をかけているとの噂だ」


「ベロラーダ卿に関しての悪い噂の影響か、ご子息まで悪い噂が多々あるのだ。だが、ヨキルは表に出ないので、素性も詳しく分からないのだ……」


「うわ、最悪……」


「何でこんなのと結婚しないといけないのかしら」


 私はヴァリエーレさんに同情した。たとえ親にこいつと結婚しろと言われても、絶対に嫌というだろう。


 話を聞いていた剣地は、何かを考えていた。しばらくすると、剣地は門番にこう言った。


「なあ、ヴァリエーレさんはどこに行ったか分かるか?」


「シムケン山だと思う」


「分かった。俺、そこに行ってみます」


 何考えているのだろう。剣地の奴……まさかヨキルとヴァリエーレさんを結婚させるつもりなの?


 その後、私たちはシムケン山へ向かった。道中、私は剣地にこう聞いた。


「ねえ、剣地。一体何をするつもりなの? まさか、ヴァリエーレさんを連れ出してあいつらに……」


「あんな外道どもにヴァリエーレさんを渡してたまるか。ヴァリエーレさんと結婚する」


 一瞬、私の頭の中が真っ白になった。だが、この世界は多重婚が可能と思いだした。何かを察したような表情のルハラが剣地に近付き、こう言った。


「先にヴァリエーレと結婚して、ヨキルとの婚約をパーにするつもりだね」


「半分正解だ。ヴァリエーレさんと結婚はするが、その前に仕事をしないといけない」


「何するの?」


「ベロラーダ卿の噂を確認だよ。あいつらが悪さをしているって世間に伝えて騒動を広くさせて、刑務所にぶち込めば大体は解決するだろ?」


 剣地は次に起こす行動を考えていた。だが、問題がある。相手は権力を使って事件を揉み消すことができる立場だ。立場が強い権力者相手に立ち向かえるのかと、私は不安になった。

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