第10話 想いよ、伝われ


成瀬:ロイボの町


 消毒草の採集任務は大成功。リュック一杯の消毒草を受け取った依頼者の顔は、とても満足そうな顔をしていた。依頼で得た報酬以外でも、プテラモドキの素材を使い、装備の強化も行った。ちょっとお金は使ったけど、余ったプテラモドキの素材を売り、予想以上の売却金を手にした。


「じゃー今日は豪勢にステーキ食っちゃいますー?」


 気をよくした剣地が私とルハラにこう言った。


「いいねー。たまにはお肉食べたいねー。成瀬は?」


「そうね、たまにはいいかも」


 その後、私たちはギルドの近くのレストランへ向かった。店員から席を案内されると、先に座っていた戦士らしき女性たちが、私たちを見てこう言った。


「見て、最近話題の新人よ」


「本当だ。シムケン山でプテラモドキと戦ったって話よ」


「どうかしましたか?」


 剣地がさわやかな笑顔で、女性たちに声をかけた。剣地の顔を見た戦士の女性は、顔が真っ赤に染まっていた。


「うそ……かっこいい」


「イケメン……抱かれたい」


 この人たち、剣地のナイスフェイスのスキルで虜になっている。イラッとした私は、剣地の耳を引っ張った。


「ほら! さっさと行くわよ!」


「イデッ! ちょっと待てよ! 耳を引っ張らないでくれ!」


「お話し中ゴメンネー」


 私たちは急いで案内された席へ向かい、椅子に座った。私はイラつきながら、メニューを広げて私と視線を合わせないようにする剣地を見ながら口を開いた。


「もう、あんたって奴は。すぐに女の子にナンパしようとして……」


「声をかけてきたのは向こうだぜ」


「うるさい!」


「二人ともー、あまり騒ぐと目立つよー」


 ルハラが私と剣地にこう言った。ここで喧嘩をしたら変に目立っちゃう。私も、少し熱くなっていたのだろう。


その後、晩御飯を食べ終えた私たちは部屋に戻ろうとした。その途中、女性の戦士に声をかけられた。レストランの中にいた人とは別の人だ。


「あら、話題の皆さん。今おかえり?」


「はい。今日はもう遅いので」


「今日はもう疲れましたよ」


 と、剣地が笑いながらこう言った。その顔を見てか、ペロッと舌を出した女性戦士は、剣地にこう言った。


「もしよかったら、一緒に飲まない?」


「え? いいですか? 俺、十五歳だけど」


 剣地が鼻の下を伸ばしてこう言った。もう、本当にイライラする!


「帰るわよ」


「イデデデデッ!」


 剣地の耳を引っ張り、私は帰路を急いだ。


「ごめんねー。私たち帰る途中なのー」


 ルハラが、その戦士に頭を下げてこう言った。


「あら残念。今度、二人だけの時に飲みましょう」


「そうですね」


「そうですね、じゃない!」


 私は思いっきり、剣地の頭を叩いた。




剣地:部屋


 成瀬の奴。なんかおかしいな。


 俺はそう思っていた。いつもより、俺に対する態度がおかしい。嫉妬でもしているのか? そんなわけないか。何考えてんだか俺は。


「ケンジ」


 ルハラがベッドの上で、俺を呼んだ。


「ん? どしたー?」


「何でナルセが怒ったか理解しているー?」


「いや、全然」


 俺の答えを聞き、ルハラは呆れたようにため息を吐いた。


「ダメですねぇ。乙女心というのを知らないと」


「何だよ、それ」


「ナルセとは、付き合い長い?」


「まーな。子供の頃からの付き合いだし」


「じゃあ、ナルセの気持ちとかも分かる?」


「なんとなく」


「本当に?」


「多分な」


 その直後、ルハラの飛び蹴りが俺の後頭部に命中した。


「何すんだ!」


「本当はナルセの口から言わせたかったけど、これだけ鈍感だと本当にイラつくね。ナルセの気持ちも理解できるわ」


「どういうことだよ?」


 ルハラは呆れたのか、ため息を吐いた。つーか、俺何か悪いことでもしたのか?


「ナルセはケンジのことが好きなんだよ」


「はぁ……そうですか……」


 成瀬が俺のことを好き。成瀬が、俺のことが、好き。好き……はい?


「その顔、やっとわかったみたいだね。ナルセはケンジが他の女に対して鼻の下を伸ばしているのを見て嫉妬した」


「そうだったのか……好きなら好きって言えばいいのに」


「恥ずかしいから言えなかったってこと。本当にアホだなー」


 ルハラはジト目で俺を見つめた。そうなら、レストランでの出来事や帰り際の出来事も納得できる。本当に……俺はアホだ。


「ナルセは今お風呂中だから、一緒に入れば?」


「風呂に入っている中に突入したら、半殺しにされるだろうが」


「好きなら問題ないよ! ほら、とにかく突入! 私も一緒について行ってあげるから!」


 ルハラは俺を風呂場の脱衣所に無理矢理連れて行き、強引に俺の服を脱がした。


「ナルセ。ケンジが一緒に風呂に入りたいってさー」


「は? ちょ……ちょっと待って!」


 中から成瀬の慌てた声がした。俺も引き返そうとしたが、先にルハラが風呂場の戸を開け、俺を風呂場の中へ蹴り飛ばした。


「それじゃあお二人さん。ごゆっくりー」


 と言って、ルハラは去って行った。滅茶苦茶だな、オイ……。




成瀬:風呂場


 私と剣地、風呂場で二人、スッポンポン。何この状況? どうしてこうなったの? それよりも、ルハラは何を考えているの?


「えーとまぁ……とにかくシャワーを浴びるわ」


 剣地は立ち上がり、こう言った。私は剣地の裸を見ないように、後ろを振り向いた。イヤァァァァァ! 剣地の裸を見るの、何年ぶりだろう、あーもう……恥ずかしいよ。


「俺の裸……あまり見るなよ……」


「見ないわよ」


 その後、私と剣地は湯船に浸かった。湯船は二人で入るには狭く、ちょっとでも動いたら剣地の体にぶつかってしまう。


「ちょっといいか……放したいことがあるんだけど」


 剣地がぽつりとこう言った。


「何?」


「なんていうかその……ルハラからいろいろと聞いたよ」


 もしかして……ルハラ、私が剣地のこと好きって伝えたの? なんで、どういうこと?


「お前、俺のことが好きって」


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 私は奇声を上げた。自分でもびっくりするぐらいの声が出た。


「そんなにびっくりしなくてもいいだろ……」


「うるさいうるさい! こっち見ないで!」


 私は恥ずかしさのあまり、目をつぶってしまった。そんな私に対し、剣地は優しく私を抱きしめた。


「悪かった。お前の気持ちを理解できなくて」


 剣地は小さな声でこう言った。


「子供のころからお前といたから、お前の考えていることなら全部理解できる。そう思っていた。だけど……好意までは……その……理解してなかった」


「……むぅ……」


「ルハラに言われてやっとわかった。プテラモドキとの戦いでラブハートの治療を受けた時、魔法で回復するよりもずっと早く治った。あの時に気付けばよかった……いや、神様と話している時に気が付けばよかった。俺のために、ラブハートを選んだ」


「もう……遅いよ……気付くのが……バカ」


 私は自分の中で、感情が爆発するのを感じた。私は剣地の方を振り向き、抱き着き、キスをした。私の行動に驚いた剣地は後ろに下がったが、私は剣地を抱き寄せ、何度も何度もキスをした。


「ちょっと……暴れるなよ。ここじゃあ狭いって……」


「じゃあ……どこで……」


 私がこう言うと、剣地はしばらく黙った。そして、剣地は顔を真っ赤にしてこう答えた。


「ベッドの上……とか?」


 その後、私と剣地はベッドから出て、キスをしたり話をしたりした。そんな中、ルハラが乱入してなんか滅茶苦茶になったけど……まぁ、思いを伝えられたからまぁいいか。




剣地:早朝のベッドの中


 窓から指す朝日がこんなに綺麗と思ったことはない。どこかスッキリした気持ちがあるのだろう。


 俺の上には、成瀬が俺を抱きしめて眠っている。その寝顔は、とてもさわやかな顔をしていた。何度も見た寝顔だが、こんなに愛おしいと思ったのは初めてだ。


「成瀬」


 眠る成瀬の顔に近付き、俺はそっとキスをした。


「昨日は楽しかったねー」


 ルハラが扉を開け、中に入って来た。


「ナルセの気持ち、理解できた?」


「ああ。お前が言わなければ俺は分からないままだったよ」


「そう……じゃあ今の私の気持ちは分かる?」


「知らん」


 俺の返事を聞いたルハラは、いそいそと俺のベッドの中にもぐりこんだ。その時、成瀬も目が覚め、入って来たルハラを見て驚いた。


「このまま皆で二度寝するぞー」


「二度寝って……」


「いいじゃないか、ナルセは気持ちよさそうに寝ているし」


「ああ、そうだな」


 ああ、今日は依頼を受けるのは止めよう。二人と一緒で、このまま一日、過ごそう。

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