第6話 潜入開始!


剣地:町の外


 深夜。俺と成瀬、ヴァリエーレさんは町の入口に集まり、キシベさんが手配した車に乗って森へ向かった。


「二人とも、準備はできてる?」


「大丈夫です。銃の用意もできましたし、剣の手入れもばっちりです」


「はい」


 悪人と戦うなんて、まるでマンガやゲームのようだ。少し緊張もするが、それ以上にエルフたちを襲った奴らとシキヨークが許せない。悪い奴らの連中は相手にできても、下手にシキヨークに攻撃することはできない。あいつが今回の騒動の黒幕であるが、その証拠がないとこっちは何も言えない。これから行く奴隷収集所にシキヨークに関する情報があれば、それであいつを捕まえることができるけど。


 そうこう考えているうちに、俺たちは森の入口に到着。ここからは徒歩でアジトに向かう。ヴァリエーレさんが先頭を歩き、その次に俺、成瀬の順で行動している。移動中、何回か夜行性のモンスターに襲われたけど、ヴァリエーレさんが全て片付けたので、俺の出番はなかった。歩き始めて数分後、小さなオレンジ色の明かりが見えた。


「あれが奴らのアジトよ」


 ヴァリエーレさんは声を潜めてこう言った。俺たちは奴らに気付かれないように草の茂みに隠れ、俺はクロウアイで周辺を見た。アジト周辺には見張りが二人ほどいる。手には銃らしきものと、腰に剣を携えていた。


「見張りがいるな……」


「私に任せて」


 成瀬はそう言うと、水の魔力を発した。成瀬はそれを地面にぶつけ、操作し始めた。


「私の水であいつらを攻撃するわ。剣地、あいつらの詳しい場所を教えて」


「ああ、分かった」


 その後、俺はクロウアイであいつらの場所を成瀬に教えた。成瀬はその通りに水を動かし、見張りに近付けた。


「はっ」


 成瀬が声を出すと、水が音もなく動き、拳と同じくらいの大きさの氷を作り出した。そして、それを見張りのみぞおちに当てた。


「うぐっ!」


「あん?」


 別の見張りが異変に気付き、近付こうとしたが、別の水が動き出し、見張りの口をふさいだ。しばらく見張りはもがいていたが、段々と動きが弱くなり、動かなくなった。


「あれ、もしかして……」


「殺してないわ。気絶しただけ」


 ならよかった。その後、成瀬は水の魔法で見張りの体を動かし、茂みに隠した。


「じゃあ潜入開始よ。私は人さらいの相手とシキヨークに関する証拠を見つけてくる。二人はエルフの解放をお願い」


「はい」


 その後、俺と成瀬、ヴァリエールさんと別れて行動を始めた。




成瀬:アジトの周り


 私は剣地と共に裏手に回った。鍵が付いていたのだが、風の魔力で鍵を切り落とし、中に入った。


「俺が前に行く。成瀬は援護を」


 剣地はクロウアイを使い、前を歩き始めた。私はマジックサーチを使い、敵がいないか探りながらあいつの後ろについて行った。しばらくすると、どこから魔力を感じた。


「人がいるわ。それに魔力持ち」


「どこだ?」


「えーっと……下。下に大量の魔力があるわ」


 下……もしかして、エルフは地下室に閉じ込められている。私はそう思い、剣地に地下に行く階段がないか聞いてみた。


「見たところないな。周りは壁ばかりだ……ちょっと待て、敵がいる」


 どうやら、剣地はスナイパーアイも使っているらしい。私と剣地は壁に隠れ、敵が来るのを待った。その時、剣地が動いた。


「あいつを捕まえて話を聞いてくぞ」


「そんなことできるの?」


「ああ。俺にはナチュラルエアがある」


 剣地はそう言うと、ナチュラルエアを使って気配を消した。私の目には剣地が映っているけど、剣地の魔力や気配は完全に察知できない。


「ちょっと待っていてくれ」


 そう言うと、剣地は動き出し、敵の背後を取った。そして、そのまま敵を襲い、気絶させた。その後、私の所に戻り、敵を起こした。


「ハッ……何だ、貴様ら」


「俺の質問に答えろ。答えなければ首を斬る」


 剣地は剣の刃を敵の首に突き付け、こう言った。この脅しに、相手は屈すればいいけど。


「わ……分かったよ。俺はまだ死にたくない。お前らが聞きたいことは何でも答える」


「お前らが捕まえたエルフはどこにいる?」


「地下室だ」


「階段の場所がわかるなら、俺たちを連れていけ」


「分かった」


 敵兵は素直に剣地の言うことを聞いた。やはり、外道でも自分の命は大切なのだろう。それからしばらくし、私たちは地下へ下りる階段に着いた。


「ここだ。この先にエルフを閉じ込めた」


「そうか。あと、見張りはいるのか?」


「いねーよ」


「本当か?」


 剣地の持つ剣が、敵兵の首元で動いた。


「本当だ。信じてくれよ、この状況で嘘言ったら死ぬって時に、嘘なんて言うかよ」


「分かった。案内ご苦労」


 剣地はそう言うと、敵を気絶させてくれと目で合図してきた。私は雷の魔力で相手を気絶させ、目立たない場所に敵兵を隠した。


 その後、私は扉にあるカギを破壊した。剣地が前に行き、ドアノブに触れた。


「行くぞ」


 剣地の合図に、私は首を縦に振って答えた。そして、私たちはエルフが閉じ込められている部屋に入って行った。




ヴァリエーレ:アジト内


 ケンジとナルセは無事かしら。私は二人のことを思いながら、敵がいる所へ向かっていた。あの二人は優秀なスキルを持っている。そして、ギルドでの依頼をこなしているおかげで、戦闘に関する知識も技術も上がってきている。だから私は二人に頼んだ。普通の戦士よりも、あの二人の方が信頼できる。特にケンジはかなり成長している。ナイスフェイスのスキルを持っているから少し下心はあるだろうなと思っていたけど、私の予想は大きく外れ、立派な剣士に成長している。もし結婚するならああいう人がいいな。おっと、仕事に集中しないと。


そう思いながら目の前の扉を蹴り開けると、中には無数の荒くれ者がいた。私が部屋に入って来たのを確認した荒くれ共は、剣や斧などの剣を持ち、私を睨んだ。


「何だ、お前?」


「あなた方に名乗る暇はありません」


 私はそう言って、相手が動く前に攻撃を仕掛けた。ウィークチェッカーで相手の弱点を探り、そこを重点に剣で攻撃を仕掛ける。その戦法なら、短時間で相手を無効化できる。


「グアッ!」


「ギャアッ!」


「痛い!」


 荒くれ共は悲鳴を上げながら、次々と倒れて行った。私の強さを見たほとんどの荒くれ共の士気は下がっており、私の顔を見ただけで冷や汗をかく者もいた。そんな中、一人の男がゆっくりと立ち上がった。


「やるじゃないか、お嬢さん」


 その男は長身で、腰には長い太刀があった。この男、かなりのやり手だろう。


「俺の相手にはちと、不足かもしれねーが……俺も金で雇われたからねぇ。仕事はしないと」


「その雇った相手はバーランの町の町長、シキヨークですか?」


 私はシキヨークの名前を言った。だが、男は一瞬戸惑ったが、笑いながら私の返事に答えた。


「仕事上、無関係の相手に雇い主の名前は教えたくないけど……勝てば教えてやるよ」


 男は剣を手にかけ、周りにいる荒くれ共に叫んだ。


「てめーら。死にたくなければ俺から離れな」


「分かりました、フィドさん」


 男……フィドは荒くれ共を遠ざけると、私の顔を見た。


「さぁ、始めようぜ」


 フィドはペロッと舌を出すと、私の近くに接近した。


「シャオッ!」


 フィドの掛け声とともに、剣が抜かれようとしていた。私は後ろに下がり、フィドの攻撃をかわした。その後、構えなおし、フィドに向かって走って行った。


「おいおいおい。威勢のいい嬢ちゃんだな」


「悪事に手を染める人に、褒められたくありませんね」


 私は両手に電気の魔力を発し、高く飛び上がった。私が魔力を使っている所を見て、フィドと荒くれ共は目を開いて驚いていた。


「なっ! 魔力ってありかよ!」


「ずるい!」


「剣だけで戦うんじゃねーのか?」


「卑怯者!」


 いろんな言葉で私を罵倒しているけど、人をさらって奴隷にし、大金を手にするような奴が卑怯者では?


「卑怯者は、あなたたちの方よ」


 私は電撃を床に放ち、フィドと荒くれ共を感電させた。これで、雑魚共を一掃した。戦いが終わった直後、私は電気で痺れているフィドを掴み、こう聞いた。


「あなたを雇ったのはシキヨークで間違いありませんか?」


「そうだよ……協力してくれと言われて……金を渡された……」


「なら、あなたを捕まえます。後日、シキヨークの逮捕に協力してくださいね」


「ふぁ……ふぁい」


 フィドはこう言うと、気を失った。私の方の仕事はこれで終わり。ケンジとナルセは無事かしら。




剣地:アジトの地下


 地下室を照らしているのは小さなランプだけだった。目の前は真っ暗で何も見えない。かすかに、エルフたちの怯える声が聞こえるだけだ。俺はクロウアイを使い、周囲を見回した。壁の方には、小さな檻に閉じ込められているエルフたちの姿があった。俺は成瀬を檻の所に誘導し、鍵の錠を壊してくれと頼んだ。俺たちを見て、エルフたちはまだ怯えていた。


「安心しろ。俺はギルドの戦士だ。君たちを助けに来た」


 俺のこの言葉を聞いて、エルフたちは安心した表情を見せた。だが、一人だけ無表情の子がいた。その子のことが気になったが、俺と成瀬はエルフたちを連れて上に戻った。この時、敵は一人も出なかった。本当に運がいい。


「よかった、無事にエルフたちを解放したのね」


 どうやら、ヴァリエーレさんは先に戻っていたようだ。ヴァリエーレさんの横には、気を失っている男がいた。


「そいつ、誰ですか?」


「こいつはシキヨークに仕事を頼まれた戦士よ。人さらい集団を守ってくれと言われたみたい」


「証拠は手に入れたし、アジトは崩壊。エルフたち救出した。任務は……」


「まだ終わってないわ。シキヨークを捕まえる。それが残っているわ」


 そうだった。この事件の黒幕、シキヨークを捕まえていない。だが、あいつが悪事に関わった証拠はある。どうやったって、逃げることはできない。覚悟しろよ、シキヨーク!

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