第5話 エルフたちを救え!


剣地:ギルドの部屋


 俺と成瀬がギルドの戦士になって、三週間が経過した。ヤバジカ討伐以降、いろんな任務を受注しは達成していった。ギルドのランクも徐々に上がっている。今、俺と成瀬のギルドランクは七だ。ギルドの姉ちゃんは優秀なスキル持ちだから、楽にランクは上がるだろうと言っていた。


 いつもは俺と成瀬の二人で任務をやっているが、たまーに他の人と一緒に任務をすることがある。その人たちから、この世界についていろいろなことを聞いたり、逆に日本のことを教えたりする。俺と成瀬が別の世界で住んでいたことはヴァリエーレさんが皆に伝えてくれた。三週間も過ごすと、ロイボの町のギルドの戦士には悪い人はいないことを知った。


 その他にも、俺と成瀬は神様からもらったスキル以外にも、スキルを会得している。まず俺の場合は。


・ナチュラルエア

 気配を完全に消すことができる。


・クロウアイ

 暗闇の中でも、昼間のように周りが見える。


・スナイパーアイ

 遠くのものが見える。その距離、最高五キロ。



 剣以外にも銃を使うし、それに対応したものを使いたいなと俺は考えていた。なので、このスキルを選んだ。逆に、成瀬はまだスキルを会得していない。成瀬曰く。


「今は魔法の勉強をしたいから、他のスキルのことなんて頭にない」


 だそうだ。住まいに関しては、ギルドが手配してくれたアパートの一室で暮らしている。はっきり言うと、俺と成瀬は一つの部屋で暮らしている。キッチンとトイレ、それに風呂もあるからいい部屋だと俺は思う。他にもギルドに属している人が住んでいるので、ここで暮らしているうちに仲良くなっている。大した事件もなく、俺と成瀬の異世界ライフは続いていた。


 出かける準備をしながら、俺はこの三週間の出来事を思い出していた。この平和な時間が続けばいいと思っていたが、そうはいかなかった。


「剣地、支度できたの?」


「ああ。今行く」


 俺は成瀬に返事をした後、荷物を持って外に出て行った。




剣地:車の中


 俺と成瀬は依頼でバーランという町に向かっている。ロイボの町から少し離れた町で、規模としてはロイボの町とそんな変わらないようだ。けど、町について細かいことは聞かされてないから、どんなもんかは分からない。ま、行けば分かるか。


 三日前のことだった。俺と成瀬は依頼を終えて部屋に戻ろうとした時、ヴァリエーレさんがやって来たのだ。


「ケンジ、ナルセ、少し相談があるの」


「どうしました?」


 その時、俺はヴァリエーレさんの後ろにいる男の人に気付いた。服装からして、少し裕福な人だと察した。その後、俺と成瀬はギルドの応接間でヴァリエーレさんの連れの人と話すことになった。男の人はバーランの町の役人で、何か困ったことがあり、ここに来たのだ。


「私はバーランの町役人、キシベと申します。実は、バーランの町周辺にあるエルフの集落が襲われたのです」


「エルフが襲われた……そう言えば、今朝の新聞に書いてありましたね」


 成瀬がこう言うと、キシベさんは頷いてこう言った。


「はい。この事件、実はバーランの町の町長、シキヨークが絡んでいます。彼は裏で人さらい集団に頼み、バーランの町の周辺のエルフの集落を襲わせているのです。しかも、シキヨークは市民からの税金を使い、武器を買って、それを人さらい集団に渡しています。エルフを攫うためです」


「じゃあ、この事件はあなたの所の町長が黒幕ってところか」


「はい。エルフ襲撃事件は私たちバーランの町のギルドで解決したいのですが、町長からの圧力があり、動ける状況ではありません。なので、あなたたちロイボの町のギルドに頼るしかないのです」


 キシベさんは頭を下げ、こう言った。


「ケンジ、ナルセ。今回の事件の解決のために、力を貸してもらってもいいかしら?」


 ヴァリエーレさんもこう言った。結構難しい問題だけど、俺と成瀬に相談してきた。ということは、頼られているのか。


「剣地、どうするの?」


「受ける。この話聞いていて、シキヨークとかいうおっさんにムカついてきた。ぶっ飛ばしてやろうぜ」


 俺は拳を握り締め、皆にこう言った。


 準備が終わった今現在。俺は成瀬とヴァリエーレさんと一緒にバーランへ向かっているのだ。詳しい任務はこうだ。


・奴隷となったエルフの解放

・シキヨークを捕まえる

・人さらい集団のアジトを見つけ、崩壊させる


 この任務は三つの問題をクリアしないと、達成したとは言えない。どちらか一つ失敗したら、意味がない。数時間後、俺たちを乗せた車はバーランの町に着いた。


「やっと着いたか~」


 俺は背伸びをして背骨を鳴らしたが、成瀬とヴァリエーレさんはすぐに移動をしていた。


「剣地、こんなことやっている場合じゃないでしょ」


「そうだな。町役場に行かないと」


 俺たちはキシベさんに会うため、町役場へ向かった。ヴァリエーレさんはカウンターにいる職員に、こう聞いた。


「私たちはキシベさんの知り合いです。キシベさんに会いに来たのですが」


「キシベさんですか。今お呼びします」


 カウンターの役員は席を離れ、キシベさんを呼びに行った。その時、別の役員が俺たちに近付き、こう言った。


「エルフの集落の件ですね」


 この言葉を聞いた俺たちは反応したが、役員は手で落ち着けと合図を送った。


「この件についてはほとんどの役員が周知しています。町長の圧力で動けないのですが、こっそりと援助します。何かあったら話をしてください」


 よかった、敵じゃなかった。町長のシキヨークが手を回したと思っていたけど、どうやらそうじゃないみたいだ。


 役員は去っていくと、それとすれ違うようにキシベさんがやって来た。


「ここじゃあ目立ちますので、どこかで話をしましょう」


 その後、俺たちは場所を移して話をすることになった。




剣地:バーランの町の外れ


 町外れ。人もあまり通らず、物陰も多い。隠れて話をするにはうってつけの場所だ。


「では、今後のことについてお話します」


 キシベさんはそう言うと、咳払いをして話を始めた。


 俺たちがここに来るまでの三日間、キシベさんは独自で人さらいのアジトを調べていたのだ。場所はバーランの町から離れた森の中。連中はその森にある廃屋を改造し、エルフたちを閉じ込めている。キシベさんの知り合いのギルドの戦士からの情報だ。さらに、今日から二日後に、人さらいは捕まえたエルフを奴隷として売り飛ばすという話も聞いた。その売り上げの五割ほど、シキヨークが手にするらしい。そして、一部のエルフはシキヨークの奴隷になると話を聞いた。


「酷い男ね。どうしてこんな奴が町長になれたのかしら」


「裏で取引をしていたのですよ。後で知ったのですが、奴はもう取引の証拠を処分していました」


「ま、今回のことが公になれば、そのシキヨークっておっさんも最後だな。で、いつ人さらいのアジトに乗り込む?」


「早いうちに行きましょう。二人とも、今日の夜には行くつもりだから、準備していてね」


 話は終わり、俺たちはその場で解散した。キシベさんは役場へ戻り、俺たちは宿屋へ向かった。




成瀬:町の宿屋


 今まではモンスター退治か薬草集めとか、そんな感じの任務を受けてきた。だけど、今回の任務は今までとは違う。エルフの集落を潰した悪い連中と戦う。


 私は不安だった。優秀なスキルを持っていたとしても、私は戦えるのか。それ以前に、人を傷つけることができるのだろうか。この国の法律に関しては以前本で読んだが、本当にちらっとしか読んでなかった。もし、私の力が強すぎて、人を殺めてしまったらどうしよう。そんなことを思っていた。思わず、私は大きなため息を吐いた。


「どうしたの、ナルセ」


 ヴァリエーレさんが、私のため息を聞いてか、近付いてきた。


「実は、人間相手に力を使えるかどうか不安で……」


「そうだったのね」


「人を殺してしまったら、本当にどうなるのだろうと思うと……今後のことが不安で……」


「殺さなければ大丈夫よ」


「簡単には言えますけど……」


「魔力の調整、できるでしょ?」


「はい」


「簡単な話、殺さない程度に魔力を使えばいい。難しく考えすぎよ」


「そうですか?」


「ええ。人とはいえ、相手は極悪人。そう思うだけで、ムカつくでしょ?」


「はい。かなり腹が立ちます。生き地獄を見せてやりたいです」


「生き地獄はやりすぎだと思うけど……。もし、あなたが悪人を殺しそうになったら、私が止めるから」


「ありがとうございます」


 ヴァリエーレさんは笑顔を見せた後、部屋から出て行った。何だろう、不安が吹き飛んだ。任務前だし、こんな暗い雰囲気、さっさと打ち消して軽く寝よう。私はベッドの上で横になり、仮眠をとった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る