第4話 初めての任務


剣地:ロイボの町のギルド本部


 翌日、俺と成瀬はヴァリエーレさんと共にギルド本部へ向かった。手続きに時間がかかるのだろうなと、俺は予想していたが、手続きはあっさりと終った。名前を書き、ギルドの仕組みについて話を聞くだけだった。


 話を聞き終え、俺は背伸びをしながらこう言った。


「さてと、じゃあ何かやろうか?」


「そうね。じゃあカウンターへ行きましょう」


 俺と成瀬は任務を受注するため、カウンターへ向かった。任務を受注するのも、終えたことを報告するのもここで行うと話を聞いている。ロイボの町のギルドはかなり大きいため、カウンターが多い。ぱっと見で二十はあるだろう。最初に番号札を受け取り、自分の番号が呼ばれるのを待った。数分後、俺と成瀬の番号が呼ばれた。急いでカウンターへ向かい、任務受注表を確認した。


「ケンジさんとナルセさんは優秀なスキルを持っていますが、ギルドのランクは一なので、まずはそれと同等の任務を受けてもらいます」


 ギルドにはランクというものがある。これが高ければ高いほど、難しい任務が受注できるようになる。俺と成瀬は神様から優秀なスキルを貰ったが、今日ギルドに登録したので、ランクは一から始まるのか。ランクを上げるには、任務をこなしていくしかない。俺は何を頼めばいいのか分からないので、案内嬢の姉ちゃんにこう聞いた。


「あの、初めての任務を受注するのですが、初めての人でもできる任務ってありませんか?」


「そうですね……このヤバジカ討伐はどうですか? 凶暴ですが、ゴブリンより弱いですので、簡単にできると思います」


「ヤバジカって何ですか?」


「えーっと、こちらをご覧ください」


 案内嬢の姉ちゃんが図鑑を持ってきて、ヤバジカについての説明を始めてくれた。


「ヤバジカは獣のモンスターです。高さは一メートル弱。体は頑丈ではなく、皮も毛も薄いが、性格は凶暴である。奥歯が鋭くとがっているせいで、噛みつかれたら大変なことになる。群れで行動しており、獲物を見つけたら一斉に襲い掛かるので注意」


「話を聞く限り、やばそうな相手ね」


「そうでもないですよ。足は遅い、魔力を使った攻撃を一撃でも当てるだけで倒せると思います。お二人は優秀なスキルを持っているので、相手にならないと思いますが」


「そうですね。任務は初めてですので、この任務を引き受けます。剣地、どう思う?」


「俺もこれでいい」


「分かりました! では、車の準備ができたら、依頼地であるロイボの町の南平原へ向かいますので、入口付近で待機していてください」


 その後、俺と成瀬は言われた通り、入り口付近で待機していた。待機する中、他の人たちが俺たちを見て、何かを話していた。


「おい見ろよ、昨日ゴブリン相手にやりあった坊主と嬢ちゃんだぞ」


「見た目は弱そうだけど、あれで強いって噂だぜ」


「ヴァリエーレさんが目を付けているらしい。将来が楽しみだ」


 昨日のゴブリンと戦った話が、周りに知られているのか。でも、どうやって話が広がった? 俺がそう思っている中、すぐに答えが見つかった。


「あそこにいるのが昨日、ゴブリンを相手にした冒険者の二人組です! いやー、将来が楽しみですねー」


 一部の受付嬢が、俺と成瀬の話をしていた。




剣地:町の外


 数分後、俺と成瀬が乗る車の準備ができた。すぐに車に乗り、依頼地である南の平原へ向かった。車から出る時、ギルドの人が俺と成瀬にこう言った。


「これをお渡しします。地図の機能がある電子端末です。ちょっと待っていてください」


 ギルドの人が地図に触れると、黄色の矢印が現れた。


「ここが私たちの現在地。で、ここから少し離れたこの場所……ここですね」


 指で円を描くように地図をなぞると、そこに赤い色の線が描かれた。


「この周辺が合流地となります。ヤバジカを討伐したら、ここでこの鈴を使ってください」


 そう言うと、ギルドの人は俺に鈴を渡した。


「これを使うと、ギルドの者に現在地を伝えることができます。帰る時はこれを使ってください。しかし、安全な所で使ってくださいね。送り迎えを担当する人間はそこまで強くないので」


「了解です」


「では、私はこれで戻ります」


 話を終え、ギルドの人は足早に帰って行った。俺は背伸びをしてリラックスした後、腰の剣の位置を直し、インフィニティポーチでハンドガンを持ち出した。


「うし、じゃあヤバジカを倒しに行くぞ」


「でも結構広いわねここ。どこにいるか分からないわ」


 成瀬は周囲を見回し、こう言った。確かにヤバジカの奴はどこにいるのか分からない。俺もそう思うと、成瀬の問いに答えることができない。


「とりあえず、どこにいるか歩いて調べるしかないか」


「足音とか聞こえないかな?」


 足音か。周りを見ると、この平原には俺と成瀬以外の人はいない。風によって草が動く音がするが、それでも耳障りにはならない。俺は目をつぶって耳に神経を集中させ、足音が聞こえないか調べた。しばらくし、足音っぽい音が聞こえた。


「向こうに行こう」


「本当にいるのかしら?」


「勘だ。いなかったら飛んで探すよ」


 その後、俺の勘を頼りに、移動を始めた。すると、奥の方で草が揺らぐ音が聞こえた。その直後に、今回の討伐対象であるヤバジカが顔を出した。顔は鹿に似ているけど、鹿よりも毛や皮が薄く、体も骨が見えるくらい弱い見た目をしている。


「弱そうだけど、やるしかないか」


 俺がハンドガンを構えると、ヤバジカは変な奇声を上げた。


「オゲェッ! 何だ、この声?」


「キーンってする!」


 俺と成瀬は音のうるささに耐え切れず、耳を防いだ。鳴き声が止み、俺は再びハンドガンを構えた。


「今度こそ俺の弾丸でぶち抜いてやるぜ」


 その時だった。別の所からヤバジカが現れたのだ。その後も、続々とヤバジカが現れてきた。もしかして、今の奇声は仲間を呼ぶためだ。


「成瀬、一旦引くぞ! あいつら、仲間を呼びやがった」


 俺は成瀬の手を引き、後ろに下がった。ヤバジカの連中は興奮しながら、俺と成瀬を追って走ってきた。一か八か、使ってみるしかないな、あのスキルを!


「成瀬、俺に抱き着いていろよ」


「へっ?」


 何でこんな時に顔が赤くなる? 俺はそう言おうとしたが、今はそんな暇はない!


「スカイウイング!」


 俺がこう叫ぶと、背中に何かが生えた気がした。


「嘘……翼が生えた……」


 どうやら、本当に背中から羽が生えたらしい。少しでもいい、高く飛び上がろう。俺はこう考えていたのだ。もちろん、普通に空を飛んだわけではない。ここからは成瀬の番だ。俺は高く飛んだ後、成瀬にこう言った。


「成瀬、あいつらを一掃する方法って使えないか?」


「考えがあるの」


「この状況を何とかできるみたいだな。頼む」


「分かった。じゃあ、しっかりと飛んでいてね」


 その後、成瀬は魔力を練り始めた。攻撃の準備が終わるまで、羽が生えていればいいが。そう思うと、俺が予想よりお早くに成瀬の攻撃の準備は終わった。


「これで決まるはずよ!」


 成瀬の声と共に、魔力が解き放たれた。成瀬は水を発生させ、ヤバジカに向けて発した。だが、それが何の意味があるのだろうか。


「水よ、凍って尖れ!」


 ヤバジカを濡らした水は一気に凍り、一部が棘のようにとがり、ヤバジカの体を貫いた。


「うわ……えげつない……」


 たった数分で、大量にいたヤバジカはその場に倒れた。俺は地面に降り、倒したヤバジカを調べつつ、回りを見た。


「奴らは倒したし、回りに何もいない。任務達成だ」


「じゃあ、毛皮や爪を剥ぎ取りましょう」


 その後、俺と成瀬はヤバジカの死体を調べ、毛皮や爪、牙を入手した。


 これもまたギルドの決まりだが、倒したモンスターから、爪や牙、毛皮などの武器防具に仕えそうな素材は持ち帰ってもよいとのこと。


 俺と成瀬はありったけの素材を集め、ギルドの人を呼ぶために安全地帯へ向かった。数分後、ギルドの迎えの人が来た。あまりの速さに驚いていたが、俺と成瀬が所持しているスキルを見て、なんか納得した顔をしていた。


 初めての任務は難なくこなすことができた。これから毎日、こんな暮らしが続くのだろうな。と、俺は心の中でこう思った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る