第3話 ヴァリエーレさんの屋敷にて


剣地:ヴァリエーレの屋敷


 その日の夜、俺と成瀬はヴァリエーレさんの家に泊ることになった。ヴァリエーレさんの家はロイボの町ではかなり有名な騎士の一家であった。まさか、あの人がこんなに偉い人だなんて思わなかった。家……というか屋敷に入ると、入口に待機していた無数のメイドが同時にヴァリエーレさんに向かって頭を下げた。


「出迎えありがとう。今日はお客がいますので、着替えをお願いします」


「分かりました」


 メイドの一部が、俺と成瀬に近付き、こう言った。


「お客様。今から案内をします。お部屋は一緒でよろしいでしょうか?」


 俺と成瀬は顔を見回せ、相談をした。


「一緒の部屋でいいよな?」


「別々だと掃除が手間になると思うし、それでいいわね」


「分かりました。では、お部屋の方へ案内します」


 その後、俺と成瀬は部屋へ向かった。部屋へ着き、俺は腰の剣を机の上に置き、メイドに教えてもらった客用の部屋着に着替え、ソファに座った。


「私、ちょっと汗かいたからシャワー浴びてくる」


「分かった。それじゃあ一緒に浴びるか?」


 俺は冗談のつもりでこう言った。その後、成瀬は水の魔法で俺を攻撃した。


 数時間後、ヴァリエーレさんが夕食の支度ができたから食堂に来てほしいと、伝言が来た。俺と成瀬は軽く身支度をし、部屋の入口で待機していたメイドと共に、食堂へ向かった。


 予想はしていたが、食堂もとんでもない広さだった。食べるのは俺と成瀬、ヴァリエーレさんだけなのに、テーブルはかなり大きいし、上には特大のシャンデリアがある。流石有名な騎士の家だなと、俺は思った。食事の方も、とんでもなく美味かった。野菜も日本の野菜とは違った形だが、歯ごたえや野菜本来の味に変わりはなかった。俺の好きな肉料理も、たくさんあった。マンガで見たような骨付き肉もあるし、鳥の丸焼きもある。俺は無我夢中で、それらを食い始めた。


「剣地、少し落ち着いて食べなさい。みっともないわよ」


 隣にいる成瀬が、俺の頭を叩いてこう言った。食事が終わると、ヴァリエーレさんが話を始めた。


「では改めて自己紹介をしましょう。私はヴァリエーレ・ルーツアリといいます」


「俺は剣地っていいます」


「私は成瀬といいます」


「ケンジとナルセ、あなたたちはどこの出身ですか?」


 出身地。俺と成瀬にそんなのはない。だが、異世界から転生しました。だなんて言えるはずもない。異世界からやって来たなんて言っても、信じてくれるはずがない。


「言えないのですね……すみません。少々手荒ですがこちらで調べます」


 ヴァリエーレさんはそう言うと、メイドに何かを持ってくるように伝えた。しばらくし、ヴァリエーレさんのメイドが携帯のような機械を持ってきて、ヴァリエーレさんに渡した。


「これはヒューマンチェックというアイテムで、相手がどういう人物か調べる機能があります。嘘をついても、これがあれば一発で分かります」


「これも魔力で動いているのですか?」


「ええ。では、始めましょう」


 と言って、ヴァリエーレさんはヒューマンチェックを俺の額に付けた。すると、電子音が鳴って画面に表示が出た。




名前:ケンジ・シロガネ


年齢:十五


性別:男


職業:未登録


出身地:異世界(元の世界で死亡し、転生した)


習得スキル

・ソードマスター

・ガンマスター

・ナイスフェイス

・スカイウィング

・インフィニティポーチ




 これってもしかして、俺の情報か? 名前や年齢、それにどこで生まれたかが書いてある。しかも、ちゃんと異世界って書いてある。


「異世界……あなたたちはここではない世界で生まれて死に、転生でここに来たのですね」


「はい。そうですけど、珍しくないのですか?」


「ええ。たまに異世界からやって来たっていう人がいるのよ。だから、このアイテムが生まれたのよ」


 便利な道具があるな。俺は感心しながら話を聞いていた。その後、ヴァリエーレさんは成瀬にも、ヒューマンチェックを使った。使う前に、成瀬はこう聞いていた。


「すみません、情報が乗るのは名前とか簡単な項目ですよね」


「ええ。そうよ」


「細かい情報は載りませんよね」


「うーん……私が使うのは簡単な個人情報しか表示しないから、そんな細かいことは教えないと思うわ」


「一応安心」


 見られたくない秘密でもあるのか。幼馴染の俺にでも、何か隠しているのだろうな。俺はそう思ったが、あまり深く追求すると、成瀬にぶっ飛ばされそうだから、やめておこう。そんなこんなで、成瀬の情報が画面に表示された。




名前:ナルセ・タチバナ


年齢:十五


性別:女


職業:未登録


出身地:異世界


習得スキル

マジックマスター・ネオ

ゼロマジック

ラブハート

ブレイブソウル

ソードマスター




「ナルセの方が強いのね。マジックマスター・ネオとゼロマジックは長い修行しないと取れないスキルなの」


 やはりそうか。確かマジックマスター・ネオは全ての魔法を扱うことができて、ゼロマジックは魔力の消費がなしで魔法が使える。説明からして、いかれた性能だなと思ったんだよ。


「ケンジたちはこの世界に来てどのくらい経つの?」


「今日が初日です」


「そうか、じゃあまだこの世界のことを詳しく知らないわね」


 ヴァリエーレさんは立ち上がり、どこかへ行った。しばらくし、本を持って戻ってきた。


「この本にこの世界のことが書かれているわ。政治、経済、歴史、法律の他にも、文学、音楽、美術、そして仕事のこと。知りたいことは大体ここに書いてあるわ」


 俺たちは本を受け取り、読み始めた。


 まず分かったのは、ここでは十五歳で成人となる。つまり、十五歳で大人と同じ扱いを受ける。そして、働くにはいくつか方法がある。日本と同じように店で働くか、勉強して政治家になるか。


 日本にない職業として、ギルドの戦士がある。簡単に言えば、依頼を受けて仕事をし、報酬をもらって生活をする。登録するには簡単だが、仕事の難しさは依頼によって変わるし、報酬金も依頼の難易度で上下する。この仕事については神様から簡単に説明されたが、この本ではギルドに関する情報が詳しく乗っていた。


「それで、これからどうするつもり?」


 俺はすぐにギルドの戦士になると言おうとしたが、成瀬が俺の口を防いだ。


「何すんだよ」


「今後に関わることなので、剣地と相談して決めます」


「分かったわ。それまでここにいていいから」


 その後、俺と成瀬は部屋に戻り、話をすることになった。


「相談の必要はあるか? ギルドの戦士になればいいだろうが。神様からもらったチートスキルもあるし」


「簡単に言わないでしょ。もし失敗してお金とかもらえなかったら、意味ないじゃない」


 この言葉を聞き、俺は呆れたようにため息を吐いた。


「成瀬、最初から失敗するってことを考えるな。そんなことを考えていると、先に進まないぞ」


「それは分かっているけど、この世界に保険ってないのかしら? 怪我したときどうするのよ」


「お前が治療してくれよ。マジックマスター・ネオで回復魔法とかが使えるだろ? それにゼロマジックで魔力消費というデメリットがない。お前何のためにこのスキル選んだ」


「それはその……何となく。魔法使いにとって優秀なスキルだなーって思って」


「優秀というか、チートだぞ。反則レベルだぞ」


「それはいいけど、もし私が傷ついたらどうする? あんたが治してくれるの?」


 俺は少し考えた後、成瀬にこう言った。


「うーん。ヴァリエーレさんに魔法を習う学校みたいな場所を教えてもらって、回復魔法を習得する。お前のために」


 この言葉を言った後、成瀬の顔は真っ赤になった。お前のためにと言ったのがドキッとしたのか?


「分かった。あんたが守ってくれるなら……ギルドに登録してもいいわ」


「よし。じゃあ明日はギルドに行って登録するか」


 明日の予定が決まった。明日はギルドへ行き、いろいろと登録をする。とにかく、ギルドでいろいろと仕事をこなすしかない。


「じゃあ俺風呂入ってくるから」


「分かったわよ」


 俺はそう言って、風呂場に向かった。




成瀬:用意された部屋


 あいつが風呂に入っている中、私はあの時のヴァリエーレさんの顔を思い出していた。多分、あのバカは気付いていないだろう。ヴァリエーレさんは剣地の顔を見る時、少しばかりうっとりしていた。あいつが選んだスキル、ナイスフェイスのせいだろう。


 日本で生きていた時もそうだった。あいつは何かしら、女子に惹かれる体質だ。ただ、本人はラノベの主人公みたいにかなり鈍感のためか、女子の好意には気付いていない。だが、他の女子も剣地に告白しようと思ったのだろうが、できなかった。私がいつも、あいつの隣にいたからだ。


 私は、ヒューマンチェックで自分の情報が公開されるのが怖かった。自分の本当の気持ちが、あいつに知られるのかと思って、ドキドキしていた。ずっとあいつのことが好きだなんて、あいつに知られたらどんなことになるのだろうか。


 今はこれでいい、この関係でいい。


 私はそう思い、ベッドに潜った。

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