第2話 初めての戦闘は突然に


剣地:ペルセラゴンのどこかの平原


 歩き始めて数分が経過した。ずっと歩いていたが、周りは草原。最初に転生して降りてきた場所と景色が全然変わらない。


「なぁ、ここって本当に人いるのか? 町どころか、村もないぞ」


「そうでもないみたいよ。かすかだけど、魔力の気配を感じるわ」


「魔力? なにそれ?」


 どうやら成瀬は魔力というのを感じているようだ。某漫画のように人の気配を探知することができるみたいだけど、俺にはできないなー。成瀬は魔法に関するスキルを手にしたからできるのかな? そう思っている、成瀬が止まってと言った。


「どうした?」


「前に何かいるわ。人じゃないみたい」


 俺は腰にある剣を手に取り、いつでも戦えるように準備をした。その状態で、歩き始めた。しばらく歩くと、ようやく何かが見えてきた。成瀬の言う通り、あれは人じゃなかった。


「何だ、あれ? 生き物だよな」


「かもしれないけど、あんなの見たことがないわよ」


 俺と成瀬が未知の生き物を見て驚いていると、いきなり俺の前が光出し、本が現れた。


「おわっ、いきなり本が出てきた!」


「モンスターブックって書いてあるわね。神様がこっそりくれたのかしら?」


 その時、モンスターブックが光出し、勝手にページがめくられた。そこには、目の前のモンスターに関しての情報が載っていた。




名前:ゴブリン


種族:鬼族


 各地に存在する小さな鬼。小さいなものから大きなものまで存在する。


 小型のゴブリンは駆け出しの冒険者でも勝てるかもしれないが、大型のゴブリンは力も体も強く、戦いになれた冒険者や戦士でも苦戦する恐れもある。


 ゴブリンからとれる骨や皮は、加工して装備品や家具に使われる。ゴブリンの臓器は増強剤に使われるため、薬屋で高く売れる。




 ゴブリンか。ゲームとかでよく見ているし、ああいうのって序盤の雑魚キャラでいる。俺はそう思いながら、剣を構えた。


「成瀬、援護を頼む」


「え? どうするつもりよ? まさか、戦うつもり?」


「そのつもりだ、前線で暴れてやるぜ!」


 俺は剣を構え、ゴブリンに向かって突っ込んでいった。ゴブリンの方も俺に気づいたらしく、武器を持って鳴き声を上げた。その声を聞いた他のゴブリンが鈍器を持って、俺に襲い掛かった。


 やべぇと思い、俺は高く飛んだ。だが、予想以上に高く飛び上がったため、驚いた。


「すげぇ。俺強くなっている! 漫画の主人公みたいだぜ!」


「そんなこと言ってる場合じゃないわよ、剣地! 後ろ!」


 成瀬の声が聞こえた。俺は慌てて後ろを振り向き、襲い掛かって来たゴブリンを斬った。剣はゴブリンの急所を深く傷つけたらしく、斬られたゴブリンは短い悲鳴を上げてその場に倒れた。動かなくなった仲間を見てか、ゴブリンは俺を見て少し引いていた。俺はにやりと笑い、ゴブリン共にこう言った。


「これで終わりか、小鬼共。俺はまだ本気を出してないぜ?」


 カッコつけてこう言ったのはいいが、ゴブリンは俺を無視し、成瀬に向かって襲い掛かろうとした。俺は慌てて剣を振り始めたが、何匹のゴブリンが成瀬に向かって走っていた。




成瀬:平原


 剣地がバカをやらかし、生き残ったゴブリンが私の方へ向かって来るのはすでに予測していた。剣地が暴れている時、私はどうやって魔力を使おうかと考えていた。いろいろ考えていると、ゴブリンの群れが私に接近していた。とにかくあいつらの動きを止めないとと私は思い、手を前に突き出して念を押すように手に力を込めた。


「これで痺れて!」


 私が叫んだその直後、私の目の前に紫色の電流が発生した。ゴブリンはいきなり現れた電流をかわすことができなかった。その結果、ゴブリンの体は痺れ、動けなくなった。


「ナイスだ、成瀬! あとは俺がやる!」


 まずい、剣地がこっちに来た!


「ちょっと待ってよ! まだ雷があるのよ! 当たったら痺れる!」


 私の声を聞いた剣地は慌ててブレーキをかけた。剣地の後を追いかけて来るゴブリンは電流の存在に気付いたものの、足を止められずに電流の餌食になってしまった。


「まぁ……とりあえずゴブリンを倒すか」


「だったら待って。一気に片付けるから」


 私は火属性の魔法を発し、上空に飛ばした。そして、魔力を込めて魔力の塊を大きく膨らませた。


「これで一気に片付けるわよ」


 丁度この位の魔力ならいいだろう。私はそう思い、魔力の塊を破裂させた。塊の破片が痺れているゴブリンに命中し、致命傷を与えて行った。傷ついたゴブリンは逃げることもできず、そのまま私が作った炎に焼かれた。




剣地:平原


 これから成瀬を怒らせるのは止めよう。心の中で、俺はそう決めた。成瀬が作った魔法でゴブリンは全滅した。丸焦げになったゴブリンを見て、心の中で哀れだと思った。その時、成瀬が何かを察知した。


「また何か来る」


「おいおい、ゴブリンの仲間か?」


「モンスターじゃないわ。人みたいよ。あそこ」


 成瀬が指さす方向には、誰かが走って来ていた。人影は徐々に俺と成瀬の元に近付いてきていた。


「また一戦交えないといけないかこりゃ?」


「構えていた方がいいわ」


 俺と成瀬は構えつつも、その人影が近付くまで待った。


 数分後、俺たちより少し年上の女性が近付いてきた。白くて硬そうな鎧を見に付けていて、腰には剣が携えてあった。どこかの町に住む人かもしれない。


「一つ聞きたいけど、ここに生息していたゴブリンの群れをやったのはあなたたち?」


 綺麗な女性が俺にこう聞いた。よく見ると、スタイルは成瀬よりいい。そんなことを思っていると、俺の考えていることを成瀬が察したのか、俺の足を踏みつけた。俺は痛みをこらえつつ、その女性に答えた。


「はい。俺たちがやりました」


「どうかしましたか? まさか、私たちやっちゃいけないことをしてしまったんですか?」


 俺と成瀬がこう聞くと、女性はうーんと言った後、スマホのような物で連絡を始めた。


「やっぱりやっちゃいけないことをやったかもしれないわ、私たち」


「かもなー。はぁ、異世界に来て初めての失敗か」


 俺が成瀬にこう返事をした後、女性が俺に近付いてきた。


「私と一緒に来てくれる? ロイボの町であなたたちと話がしたいの」


「え? ええ。いいですよ」


 その後、俺と成瀬は女性と一緒にロイボという町へ向かった。詳しい話をしようとしたけど、どうやって話そうか考えがまとまらなかった。成瀬も話の切り出し方を見つけることができず、難しい顔をしていた。




剣地:ロイボの町


 数分後、俺たちはロイボとかいう町に着いた。日本の町とは違い、洋風の建物がたくさん並んでいた。剣や魔法のファンタジーのような世界にしては、スマホのようなものや、町の中央らしき場所に巨大な電子時計があり、現代日本で見慣れた物もそれなりにある。


「今からこの町のギルドへ向かいます。そこで詳しい話をしましょう」


「すみません。話が見えませんが」


 成瀬がこう言うと、女性は慌てながら俺たちにこう説明した。


 女性は依頼人からゴブリンを退治してくれと依頼されていた。だが、俺と成瀬が討伐対象であるゴブリンがいる区域に迷い込み、ゴブリンを一掃してしまったということだ。どうやら依頼金とか報酬金とかの金銭問題などの難しい問題がいろいろとあるようだ。話に聞いたけど、戦士の中にはわざと依頼対象のモンスターを倒し、報酬金や素材を横取りしようとする悪知恵の働く奴がいるようだ。だが、こんな問題が起こらないようにギルドが対策をし、こういったケースはなくなっている。だけど、俺と成瀬はこんなルールを知らない。


「旅の最中、申し訳ありません。こういったケースはあまりないから、ギルドに聞かないとこの問題を解決できないの」


「そうですか、大変ですね」


 そんな会話をしながら、俺たちはギルド本部の中へ入って行った。ギルドの中には大勢の人がいた。剣を持った人や、魔法使いのような帽子を被った人、動きにくそうな鎧を装備した人もいた。


「私たちはこっち。そこの列はギルドの依頼を受けるための列よ」


 女性が俺と成瀬にこう言った。その後、俺たちは女性の後についていき、ギルドのお偉いさんの所へ向かった。女性は扉をノックすると、中からどうぞと声が聞こえた。


「失礼します」


 女性は扉を開け、中に入った。俺と成瀬も失礼しますと言い、部屋の中に入った。部屋の中は大きな机と、一人の女性が座っていた。


「お疲れ様ですヴァリエーレさん」


 座っていた女性はヴァリエーレ、俺たちと一緒に行動していた女性に席に座るように促した。


「そちらの二人は?」


「依頼対象のゴブリンを討伐した二人です」


「あらら。ゴブリンの所に迷い込んじゃったのね」


 女性は立ち上がり、俺と成瀬を見てこう言った。


「とりあえず、お名前を聞きましょう」


「俺は剣地です」


「私は成瀬と言います」


「ケンジとナルセね……細かいことは後で話しましょう。あ、私はロイボの町のギルド部長のルトといいます。よろしく」


 その後、ルトさんは俺と成瀬を座るように促した後、本を取って調べ始めた。


「えーっと……今回はギルドのルールが分からなかったから、とりあえずケンジさんとナルセさんにペナルティはありません。しかし、報酬金は全てヴァリエーレさんの物となります。よろしいですね?」


「分かりました。俺と成瀬に罰はないのか……よかった」


 俺がそう言うと、ルトさんは目を丸くして、俺にこう言った。


「予想外の答えですね。ヴァリエーレさんから聞いたと思いますが、たまに他の冒険者の依頼を横取りして金をよこせという馬鹿がいるのですよ」


「いやー、俺たちはそこまでしませんよ。横取りなんてしたらいけないことですからね」


「もしかしてどこかの田舎の出身ですね。まぁいいです。話はこれで以上です」


 その後、俺と成瀬は解放された。とはいえ、町に着いた。だけど日は沈み、辺りは暗くなっている。どこかに宿はないかな。そう思いながら俺は周囲を見回した。そんな中、成瀬がヴァリエーレさんにこう聞いていた。


「ヴァリエーレさん、この辺に宿屋ってありますか?」


「あるけど……二人とも今日は私の家に泊って行って。ゴブリンを倒してくれた礼をしたいの」


 ヴァリエーレさんはこう言った。心の中で、俺は宿賃が浮いたと喜んだ。

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