第7話 哀れな色欲町長と新たな仲間


剣地:宿屋


 アジトから戻った俺たちは、宿で休むことになった。助けたエルフも一緒に。ただ、ヴァリエーレさんは捕まえた人さらいの連中が逃げないよう、外で見張りをしていた。俺はあの時、緊張していたせいか体も心も疲れ果てている。ベッドの上で横になった後、俺はすぐに眠っていた。


 翌朝。朝飯を食った後、身支度をして役所へ向かった。ヴァリエーレさんはカウンターへ行くと、受付嬢にこう言った。


「シキヨーク町長はいますか?」


「はい。しばらくお待ちください」


 受付嬢は今回の騒動のことを知らされたのか、すぐにシキヨークを呼んでくれた。周りにいる役員の人も、急に緊張感のある顔つきに変わった。


 数分後、誰かが大きな足音を立てながら、階段を下りてきた。音の主はかなり太った男性だった。見た感じ、体重は百キロを軽く超えていそうな体形で、服からでもかなり分厚い脂肪が確認できた。しかも、動くだけでその脂肪は上下に動く。巨乳の姉ちゃんの胸が動く光景は大好きだけど、太ったおっさんの脂肪が動く光景はあまり見たくないな。太りすぎには注意しよう。


「貴様らか、私に用がある輩は?」


 どうやら、あのおっさんがシキヨークのようだ。シキヨークは俺と成瀬を睨み、ケッと言ったが、俺の隣にいるヴァリエーレさんを見て態度を変えた。


「これはヴァリエーレ様。来ているのであれば、おもてなしをしましたのに」


 この態度を見て、俺は呆れた。成瀬も、かなりげんなりとした表情を作っていた。シキヨークは弱者には強い態度をし、権力がある人には腰の低い態度をする。ドラマとかでよくいる典型的なクズ野郎だ。この町の役員の人たちがシキヨークを嫌う理由がよく分る。


「話があります。ここでは何ですので、町の広場で話しませんか?」


「分かりました。喜んで参りましょう」


 俺たちは役場を出て、町の広場へ向かった。広場の周りには、町の人が集まって来ていた。


「では、中央へ行きましょう」


「うむ」


 シキヨークは言われた通り、広場の真ん中へ移動した。ヴァリエーレさんは目の前にいる白いフードの集団を見つけ、シキヨークにこう言った。


「この人たち、ご存知ですよね」


「いや、知りませんな」


「そうですよね。では、フードを取ってください」


 ヴァリエーレさんはそう言うと、白いフードの集団は一斉にフードを外した。その集団は、エルフたちだった。つまり、奴隷として売り飛ばされそうになったエルフ。アジトで捕らえられているとあのおっさんは考えていたのだろう。捕まっていたエルフたちの顔を見たシキヨークの顔は青くなり、額から大きな汗が流れ始めた。


「な……何ですかこれは?」


「そうそう。この人のことも、知っていますよね」


 シキヨークの質問を流し、ヴァリエーレさんは捕らえた人さらい集団と変な剣を持ったおっさんをシキヨークの前に連れ出した。


「知らん! 知らないぞ、こんな奴ら!」


「そうですか。では、あなたたちはこの人のことを知っていますか?」


 人さらいの一部が、震えながら叫んだ。


「俺はこいつを知っている。エルフの里を襲ってエルフをさらって奴隷にしろとこいつに言われた! その売り上げをこいつに渡していた!」


「そのおっさんが裏で工作をしてくれたから、仕事は順調に進んだのに! 俺たちを見捨てるつもりか?」


 その後、人さらいたちはシキヨークに向けて、罵倒を浴びせた。シキヨークは体を震わせ、周囲を見回した。


「私は知らん! ヴァリエール様、私は戻ります。これでも忙しい身分ですので」


「いいえ、あなたはもう忙しい身分ではありませんよ」


「え? どうしてそのようなことを?」


 ヴァリエーレさんは指を鳴らすと、シキヨークの横に屈強な男が二人現れ、シキヨークの腕を掴んだ。


「シキヨーク。エルフの里襲撃の首謀者として逮捕します。それと、あなたにはいろいろと容疑がかかっていますので、そちらの方も調べ上げます」


「そ……そんな……」


 終わりを察したシキヨークは、言葉を失ったのか、その場で黙ってしまった。そして、シキヨークと人さらいの集団は、町の警備員と共に去って行った。


 こうして、エルフの里襲撃事件は幕を閉じた。エルフたちは住処が見つかるまで、バーランの町に住むことになった。いい感じで終わりそうだなーと俺は思っていたが、一人のエルフの少女が俺の方を見つめていた。


「剣地、この子に何かしたの?」


 成瀬が変な物を見るような目で俺にこう聞いた。


「何もしてねーよ」


 俺は慌ててこう言った。俺は捕まっているエルフに手を出していない。というか、ちょっとしか話をしていない。その相手の人は男性だったし。それに、アジトから脱出するのに、精一杯だったからナンパをする余裕なんてなかった。というか、ナンパをしたら確実に成瀬から怒りの一撃を喰らっている。


「ねぇ」


 エルフの少女が声をかけてきた。俺は少し驚いたが、気を取りなおして、エルフの少女に返事をした。


「ん、どうした?」


「私……帰る家がない」


 この言葉を聞き、俺と成瀬は顔を見合わせた。


「いろいろとめんどいから、仲間にして」


 エルフの少女はこう言うと、俺と成瀬の腕を掴んだ。


「とりあえず……帰る支度をするか」


「うん」


 その後、俺と成瀬は宿へ戻り、身支度を始めたのであった。




剣地:ロイボの町のギルド


 数時間後、俺と成瀬はエルフの少女と共に、ギルドへ戻った。


「確かに任務は達成しましたが……この子は?」


 受付の姉ちゃんが、エルフの少女を見て、こう聞いてきた。


「実は、この子は帰る場所がないため、私と剣地で保護したのです」


「そうですか。それで、この子は今後、どうするのですか?」


「本人曰く、私たちのパーティーに入りたいと言っています」


「分かりました。今日はもう時間が遅く、ギルド登録の受付が閉まっていますので、また明日来てください」


「分かりました」


 俺たちはギルドのアパートに戻ろうとした時、ギルドの野郎共にこう言われた。


「よーケンジ! 両手に花か?」


「羨ましいぜ! この野郎!」


「うっせ、茶化すな!」


 茶化す野郎に対し、俺は怒鳴った。成瀬は呆れているし、エルフの少女は何も言わず、あくびをしていた。マイペースな子なのか?その後、俺たちは部屋に戻り、ソファーに座り込んだ。


「疲れた~」


「緊張した……」


 俺と成瀬は背伸びをしながら、同時にだらけた。エルフの少女はだらける俺と成瀬を見て、何かを考えているのか、首をかしげていた。


「どうかしたか?」


「やはりそこしかない」


「は?」


 エルフの少女は、俺の胸に飛び込んできた。あまりにも突然すぎる展開。俺は何もできず、そのまま少女のダイブに巻き込まれた。


「いい男の胸で眠るしかない」


「ちょっと、いきなり何言ってんのよ」


 成瀬が慌てて俺からエルフの少女を引っぺがした。その後、成瀬は俺を睨み、こう言った。


「ねぇ、変なこと考えていたでしょ?」


「そんなわけあるか。突然すぎるから、頭の中が真っ白になった」


「確かにそうだった。あの時の顔は、茫然としていたね」


 エルフの少女は立ち上がり、俺の近くに近寄った。


「ねぇ、大事なこと忘れてないー?」


「大事なこと?」


「名前。互いのことをよく知らないでしょー」


 そりゃそうだ。確かに俺と成瀬はこの子の名前を知らない。というかこの子、知らない人の所に良く行きたいって考えたな。


「私はルハラ。ピッチピチの十五歳の美少女だよー」


「俺は剣地。十五歳か、俺と成瀬と同じ歳だな」


「私は成瀬。とりあえず、ヒューマンチェックで教えるわ」


 成瀬は部屋にあったヒューマンチェックを手にし、自分の情報を出した。ついでに俺の情報も。ルハラはじっくりと俺と成瀬の画面を見ている。


「ほーほー。二人は異世界の人なのね」


「一回死んで、ここに来た」


「いろいろあったんだね、大変だねー」


 ルハラはこう言うと、大きなあくびをした。


「さて、私の方もいろいろあって疲れたし、そろそろ寝ますわ」


「じゃあお風呂に入りましょう。汚いままじゃあ眠れないわ」


「私は眠れるけどなー」


「いいから、入りましょう。こんな状態で寝たら大変なことになるわよ」


 成瀬はルハラと共に、浴室に行こうとしたが、ルハラが俺の方を見てこう言った。


「ケンジも一緒に入るー?」


「剣地はいいの」


 成瀬はルハラを浴室に戻し、風呂に入った。


 ここへきて三週間。まさか、家族……というかパートナーがもう一人増えるなんて、予想していなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る