第31話 【持たざる者】、古代魔法を打ち破る

「ん……?」


 倒れた邪龍に追撃を加えようとした瞬間、その全身が紫色の炎に包まれた。


「ガアアアアッ!!」


「きゃっ――」


 邪龍から無数の呪いが放たれ、大地に飛び散った。


 すると、スケルトンやゾンビなど、アンデッド300体以上が地中からボコボコ生み出された。


「な――」


「一瞬でこの数がっ!?」


「騎士団総員、ひるむな! アンデッドを殲滅せんめつしろ! アスト様と邪龍の戦いの邪魔をさせるな!! また増える前に片付けるんだッ!!」


「は、はいっ!!」


 騎士団はアンデッドの軍勢をひきつけて、片っ端から斬り伏せていく。


 さすがは精鋭部隊、これなら邪龍との戦いに集中できそうだ。


「グガアアア……、アストォォ……」


 邪龍は紫色の炎をまとったまま、ゆっくりと立ち上がる。


「まだまだ元気そうだな」


 いったん飛行魔法を解除し、邪龍の近くへ歩いていく。


「なかなかタフじゃないか」


「アストォォ、相変わらずわけのわからないスキルを使いやがってェェ!! だが、オレ様はキサマの弱点を知っているぞッッ!! オレ様をナメるなッッ!!」


「弱点、だと?」


 ふむ、面白いことを言うな。聞いてみるか。


「ああ、キサマの使うスキルは確かに強力かもしれぬ……! だが、セイファード学園においてキサマの魔法操作の成績は大したことはなかった! 魔力量も人並みだ!! ゆえに長期戦になればオレ様が有利!!」


「まあ、成績については事実かもな」


「フハハハハ!! 認めたなッッ!! キサマの飛行魔法も、解呪魔法もすぐに使えなくなるだろう!! 楽しみだぜェェェ、魔力切れになって何もできないキサマをいたぶるのが……」


「――くだらん」


 俺は《陰》重力魔法で空に飛び上がり、再度、解呪パンチを腹に叩き込んだ。


「グオフェェェェッ!!」


 邪龍は再び後方に吹き飛び、ズシィィン!と大地に背中を打ちつける。


 衝撃で紫炎が飛び散り、アンデッドが20体程度生み出された。


「キ、キサマ……!」


 邪龍はよろよろと身を起こす。


 俺は《陰》時魔法で、自分の時間を巻き戻しながら言った。


「俺は、10分くらいであれば過ごした時間を【持たざる】ようにできる。つまり、魔力も使わなかったことにできるんだ。やったことはないが、体力も尽きないから眠らずにお前を殴り続けることもできるはずだ」


「き、聞いてない……!」


「真実の迷宮のときにさんざん目の前で使ったのだがな。わからなかったのか?」


 あのときは、時間を巻き戻して、シビレ罠のダメージを繰り返し利用させてもらったところだ。


「いや、ウソだ……! ハッタリはやめろォォォッ!! 時間操作など……そんな強いスキルがあるわけがないぃぃ!!」


「はぁ……」


 ズガァァァァァァン!!


 再度、腹を殴りつける。


「ウギャァァァァァァァァァッッッ!!」 


「これがお前が無能とののしったスキルだよ。確かに俺は【持たざる者】とスキルクリスタルに診断された。だが、本当は邪龍と渡り合えるほどの力が秘められていたんだ。この可能性を信じられず、罵倒ばとう・追放するだけのお前には人に教える資格などなかった」


「グ、グゥゥゥゥ……」


「さて……」


 俺は倒れた邪龍に右手を伸ばし、魔法を発動した。


「《陰》水魔法・枯渇!」


 しかし――バチバチと紫色の障壁が発生し、俺の魔法はかき消されてしまった。


「なるほど……やはり解呪と併用しないとダメージが通らないようだな。うむ、認めてやろう。俺には複雑な魔法を並行発動できるほどの技量はない。俺にできるのは、解呪をかけたこぶしでお前を倒すことくらいだ」


「く……、ナメるなッ!!」


「む……!」


 邪龍はさらに紫のオーラを強め、宙に飛び上がった。バサバサという翼のはばたきで強風が起こる。


「ガアアアアッ!!」


 邪龍が吠えると、呪詛じゅそが飛び散り、再度300体ほどのアンデッドが生み出された。


「騎士団総員、陣形を組み直せッ!」


「お、おお!」


 騎士団長が号令をかけ、団員をまとめ上げる。


 終わりのない戦いは騎士団にもつらいだろう。早く邪龍を落とさなければ。


 邪龍はオーラを激しく燃やしながら、俺をにらみつけてくる。


「アストォォ!! キサマはいたぶって殺してやろうと思っていたが、もういい! すべてまとめてチリにしてやる!!」


「ん……?」


 邪龍が両手を前に出すと、そこに紫色の炎が集まってくる。


「禁術――生命・魔力転換ライフコンバートッッ!!」


「む……! アスト君、いかん!!」


 紫の炎は、青白いエネルギー――すなわち魔力に変換されていく。


「あれは……」


 学長が俺の横へ出て、右手をかまえた。


「あれは、やつが盗み出した禁書『生命・魔力転換』に記された禁術だ! 本来は自己の命が燃え尽きるまで魔法を使うための技術だが、まさか邪龍が貯め込んだ魂を使用するとは……!!」


「フハハハハ!! オレ様が自殺覚悟の魔法など使うわけがないだろう!! オレ様より劣ったカスどもの命を利用してこそだ!!」


「む……、【封印魔法】バインドッ!!」


 学長は封印魔法を飛ばすが、呪いの防壁に防がれ、バチンという音とともに消滅した。


「邪龍となったオレ様に、ジジイの下級魔法など効くか! さあ、ジジイ! 止めてみろ、次が読めているのならな!!」


「ア、アストくん、やつを止め……」


「ガアアアッッ!!」


「キャアアアアっ!!」


 邪龍の咆哮ほうこうとともに、強い衝撃波が放たれる。


「くっ――」


 風がやみ、空を見上げると、邪龍は何かをブツブツと唱えていた。


「――繁栄の大国、安寧の小国、災厄を前にしては皆平等なり。一切を灰燼かいじんと帰し、制裁を敵陣に与えよ……」


 邪龍の前に直径20メートルほどの魔法陣が展開される。


「詠唱……? 極大魔法か……?」


「アストくんッ! 対城魔法だ! このあたり一体が吹き飛ぶぞっ!!」


「滅びろ――禁術カタストロフィ・ジャッジメントッ!!!」


「――っ!」


 そのとき、邪龍の両手から高出力のエネルギー砲が放たれた。


 確かに、直撃すればこのあたり一帯は何も残らないだろう。


「――《陰》魔力フィールド展開! 全魔法無効化!!」


 俺は両手を上に挙げ、魔法で半透明のドームを形成し、騎士団を含む俺たちをおおった。


 ジュウウウウゥゥッッッ!!という、焼けた石に水をかけたような音を出しながら、対城魔法を無効化する。


「フハハハハハ!! 器用だなァ、アスト!! だが、何秒持つかなッ!? オレ様が生み出した亡者どもの魔力と、ちっぽけなキサマの魔力の勝負だッ!! せいぜい最後までしぼりだすんだな!! キサマの魔法が切れたときが、キサマらが全滅するときだッ!!」


「ふむ……」


 俺の《陰》魔力フィールドの持続は後10秒程度。


 それに対して、やつの対城魔法の持続時間は、魔法陣の輝きから推測して、約30秒といったところだ。


 あいつの言うとおり、俺の魔力の方が先に切れてしまう。


「フハハハ、あと何秒だ!? 待ちきれないぞ、アスト!! キサマが影も形もなく消え去るのがな!!」


「ふむ……」


 ま、ケチっても仕方ないか。


「ミミコ!」


 ミミコを呼ぶと、後ろからストローを指した瓶を持ってきた。


「はい、ご主人さま! 全回復薬エリクサーです!!」


「ありがとな! うまい。汗も頼む」


「はい!」


 ふきふき!


「エリクサーのおかわりも出しておいてくれ!」


「はい、いつでも! ご主人さまのお役に立てて嬉しいです!!」


「ちょ、ちょっとォォォ!!」


 邪龍の前に展開された魔法陣が弱々しく消滅していった。


「ふぅ……。耐えきれたな」


 思ったより対城魔法は持続が短かったな。ま、あの威力だからな。


「ずるい、ずるいぞ、アストォォォォ!! エリクサーは反則だッッ!! 正々堂々とひとりで戦え!! 約束と違うぞ!!」


「はぁ……。バカかお前は」


 邪龍になっても知能は変わらないな。


「お前は邪龍の力を借りている上に、死者何十人かの魂を利用しているだろ。勝手にルールを作って、俺だけに押し付けるな。それに俺はこの街を守るために戦っているんだ。お前と遊ぶためじゃない」


「遊びじゃないぃぃ!! オレ様の復讐の時間だァァァァ!!」


「あわれなやつだ。ちなみにエリクサーは後98本あるぞ。《魔の森》を浄化したら原料がいくらでも採れるようになったとかで、ぜんぶタダでもらった」


「ズルいぃぃぃ!!!」


「ま、ラフレシア・アルラウネ討伐のお礼だからな。俺の功績がもたらした戦利品だ。使っても問題ないだろ」


「ズル! ズル! 正々堂々と戦えェェェ!!」


「――だからさ、俺は遊んでいるわけじゃないんだって。ふう、これ以上はバカの相手はできないぞ。また対城魔法を使われて、間違いがあったら街のみんなに顔向けができないしな。バカが武器を持つと手に負えないってな」


「ご、ご主人さま、あまりあおらなくても……」


「いや……問題ない」


 俺はミミコをなだめるように言う。


「次で一気に決める。――俺の最強魔法を使ってな」

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