第27話 【持たざる者】、土下座される

「メイちゃん、カッコよかったよ〜」


「うんうん、最後がよかった」


「は、恥ずかしい……です……」


 俺たちのチームのところへ戻ってきたメイは、いつもどおり控えめな様子だった。ドSモードは心の奥底に眠らせたのかもしれない。


 いずれにせよ、これで3勝。


 全勝にリーチがかかり、俺たちチームの雰囲気は明るかった。


 一方。


「ハ、カスどもは頼りにならないねぇ! 最初からボクが戦えばよかったんだ! ゴメンサナイネ、お前らがそこまで無能の集まりだとは知らなかったからさぁ!!」


「…………」


 反対派チームはひとりをのぞき、葬式状態だ。


「あんな大したことないスキル持ちのやつらに負けて、恥ずかしくないのかい? ボクだったら耐えきれないね! 学園をやめたくなっちゃうレベルだよ!」


 ルーザンは仲間の罵倒ばとうを続けている。


 てか、あの流れでよくここまでイキれるな。


「ま、前座のザコどもが軒並み負けたあとで、ボクが勝てばハクがつくってものさ! さ、出てこいよ、無能チームの対戦相手さん!」


「……こっちは、オレだよ」


 最後の選手として【剣術(極)】のジェイクが前に出た。地味ながらも正確な剣さばきができる生徒だ。


「はぁぁ!?」


 ルーザンはわざとらしく驚いた。


「ほんとに、【剣闘士】のアニーを出さないのぉぉ!? この格下野郎でいいんだねぇ! バカだね、アンタたち! ぉぉ!!」


「……オレはアスト先生に教えてもらったんだ。だいぶレベルアップはできているはずだよ」


「ザコがレベルアップしたところでタカが知れてるねぇ! ボクは【魔法剣士】でありながら【(双剣)】だよ!? レアの2乗! アンタに勝てるわけがないねぇぇぇ!」


「ま、やってみなよー。勝てるかな、ルーザンくん?」


 アニーも後ろから応援している。


「そろそろいいか、お前たち?」


 俺はふたりの間に立ち、最後の確認をする。


「偉そうにいうな、アスト。このザコをボクの双剣でボコボコにして、てめーをクビにしてやる」


「アスト先生、いつでもいけます!」


「よし……、最終戦スタートだっ!」


 合図と同時にルーザンは距離をつめ、激しくジェイクに斬りかかった。2本の木剣が絶え間なく打ちつけられる。


 カンカンカンカンッッッ!!


「ほらほらほらぁ!! ボクの猛攻、しのぎきれるかなぁっ!!」


「くっ――」


 ルーザンはバカとはいえ、さすがのレアスキル。ジェイクは防戦一方だった。


「魔法剣をつかわなくてもコレだもんねぇ!! 使ったらどうなっちゃうのかなぁ!?」


 カンカンカンカンッッ!!


「く、く……」


 ジェイクは普段の力が出せていないのか、動きが固い。


 カンカンカンカンッッ!!


「守ってばかりじゃ勝てないよぉ! ザコ!」


「――くっ。やっ!」


 ジェイクは力まかせにルーザンの剣を押し込むと、反動を利用して距離を開けた。


「はぁ、はぁ……」


「クソザコ必死だな! ウプププ……」


「ジェイク、プレッシャーにのまれるな。普段どおりやれば勝てるさ」


 俺のアドバイスに対して、ジェイクは許しをうように俺を見た。


「アスト先生……。アスト先生が教えてくれた方法で一度? 最終戦ということで、どうも緊張してしまって……」


 まったく、こいつは。なんかしなくても勝てるのに……。


「いいのか? ルーザンはどうかやり直してくださぁいと土下座してくれないかもしれないぞ? あいつも自分で言っていたし、あいつにもプライドはあるだろう。ジェイクが勝ったあとに、剣を見せる機会はないのかもしれない。


「……はい。そのときはオレのアピールはあきらめます。アスト先生に学園にいてもらうことが、オレにとって最優先だからです」


「……わかった。お前は弱気だが確実だ。司令官に向いているのかもしれないな」


「ありがとうございます、いきますっ!」


 ジェイクは木剣をルーザンに向け、まっすぐに相手を見据えた。


「ザコとザコの作戦会議は終わったかぁ? おままごとみたいでバカらしいねぇぇぇ!」


 ルーザンの挑発に対し、ジェイクはを放った。


「――ザコはどっちなんだろうねぇ? 嫌われ者のルーザンくん。【魔法剣士】ぃ? さっきから何も使ってないじゃん。炎属性が得意なんだっけぇ? ちり紙くらいは燃やせるのかなぁ?」


「ハァ……!? ハァ!? クソザコがボクをなめてんの!? ああ、そう! お望みどおり焼き殺してやるよッッ!!」


 ルーザンは両手に持った木剣に魔力を集中させる。


「天才と凡人の差を教えてやる……!! 獄炎双連撃インフェルノリフレイン全開フルバーストッッッ!」


 激しい炎がふたつの木剣を包む。木剣は黒く焦げつき、パチパチと音を立てた。


「どうだ! これがボクの本気! 最大火力の必殺技だぁ!!」


「わぁ、すごい。燃えてるねぇ」


 ジェイクは気のない返事をした。


 俺のチームのみんなも驚いている。


「燃えてるねー」


「すごいです……」


「アストセンセの洞察力は恐ろしいね……」


「な、なにわけがわからないこと言ってるんだ! なめやがって……死ねぇぇぇぇ!」


 ルーザンは怒りをたけらせ、双剣を頭の上に振りかぶった。


 ――そのとき、2本の木剣は燃えつき、根本から折れてルーザンの頭頂部に落下した。


「ぶ熱っちゃあああああああああッッッ!!!」


「あーあ……」


 だいたい予想どおりだ。アホらしすぎる。


 ルーザンは頭を押さえながら地面を転がっている。


 ギルドマスターと騎士団のスカウトも呆れかえっている。


「アレはダメだな……」


「点数とかそういう次元じゃないな……。関わってはならないものだ……」


「あひぃぃっ、あひぃぃっ!」


 ゴロゴロ転がるルーザンに、ジェイクは木剣を突きつけた。


「とりあえず、オレの勝ちね」


「え……?」


 ルーザンの動きがピタリと止まる。そのとき、頭頂部の髪の毛が、燃えてなくなっていたことがわかった。


「ま、待って、今のは……」


「これでアスト先生の退職はナシか。よかった。みんなに恨まれなくて済むよ。お疲れさま!」


「だ、だから待って、ボクの実力を見せられていない……」


「お疲れさま、ジェイク!」


「安全策でいったんだねー」


「アストせんせいの言うとおりでしたね……」


 俺のチームのみんなはジェイクの健闘をたたえている。


 スカウトとギルドマスターも総括に入っている。


「アストチームの面々はみなさん優秀でしたね……。このあと反対派チームからも一目置かれている【剣闘士】のアニーさんのエキシビションマッチがあるのでしょう? 楽しみです」


「反対派のみなさんはまだまだこれからですな。アストさんに師事すれば伸びるかもしれません」


「ええ、ただひとつだけ言えるのは……」


「ルーザンくんは使い物になりませんな……」


「あ、あ……」


 ルーザンは地面に這いつくばりながら、すがるように片手を伸ばしている。


「我はこんな愚かな人間と組んでいたのか……」


「あれだけ大口をたたいたのに、情けない人間ですわね……」


「もう付き合うのはやめるのサ」


「あ、あ、あ……」


 ルーザンチームの仲間たちも、心底軽蔑けいべつしきった目でルーザンを見ている。


 まあ、あんだけ罵倒ばとうしていた本人がこんな結果を出したらしょうがないか。


 最後に、俺はルーザンに近づき、優しく声をかけてあげる。


「大丈夫か、ルーザン。頭のハゲはケアするんだぞ。また生えてくるかもしれないからな。それに、王国騎士団もギルドもお前には期待してないみたいだから、お前も過剰な期待はするなよ。俺からのアドバイスは以上だ」


「お、お、お……」


 ルーザンは気づけば土下座のポーズをしていた。


「どうした、ルーザン? お腹でも痛いのか? ベッドで休んだ方がいいぞ」


「おねがびじまずぅ……もういぢど……」


「ん? 何か言ったか?」


「おねがびじまずぅぅ!! もういぢどだげやらぜでぐだざいっ!! ごのままではおわれまぜぇぇぇん……」


 ルーザンは、涙が土と混ざり、泥だらけの顔で俺を見上げた。


「もう一度? でも、さっき誰かに教えてもらったからなぁ……、勝負の場にやり直しはないって」


「ぞれはぢがいまずぅぅ! なにもじらないバガがいいまじだぁぁぁぁぁ!! お慈悲を、お慈悲をぉぉぉぉぉぉ!!」


「俺が勝手にルールを曲げていいのかも迷うしな。双方納得の上の戦いだったし……」


「ご、ごのルーザンにもヂャンズをぐだざいぃぃぃ! ジェイグぐぅぅん……やざじぐじでぇぇぇ、おおおおおおおおん!!」


 実にミジメだ。


「ふぅ……、どうする、ジェイク? 付き合ってやるか?」


 ジェイクは再び木剣を持って前にでた。


「はい、大丈夫です。いまならオレも普段の力が出せそうですので……」


「あ、ありがどうございまずぅぅぅ! お慈悲ぃぃぃ!!」


 もちろん、ルーザンがこのあと惨敗したことは言うまでもない。

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