第24話 【持たざる者】の生徒たち、圧倒する

「へん、逃げずに戦うつもりなのはホメてやるよ」


 俺の講師就任に反対する4人――ルーザンたちは、約束の時間より遅れて屋外訓練所にやってきた。


「遅刻だぞ」


 俺が指摘しても、ルーザンは悪びれずに言う。


「ボクはお前の生徒じゃないんだからな、えらそうに言うなよな。カス。それに庶民どもは待つのが仕事だろ?」


「ええ、ええ。おさかな釣りなどで待つのは慣れているでしょうに」


「じゃ、さっそくやろーか。オレたちの時間は貴重だからネ」


「……うむ。キサマに引導を渡してやる」


 反対派4人は誰ひとり遅刻したことを謝りもしなかった。


 まったく、どうしようもないやつらだな。ってのに。


「あのさ、お前ら……。俺はまだいいが、セイファードのギルドマスターや王国騎士団のスカウトの方まで待たせるなよな」


「は? てめー、なに言ってんだ? って、ゲェェッ!!」


 訓練所の端にふたりの男が立っていた。


 ひとりはセイファード本部のギルドマスター・グラン、もうひとりの切れ長の目をした男は、王国騎士団のスカウトであるキースである。


「な、なんで、この人たちがいるんだよっ!?」


「学長から模擬戦の話を聞いたとのことで、ぜひ同席したいと話をいただいたんだ。次世代の才能を見たいということでな」


「は、早く言えよッ!!」


「訓練所前には掲示しておいたがな。ん? まさか自主トレをしてなかったわけではないだろう?」


「ク、クッ……!」


 ギルドマスターと騎士団のスカウトはブツブツと話している。


「……時間にルーズだな。口も悪い。マイナス15点だ」


「ギルドも納品に遅れられたら困るからなぁ……。全員マイナス10点だな……」


「グ、グゥーッ!!」


 遅刻した連中は、声にならない怒りを発している。


 まったく遅れてきたくせに勝手なやつらだよ。


「じゃあ、そろそろ始めるか。おふたりをこれ以上お待たせするのも申し訳ないからな。お前らは誰が先鋒だ?」


 すると、【暴風斧】のフェルナンドが前に出た。


「我が戦う。失態は実技で取り返そうぞ。さて……我のスキルは広範囲攻撃のスキル。仮に事故があって、キサマらが全滅しても責任は取れぬぞ?」


 まったく、事故を起こす気マンマンじゃねーか。スキルの強さをPRするつもりなのかな。


 だけど。


「――問題ない。逆に、お前らがケガをした場合は治してやるから、精いっぱいやってみろよ」


「なんだと……!」


 木製の斧を持つフェルナンドの手がギシギシと音を立てた。


「我らを侮るな……! それで我の相手は誰だ……? 【剣闘士】か? 【心眼】か?」


「ぼ、ぼくだ……!」


 【斧使い(極)】のロビンが前に出る。


「キ、キサマが……!? 愚かな! アストよ、勝負を捨てたのかッ!? こいつはレアスキル持ちではないぞッ!!」


 俺はロビンの背中を叩きながら言う。


「俺はロビンなら勝てると思って選んだんだ。お前こそ油断して足元をすくわれるなよ?」


「アスト先生……」


「ク……、後悔しても遅い! 始めるぞ、異存はないな!」


「ああ、いくぞ、ロビン!」


「はいっ!」


 ふたりは訓練所の中央で向かい合う。

 俺はふたりの間に立ち、ルールを説明する。


「改めて確認だ。使う武器は木製。スキルの使用はアリ。相手が負けを認めるか、戦闘続行不能となったら勝ちだ。いいな?」


「はいっ!」


「……承知している」


「いくぞ……では、模擬戦スタートだっ!!」


 合図と同時にフェルナンドは斧を振りかぶった。風属性の魔力が木製の刃に集まっていく。


「……才能の差というのは哀しいものだ。一撃で思い知らせてやろう。【暴風斧】奥義・テンペストウォールッ!!」


 ブォォォンッッッ!!!


 轟音ごうおんとともに激しい風が巻き起こる。


 ――その風は、戦いの場に立っているロビンだけでなく、その後ろにいる、俺たちのチームの4人に向けても放たれていた。


「フハハハハ! キサマら全員まとめて倒してやるッ!!」


 暴風の名に恥じず、巻き込まれれば、大の大人でも20メートルは吹き飛ばされるほどの威力。


 まさに対軍戦闘では最強格のスキルである。


 しかし。


「ぼくだってやれる……、やっ!!」


 ロビンは斧を一振りすると、平然と風を受け流した。髪の毛はバサバサと揺れたが、体はフェルナンドに相対したままだ。


「な、何ッッッ!?」


 それだけではない。


 俺が指導を行ったグループ全員が、無キズで風をやり過ごしたのだった。


「意外と木剣でもいけるねー」


「アストセンセの風のほうが強かったかな?」


「言えてるね。アスト先生はほぼノーモーションだし。あの方は別格だよ」


「私は【心眼】で風の隙間を見つけました……。私も風を斬ってみたいなぁ……」


 スカウトとギルドマスターはブツブツ話している。


「あの風は見た目はハデだが弱いのかねぇ。とりあえずマイナス7点だ」


「いや、あの生徒たち、光るものがある。プラス10点だ……!」


「グ、グウウウウ!!」


 フェルナンドは足を踏み鳴らした。


「バ、バカなッ!? なぜ!? なぜ全員立っていられるッ!? 我のスキルは最強だッ!! 我単独で軍とやり合えるスキルなんだぞッ! なぜ効かぬのだッ!?」


 すると、ロビンは俺をちらりと見てから、フェルナンドに言い放った。


「――理由が知りたければ、アスト先生の生徒になりなよ。アスト先生はすごいよ。どの先生よりも教えるのが上手だよ?」


 おお、うれしいこと言ってくれるな。


「だ、誰がこのような男に教えをこわなくてはならぬのだ……!」


「ふぅ、アスト先生を追い出そうとしているきみたちはバカだよ。ぼくはアスト先生に教えてもらいたい。だから、きみを討ってみせる」


「グ、グググ……! 凡人に毛が生えた程度のザコが……! 思い上がるなッッ!」


 フェルナンドは再度斧を振りかぶる。先ほどよりも濃密な魔力が斧に集まっている。


「気が変わった。キサマだけを枯れ葉のように飛ばしてやろう。【暴風斧】奥義・トルネードストライクッ!!」


 ビュウウウウウウウッ!!


 フェルナンドが斧を振るうと、天へと伸びる竜巻が発生した。


 竜巻はロビンに向けて進んでいく。


「さあ、吹き飛ぶがよいッ!! 巻きこまれろッ!!」


「む――」


 あの技の対策はしていなかった。あの男の隠し玉と言ったところか。


 しかし、あの程度なら、俺が教えたことさえ覚えててくれれば――。


「ぼく、アスト先生に教えてもらったんだ。【斧使い(極)】ってことは、投げ斧だって使いこなせるんだ」


 ロビンは斧を振りかぶり、竜巻をかすめるように投げつけた。


「えーいっ!!」


「ぬ……」


 木製の斧は竜巻により加速し、その勢いのままフェルナンドに直進した。


「いけっ!!」


 そして、木製の斧はフェルナンドの腹部に直撃した。


「ガハッッッッ!!」


 フェルナンドがその場にうずくまると、竜巻は勢いを失い、霧散した。


 ロビンはフェルナンドのそばに落ちた斧を拾い、相手に突きつける。


「はぁ……はぁ……。ぼく、勝てたかな?」


「よくやった、ロビン!」


 俺はロビンの背中を叩き、勝利を宣言する。


「第1試合、勝者! アストチーム【斧使い(極)】のロビンっ!」


 うおおおお、と歓声があがる。


 その後ろで、やはりスカウトとギルドマスターがブツブツ話していた。


「いくらレアスキルといっても使いこなす技量が無ければな……。マイナス40点としよう」


「あの【斧使い】はプラス50点だ……」


「そして、SSランク冒険者のアストは教育にも精通しているのか……。王国騎士団に招きたいな……」


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