第20話 【持たざる者】、最後のわからせ②

「ふむ……、では、両陣営の一問一答形式でいくかの? では、アストくんから」


「学長、心づかい感謝する。じゃあ聞こうか、バイド先生? あんたは、アンバーをけしかけて俺を殺そうとしたな?」


「そ、そんなことはしていないッ!」


 ブラーン、ブラーン!


 真理の振り子がウソを検知して激しく揺れた。


「なるほどの……。まあ、普通に殺人教唆きょうさだの……」


「そ、そんなことしてないのにぃ!」


「じゃあ、ほれ、バイドもアストくんに質問してよいぞ」


「こ、こいつは、アンバーとレジーナに危害を加えた! 謎のスキルでアンバーとレジーナを攻撃したんだ! そうだろ!?」


「ふぅ……。まずは俺のスキルは【持たざる者】という名前だ。謎のスキルではない。そして、俺は先輩ふたりを攻撃などしていない。俺がしたのは教育だ」


 ピタッ!


 真理の振り子は真実を前に動きをとめた。


「ど、どうしてぇぇぇぇ!! 攻撃したじゃあぁぁぁぁん!!」


「俺はふたりを叩いたりはしていない。攻撃と教育の区別もつかないんじゃ、お前は能無しだよ」


「ぐぅぅぅぅぅ!!」


「次、アストくん、聞きたまえ」


「なぜアンバーとレジーナを教育する必要がでたのか、それは……」


 すると、いきなりアンバーとレジーナが騒ぎだした。


「ウォォォォン、言わないでくれェェェ!!」


「上級王国民へのみちぃぃぃぃぃ!!」


「学長。外野が……」


「うむ、静粛せいしゅくにしたまえ!! 【封印魔法】バインド!!」


「アガッ……むー! むー!」


「――っ! ――――っ!!」


「さあ、アストくん。続けたまえ」


「感謝する。見事な魔法だ」


「ほほ、わしは昔、王国騎士団長であり宮廷魔術師長であった。まだまだおぬしらには負けるつもりはないぞ」


「ふむ……」


 俺が学長と戦うなら、まずは魔法封じの《陰》魔力フィールドを展開してから、肉弾戦に持ち込むかな……。


 ……というのはいいとして。


 元王国騎士団長であれば、これから話す事実を公平にジャッジしてくれるだろう。


「では、改めて聞く。お前とアンバーとレジーナは、真実の迷宮のボス・巨大なよろい騎士の前に、オリヴィアを置きざりにして逃げたな。オリヴィアが死ぬことを予見した上で。自分たちだけのいのちを守るために」


「そ、そんなことはしていないッ!! 私はオリヴィアを救おうと……」


 ブラブラ! ブラブラ!


 真実の振り子はウソだと伝えてくる。


 学長はプルプルふるえながら、顔色を真っ赤に変えた。


「生徒を見捨てて逃げただと……!! バカものッ!! 王国騎士団を排出すべきセイファード学園で教鞭きょうべんを取りながら、そこまで性根しょうねが腐っていたとは……!! 恥を知れッッ!!」


「ひっ――」


「アンバー、レジーナ、お前らもそうだッ!! お前らは学年首席……ただの1生徒ではないッ!! お前らはセイファードの看板を背負っているのだッ!! このまま卒業なり進級させるわけにはいかんッ! 留年だ! 根性を叩き直してやる!!」


「むー、むー……!!」


「――っ!!」


 ふたりとも泣いてよろこんでいる。立ち直れる機会を得られてうれしいんだろうな。


「なお、このことは留年理由として学園カードにも書かせてもらう! 王国騎士団を始めとする就職希望先がどのように判断するかは知らぬ! 時が来たら自分で確かめるがよい!」


「むぉぉー……」


「…………っ」


 おお、あれが滂沱ぼうだの涙というやつか。だらだらすごい量が流れてるな。


 こいつらは退学とまではいかなかったが、留年の上、学長の監視を受けるんだもんな。まあ、手打ちなのかもな。


 一応、オリヴィアにも意見を聞こう。


「……オリヴィア、こいつらにチャンスを与えていいと思うか?」


 オリヴィアはニコリとほほえんで、


「うんっ、わたしはうらんでいないし、学長先生が決めたことだから」


「オリヴィアは優しいな」


「そんなことないよ、アストくんがいてくれたからそう思えるだけ……」


「はいはい、ご主人さま! 裁判は終わってませんよっ!」


 ミミコは「真理の振り子」を持った手をブンブンさせながら、俺たちの会話に割り込んできた。


 てか、あの振り子すごいな。あれだけ振っても、ハリガネみたいにピタリと止まっている。


「ふむ……。宝箱のお嬢さんの言うとおりだ。まだ裁判は終わっておらぬ。おおむね大局は決まったようだがの。あと2、3問でしまいにしよう」


「が、学長……私は……」


「ほれ、情勢をひっくり返してみよ。バイドの順番だ」


「は、はいぃ! 質問……、質問は……、そう! このアストは、我々セイファードの手柄を横取りしようとダンジョンまでつけてきたのです! 信頼できない人物です!」


「そんなことはしてないぞ」


 ピタ……。

 振り子は動かない。


「はい次」


「ど、どうしてぇぇぇ!? そう言ったじゃぁぁぁん!」


 ブラブラ!


「なんで勝手に揺れるんだよぉぉぉ!!」


「ふぅ……」


 もはや妄想と事実の区別もつかないのか。


 悲しいことだが、俺が引導を渡すしかないのかもな。


「じゃあ、俺からの質問ね」


「アストくん、どうぞ聞きなさい」


「――あんたは生徒をいやらしい目で見たことがあるか?」


「な、その質問は今回の話と関係がないぞッ! 学長、抗議します!」


「抗議を却下する。アストくんは貴重な質問枠を使って聞いておるのだ。答えなさい」


「う、う……ないッ! 私は生徒をいやらしい目で見たことなんかない!!」


 ブラン! ブラン!


「振り子がウソ、振り子がウソなのぉぉぉぉぉ!! 私はぁ、私はぁ!!」


「バカものッ!! 《真理》のルーンは古代の秘宝よ!! 虚偽を述べたのは貴様だッ!! 教師としての資質が欠如していること、確信させてもらったぞ!!」


「ちがうぅぅぅぅ!! 私はいやらしくないぃぃぃ!」


 ブラブラブラブラ!!


「わ……、なんかやだな……」


「生徒さんがかわいそうです……」


「はぁ、もういい。そろそろ最後にしよう。バイド、まだ質問はあるか?」


「うぅ……、アストはズルをしてSSランクになったゲスなんだぁ……。信じちゃいけないんだぁ」


「そうなのか? アストくん」


「実力だぞ。ラフレシア・アルラウネを単独討伐した功績によるものだ」


 ピタ……。


「なんでえぇぇぇ!? ウソに決まってるのにぃぃぃ! 超Sランクモンスターはこの前まで学生だったやつに倒せるはずないのぉぉぉ!」


「倒せたぞ」


 ピタ……。


「ウソつきぃぃぃぃ!!」


「見苦しいぞ、バイド!! それ以上騒ぐと【封印魔法】をかけるぞ!!」


「ううううう……!!」


「アストくん、まだ聞きたいことはあるかね? あれば聞きたまえ」


「ああ。最後にこれだけ。先生、あんたは学園のモノを盗んだことはあるか? 今回も学園に内緒でここに来たんだろ? 学園への忠誠心などないんじゃないか?」


「――っ! い、いやだ! 回答を拒否する!! アストの方が質問が多い! ズルだ!」


「答えたまえ! 答えられない理由があるのかッ!?」


「ないッ! ないけど、ズルだからイヤなの!!」


「はぁ……」


 俺はあまりの見苦しさにため息を吐く。


「わかったよ、センセイ。あんたは学園の金もモノも盗んでいない。そうだろ? 質問を取り下げるか」


「そ、そのとおりだッ!! アストォ! 私は無実だァ!」


 ブラブラブラブラ!


「む……! キ、キサマ……」


 学長は激しく握りこぶしを揺らしている。


「あ、あ……」


 アホすぎる……。俺はこんなやつに退学を宣告されたのか……。


「前から報告はあった……。2学年の活動費の収支が合わないと……」


「いや、ウソ、ウソだ……」


「キサマはクビだァァァ!! 憲兵に引き渡してやるッッ!!」


 その瞬間、セイファード学園・新2年生武芸クラス担任が空席となることが確定した。


 ……誰かが穴埋めをする必要があるとは思ったが、それが具体的に誰になるかまで、俺にはわからなかった。

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