第19話 【持たざる者】、最後のわからせ①

「ウォォォォン……」


「ぶぇぇぇぇん……」


 よし、これで生徒ふたりの更生が完了だ。指導は必要なことだが、生徒の涙はつらいなあ。


 さて、最後だ。


「先生、あんたはちゃんと証言してくれるよな? 自分のしたことを」


「あ、ああ! 約束する! だから、助けてくれ」


「よし」


 俺は魔法で教師を浮かせて、シビレ罠から助け出した。


 教師は、ハァハァ言いながら、迷宮の床に座りこんだ。


「アストくんにスキルがあったなんて……。あの後発現したのかい?」


「スキルクリスタルはきちんと機能していたぞ。解釈する方の問題だった」


「それはどういう意味なんだ……?」


「モノを知らない上に、判断力が欠けているやつが教師だったせいで潰されそうだった才能があったということだ。【持たざる者】というスキルがあることくらい思い当たらなかったのか? 愚鈍のきわみだ」


「な、何をえらそうに……」


「ん? なんが言ったか? まぁ、もうどうでもいいことだがな。俺はSSランク冒険者として名声を得ているし、教師のほうはおそらくクビ、よくて停職のうえ誰からも信頼されなくなるだけだ」


「くっ……」


「さあ、地上に戻るか。教師のあんたはそっちの落第生ふたりを連れてこいよ。これまで指導してきた責任があるんだからな」


「ぐ……、おい、アンバー! レジーナ! いったん帰るぞ!」


「ウォォォォン、オレはどうすればァァ……」


「ぶぇぇぇぇん、上級王国民になりたいぃぃぃ……」


「――ご主人さま、なんだかあわれですね……」


「身の程に合わない地位を得ようとしたことに対する代価だ。……ミミコはあいつらに王国騎士団になってもらいたいわけではないだろう?」


「それはそうです……。いざというときに戦ってくれない人は頼りにならないですから……」


「だろ? 国のためにも、本人たちのためにも、騎士団にいれないというのが最善なんだ」


「ほぇぇ……、国のことまで考えているなんて、ご主人さまはさすがですね。ご主人さまこそ騎士団に入るべきなのかもしれませんね……」


「まあな。できるやつのところに仕事は集まるというし、悩ましいところだ……」


 そんな話をしながら、地上に戻った。


 ☆


 地上に出ると、体格のいい老人が立っていた。


「――が、学長っ!! なぜここに!!」


 学長? ああ、入学のときにいた話の長いじいさんか。


「バイドよッ!! わしは生徒を連れての迷宮探索など許可しておらぬぞ!! もしものことがあったらどうするのだ!!」


「は、ははー! 申し訳ございません! しかし、これが学園の名誉を高める最善の道と……」


「ん? そこにいるのはアストくんではないか!? バイドよ、アストくんに学園の講師になってくれるようお願いしたのか?」


「そ、それは……」


 俺が代わりに答えてやる。


「そんなことは頼まれてないぞ。むしろこいつは生徒をけしかけて俺を殺そうとしてきた」


「な、なにっ!?」


 アンバーに「ケイオスソードを使って殺せ」とか言ってたしな。


「ほ、本当なのか、バイドッ!?」


「あ、いえ……」


 教師はオロオロしたあと、学長に言った。


「ア、アストの話は、真っ赤なウソでございますッ!」


「む……」


「な、何言っているんですかっ!? ご主人さまはウソなんかついていませんっ!!」


「見てください、学長! 我が校の最優秀生徒のふたりを! 様子が変だとは思いませんか!!」


「ひくっ……ひくっ……」


「上級王国民……」


「たしかに様子は変だな……」


「これは、ここにいる【幻影魔法】のオリヴィアと、得体のしれないスキルをつかうアストが共謀し、危害を加えた結果でございます!」


「え、わ、わたし、ちがいますっ!!」


「アストは、セイファード学園に強いうらみを持っています!! 学園の上位層への意趣返し……こんなことをする人間は、歴史あるセイファード学園の講師にふさわしくありませんっ!! オリヴィア共々、厳正な処分をお願いしたく存じますッ!!」


「ご、ご主人さまはそんなことしていませんっ!! この人の方が嘘つきですっ!!」


「ふぅむ……」


 学長はアゴを指でさわり、


「アストくん、きみの言い分を聞こう。きみはオリヴィアくんと組んで、生徒に害をなそうとしたのかね?」


「――俺からの反論はない」


「ア、アストくん!! ちゃんと説明しないとっ!」


「――だから、反論の必要はないんだ。ミミコ、さっそくアレを出してくれ」


「あ……、はいっ!!」


「む……?」


 まったく、このクソ教師の行動は予想どおりだよ。アホすぎてイヤになるな。


 ミミコは頭のアイテムボックスから、《真理》のルーンが秘められたペンダントを取り出した。


 真実の迷宮、最奥部さいおうぶに眠っていた古代の秘宝――「真理の振り子」である。


「アストくん、それはまさか……?」


「学長ならご存知か? ウソを見抜くことができる『真理の振り子』だよ。ミミコ、ぶら下げたままこっちに来てくれ」


「はい、ご主人さま!」


「そ、そんなバカなッ!! 振り子は超Sランクモンスターが守っていたはずだ! お前ごときに倒せるはずがないッ!」


「はぁ……、俺はSSランク冒険者なんだって。てか、倒したのは、ほとんどオリヴィアとミミコのふたりだぞ?」


「こ、こいつらで倒せるわけないッ!」


「ふぅむ……」


 学長は、ミミコが持つ振り子のクリスタルをじっと見る。


「クリスタルの中にあるのは《真理》のルーンに見えるの……。失われし古代技術だ。これが本物なら……」


 学長はおだやかな顔で俺に言った。


「アストくん、試しにわしに質問をしてくれんか? わしが学長かどうか聞いてくれ」


「ああ、わかった」


 俺は、ミミコが持つクリスタルをちらっと見てから学長に問いかけた。


「じいさん、あんたはセイファード学園の学長なのか?」


 学長はハッキリと断言した。


「――


 すると。


「わわっ、ご主人さま!」


 ミミコが持っていた振り子は、強風に吹かれたかのように激しく揺れた。


「もう一度聞くぞ。あんたは学長か?」


 再度、学長は断言する。


「――そうだ」


「わわわ!!」


 その瞬間、振り子はピタリと動きを止めた。


 学長はしげしげとクリスタルをながめて言う。


「この振り子の動き……、人の手によるものではないな。この宝箱のお嬢さんは何もしていなかった……。ならば……」


「ご主人さま、宝箱のお嬢さんですって!」


「いいから黙って聞いてろ。どうだ、学長?」


「――信じよう、これは古代の秘宝『真理の振り子』だ。これで誰がウソをついているか、一目瞭然だの」


 真理の振り子はピタリと止まったままだ。すなわち、学長は振り子の効果を信じてくれた。


 俺は学長に提案する。


「――さあ、現代の裁判をはじめようぜ」

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