第16話 【持たざる者】と無能な3人
「何してるんだ、お前ら……?」
――真実の迷宮地下2階。
オリヴィアを見捨てた3人組が、バチバチと音がする床の上で固まっていた。
こんなところで再会するのは、想定外だった。
【暗黒剣士】のアンバーが言う。
「見てわからないかっ!? 罠で動けねェんだよ! 早く助けやがれ!」
「ご主人さま、これ結構いたかったです……」
「……お前が不注意に進んだからだろ」
行きの道中、この罠にミミコは見事に引っかかり、「だずげでぐだざいごじゅじんざま」と大騒ぎをしていた。
いわゆるシビレ罠らしい。
結局は、俺の魔法で宙に浮かせて助けてやった。
「ど、どうしてなのよっ!? こんな罠、来たときにはなかったのに!」
【鉄壁】のレジーナが騒いでいる。
「あの〜、ありましたけど……。、行きはわたしの【聖魔法】トラップバリアで無効化させていただいていました」
「そ、そんなこと聞いてないわよ!!」
「わかりやすい罠なので、みなさんお気づきなのかと……。では、わたしの支援魔法についてもお気づきではなかったのですか……?」
「オリヴィア、あまり攻めてやるな。こいつらはオリヴィアほどデキが良くないんだ。罠にかかってさわぐイノシシと同レベルだよ。力は強いかもしれないが、バカなんだ」
「キィィィッ!!」
「そうです! 罠には気をつけること! 勉強になりましたか?」
ミミコもドヤ顔で忠告をしている。こいつにだけは言われたくないだろうな……。
教師が言う。
「オ、オリヴィア、あの敵から逃げられたんだな? よかった、信じていたよ! 助けてくれ! アストくんも偶然居合わせたんだな! もうSSランクになったんだから、私たちのこと助けてくれるだろう?」
「そ、そうだ! オリヴィア、仲間は助けるのが当たり前だろ!? 俺たちがお荷物のお前をどれだけ助けてやったと思ってるんだ!」
「どうする? 助けてやるか?」
オリヴィアに問いかける。オリヴィアは真面目な顔で答えた。
「――先輩たちはわたしのパーティメンバーだったんだよ。助けないという選択肢はないよ」
「ま、オリヴィアならそう言うよな」
オリヴィアは、うらみつらみで人を傷つけたりしない。たとえ、自分を見捨てたやつやクズ人間が相手だとしても。
「冒険者が自分のいのちを守るために仲間を見捨てるのは割とよくあることだから……」
「ま、そうだな。だが、教師としての立場があるやつは許されないだろうけどな。あと、王国騎士団も確か仲間を見捨てるのは厳禁だったよな。スカウトを受けてるやつや志望者には致命的かもな」
「キ、キサマ、オレを
「サイテーね、ゲス男!」
反応を見るかぎり、やはりこいつらは王国騎士団志望なんだろうな。
――もともと、セイファード学園は王国騎士団の養成所として作られた施設だ。
王国騎士団はセイファード王直属の防衛組織として非常に高い身分を与えられる一方、弱者を守る気持ち――いわゆる
仲間を見捨てるようなやつらは、騎士団に入るべきじゃないんだよな。
「
「な――」
「そ、そんなことは許されないわッ!! できそこないのハイエナに学年トップのわたくしたちの未来がつぶされるなど許されないっ!」
「アストくん……」
オリヴィアが俺のそでを引っぱる。
「なんだかわたし、イジワルな気分になっちゃったの……。これって、変なのかなぁ……」
「いいや、正常だ。むしろ優しすぎるぐらいだ。意見が一致したところで俺に任せておけ」
「う、うんっ!」
「おい、オレの話を聞いているのかッ!? オレが王国騎士団に入れなければ、国の損失だぞッ! わからないのか、低脳がッ!!」
「ア、アストくん、勘違いしているようだが、私たちはオリヴィアを見捨てたわけではない! 助けを呼びに戻ろうとしただけなんだッ!」
「でも、お前ら、SSランクになった俺に目もくれずに逃げていったじゃん。俺に助けを求めるのが普通じゃないの?」
「そ、それは……、そう! 君はスキルがないだろう!? あのボスを倒すためには強いスキルが必要だと思ったんだよ!」
「はぁ……、言い訳も見苦しいぞ」
「グダグダうるせェんだよ! スキル無しの無能が! 運だけでSSランクになったからって調子に乗るなよッ! ザコはエリートにしたがってればいいんだよッ!」
イノシシは元気すぎるな。少しわからせてやらないと、人間社会に害をなしそうだなぁ。
「じゃあ、ちょっとだけチャンスをやるか? ミミコ、そこに落ちてる荷物を取ってくれ」
「こちら、ですか……?」
ミミコはアンバーとレジーナの
「ああ、サンキュー」
「お、おい、それはオレのだぞ!」
「わたくしのものに触れないでくださるっ!」
「はいはい、中をさぐって、と……」
俺はふたりの袋からカードを取り出した。
「キ、キサマ……、オレの学園カードに触るな!」
これはセイファード学園カードといい、ギルドの冒険者カードと同じ魔法仕掛けでつくられている。
生徒の名前や学年はもちろん、所属クラスやスキル、さらには過去に行った慈善活動などが記録されている。
紛失した場合、学園で再発行はできるが、慈善活動の記録は孤児院などで都度つけているため、復元ができない。
「このカード、なくなったらどうなるかわかるか?」
「ひ、卑怯者! わたくしが行った慈善活動の記録を消すつもりッ!? 王国騎士団の面接で使うのよッ! 返しなさいッ!!」
「最低だな、無能のクズがッ!」
「ご、ご主人さま、この人たち慈善活動してるんですか……? 本当はいい人なんじゃ……」
「ミミコは純粋だな。こいつらの様子を見てみろ。性根から腐ってるだろ? どうせ、相手をバカにしながら、イヤイヤ就職のためにやってたんだ」
「は、それの何が悪い!? 本来は身分も違うクズを助けてやってんだよ!」
「はあ……」
さすがにもう話したくなくなってきた。俺は壁に手をつけて、3バカに言い放つ。
「俺さ、スキル無しの無能だってそこの教師に言われたけどさ、本当はスキルを持ってたんだよな。ほら、見てみろ」
《陰》土魔法・風化で、壁の一部をさらさらの砂に変えた。そして、レンガブロックを外して、ひとつ持つ。
「これは物を砂に変えることができる魔法。これをさ、見てろよ」
俺は後ろの通路に上級生ふたりの学園カードを置き、その上に先ほどのレンガブロックを置いた。
「な、何をしてる……、言え! グズッ!」
「――3分」
「は?」
そう告げるとともに、俺はアンバーを《陰》重力魔法・浮遊で罠から救い出した。
「ご、ご主人さま、何してるんですかっ!?」
アンバーは地面によつん這いになり、息を整える。
「ハァ……ハァ……! キ、キサマ、助けるのが遅いぞ!! 学園カードも返せ!!」
「ま、動機はともあれ、慈善事業をしてきたんだからな。それに免じて、チャンスをやるよ」
「な、何ッ!?」
「ゲームをしよう。今から3分以内に俺を倒して学園カードを拾えたら無能センパイの勝ちだ。お前らがオリヴィアを見捨てたことも言わないし、活動記録も戻ってくる」
「ゲームだァ? ふざけてんじゃねェぞ!!」
俺は相手にせずルールを伝える。
「――ただし、俺に勝てなかった場合は、物を砂にする魔法がレンガブロックを風化しきって、あんたらのカードを砂にする。もちろんオリヴィアを見捨てたこともおおやけにする。王国騎士団の入団は絶望的になるだろうな……」
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