第15話 【持たざる者】と1年生首席の少女

 俺は、巨大なうごくよろいの大剣を2本の指でおさえながら言った。


「てかさ、こんなデカブツよりオリヴィアの方が強いぞ。セイファードで一緒だった俺が言うんだから間違いない」


「そ、そんなことはないよ……。わたしなんか、グズで何もできなくて……」


「あいつらに色々言われ過ぎたんだろ。本当のオリヴィアは優秀だよ」


 うごくよろいが大剣を動かそうとしてギシギシいってくる。


「でも、わたしは足手まといで……」


 ギシギシ、ギシギシ、ギシギシ……。


「いま大事な話してんだから、邪魔するなよ」


 大剣ごとよろいをぶん投げると、反対側の壁に直撃し、ズガァァァァン!と大きな音を立てた。


「よし、これで静かに話せるな。あのデカブツはさ、パワーがあって剣の振りが速いだけだ」


「それを強いっていうんじゃ……?」


「いや、あいつが人間並みの大きさだったらどうだ? オリヴィアなら勝てそうじゃないか?」


「あ……」


 オリヴィアは何をつかんだようだ。やはりオリヴィアは俺たちの学年で最優秀だよ。


「ミミコ、世界樹の杖をくれ」


「む〜……、いいですけど、結婚アイテムは弓矢ですよね?」


「指輪だろ、いいから出せ」


 ミミコは頭についたミニ宝箱のふたから、メルキオールコレクションのひとつ、伝説の「世界樹の杖」を取り出した。


 オリヴィアは驚いて口を手でおおった。


「え、頭からアイテムが出せるの!? すごい……。こんなスキル見たことないよぉ」


「もー、オリヴィアさん! 褒めても何も出ませんよっ!」


 杖が出てんじゃねーか。


「はい、ご主人さまっ」


 ミミコは機嫌よく世界樹の杖を俺にわたした。


「使ってみてくれ」


「え……、何これ……」


 オリヴィアに世界樹の杖を渡すと、その形状が変化した。


 ただの木の棒だったのに、ねじれ、丸まり、まるでレイピアのような形状になった。杖の周りは魔力でうっすらと輝いている。


「世界樹の杖は、使い手にもっとも適した形に変わるらしい。それがオリヴィア用の形状ってわけだ。さ、ちょっと練習してみるか」


「うんっ、アストくんっ!」


 がしゃん、がしゃんと、うごくよろいが反対側から近づいてくる。


「怪我しても治してやる。まずは思いっきり戦ってみてくれ」


「うんっ……いくね!」


 オリヴィアは、うごくよろいに向け、駆けていく。


 うごくよろいは大剣を振りかぶり、下に叩きつけた。


「ご、ご主人さまっ、助けないんですかっ!?」


「まあ、見てろ」


 大剣の下に、オリヴィアはいなかった。


「え……?」


「――こっちだよ」


 オリヴィアは高くびあがり、うごくよろいの頭を世界樹の杖で突きさした。


 ガコォォォォォン!!


 一瞬だけよろいの頭が揺れ、胴体との隙間から黒い霧がもれた。


「よし、いいぞ! オリヴィアは強いな!」


「えへへ、うれしいな」


 オリヴィアは俺の横までいったん下がってくる。


「今、気づいたんだがな、よろいの中身は闇属性じゃないか?」


「え……、聖属性は効かなかったけど……」


「たぶん、外側のよろいは聖属性で、中身と属性が違うんじゃないか?」


「そんなことが……」


「さあ、敵本体に聖魔法を撃ち込んでみろ。オリヴィアならできるだろ?」


「う、うんっ!!」


 オリヴィアは、自信に満ちあふれた顔で敵に突っ込んでいった。恐怖は消えたらしい。


「ご主人さま、オリヴィアさんばかりじゃなくて、あたしにも教えてくださいぃぃ……」


 ミミコは泣きそうになりながら、俺の腕にすがりついてきた。


「わかった、わかった、次な。ミミコも強いからな」


「はいぃぃ……」


 オリヴィアはフェイントをおりまぜながら、うごくよろいに近づいていく。


 うごくよろいは大剣を振りかぶり、フェイントの軌道ごとすべて横なぎで切り裂くつもりのようだ。


「さすがだな、攻撃を誘導したな」


「え――」


「ミミコはミミックフォームになっていてくれ」


 うごくよろいの横なぎの一閃――。


「やっ――!」


 しかし、オリヴィアは高くび、攻撃をかわした。


「いくよ――せいっ!!」


 ガコォォォォォン!!


 オリヴィアは敵のかぶとの隙間に世界樹の杖を突きさした。


 そして。


「聖魔法――ホーリーボールっ!!」


 杖をつたい、よろいの内部に直接魔法を叩きこんだ。


「グォォォォォォォォォッ!!!」


 うごくよろいから、獣のような声が聞こえる。


 オリヴィアは敵を蹴りつけ、反動で距離を開ける。


「オリヴィア、いったん下がれ!! ミミコ、行け!!」


「はいっ、ご主人さまっ!」


 ミミコは宝箱の形になり、隙間から魔弓フェイルノートを出した。


「撃ちますっ!!」


 ――ミミコの宝箱内は異空間である。スキル【アイテムボックス】同様、中の時間は止まっている。


 すなわち。


 弓のリロード時間ゼロで矢を連射できるのだ。


 ププププププ……!


 果実のタネのように、口から矢を飛ばす。


 伝説の弓から放たれるがゆえ、1射1射が必殺の威力。しかも、必中の弓の二つ名に恥じることなく、自動誘導がついている。


 矢はすべて、うごくよろいの頭に飛んでいった。


 ガガガガガガガガガ!!


「グオオオオオオ!」


 カコン、と音がして、うごくよろいの頭からかぶとがとれた。黒い霧が大量に漏れだす。


「オリヴィア、全力でいけ!」


「は、はいっ!」


 オリヴィアはよろいの隙間に世界樹の杖を突き刺し、魔法をつかった。


「聖魔法――ホーリーランス・全開オーバードライブッ!」


 うごくよろいのあちこちの隙間から、光の線が飛び出る。


 そして。


「ヴァウウウゥゥゥ……」


 うごくよろいはガシャンと倒れ、小手や肩当てなど、パーツごとにバラバラに飛びちった。


 敵は完全沈黙した。


「ご主人さま、これは……」


「俺たちの勝ちだな」


「やりましたぁぁ! ご主人さまっ、ミミコは役に立ちましたよねっ!」


「ああ、よくやった」


 頭をなでてやると、ミミコは「えへらぁ」というよくわからない声を出した。


 オリヴィアは崩れたよろいの側で、息を切らせながら座っている。


「はぁ、はぁ……、わたし、勝てたの……? 超Sランクモンスターに……」


「ああ、よくやったな。やはりオリヴィアはできる子だよ」


「ほんと……? グズじゃない……?」


「当たり前だ。世間ではお前みたいなやつを天才というんだよ。ほら、回復してやる」


「え……、わたし、キズはそこまで……」


「いいから。《陰》時魔法、時間逆行」


 オリヴィアに魔法をかけると、魔力が戦闘前の状態まで回復した。


「え、え!? なんで魔法で魔力が回復するのっ!?」


「そういう魔法なんだよ。これで歩けるか? ん? 今度はちょっと顔が赤いか?」


「う、ううんっ! だいじょうぶ……だいじょうぶだから……」


 オリヴィアは少しぼーっとしているようだ。疲労だろうな。


「アストくんはなんでもできるし、先生より教えるのが上手だね……。わたし、学園をやめてアストくんの生徒になろうかなぁ……」


「そ、それはやめてくれ! オリヴィアの両親に怒られてしまう!」


 大事な娘をそそのかしてエリート校から退学させたと言われたら、耐えられない。


 すると、オリヴィアは。


「うん……、そうかもね……。じゃあ、わたしのお父さんお母さんにあいさつしてもらってからにするね」


「え?」


 なんかわかってもらえてない気がする。大丈夫かな?


「でも、なんか学園にはいづらくなるなぁ、わたし……」


「オリヴィアがそう思うことはない。俺が逆にあいつらを学園から追い出してやる。さ、次のフロアへ行くぞ」


 ☆


 次のフロアは、法廷の跡地のようだった。


 左右に2陣営の席があり、背後には傍聴席、正面には裁判官席があったものと思われる。


 そして、裁判官席の前。


 てんびんを持った女性の像の首に、クリスタルがついたネックレスがかかっていた。


 クリスタルの中には、失われし古代技術――《真理》のルーン文字が閉じ込められ、虫が入った琥珀こはくのようになっていた。


「ご主人さま、ここに何か書いてありますっ! 昔の字ですっ」


「アストくん、読んだほうがいい?」


「大丈夫だ。『真理の振り子』、だろ? これで真実の迷宮クリアだ」


「やったぁぁぁ!!」


 ミミコは飛び跳ねてよろこんだ。


 ……よし。さっそく、この道具が使えるんじゃないかな?


 俺は使い方をイメージしながら、像から振り子をとりはずしたのであった。

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