第14話 【セイファード学園】の横暴
――真実の迷宮、地下3階。
「ほら1年、支援しろよっ!」
「は、はいっ! ホーリーボールっ!」
オリヴィアの手から光の玉が飛び、白銀の
しかし、白銀の騎士は魔法をものともせず、鉄球を振り回してきた。
「きゃっ!」
「ああ、もう、グズねぇ!! ぜんぜん効いてないじゃないのっ! そんなんでよくわたくしたちについてこようと思ったわね!」
「チッ! 無能は引っ込め!
3年武芸クラス主席、【暗黒剣士】のアンバーは闇属性の剣で鎧騎士を攻撃した。
鎧騎士はガラガラと音を立て、ただの鎧となってその場に崩れた。
「見たか! これがエリートの力だッ!」
「見事だ、アンバー!」
引率のバイド先生は手を叩いてアンバーをたたえた。
「やはり武芸クラスの者は頼りになるな」
「ほんと、お荷物がいなければもう少し楽なのにねぇ。ね、誰かさん?」
「も、申し訳ありません……」
オリヴィアはやるせなさに目を伏せる。
真実の迷宮は、動く
古代の裁判所跡という特性もあり、モンスターはすべて聖属性を持っていた。
オリヴィアは思う。
(出てくる敵はみんな【聖魔法】攻撃に耐性がある……。防御も硬く【細剣術】も効きにくいし【幻影魔法】は使うタイミングがない……。わたしにできるのは、ちょっとした支援魔法だけだ)
本当になんて未熟なんだろう、落ち込んでしまう。
「先生、このグズ、置いていけないんですかぁ?」
「まぁ、そう言うな。上級生のお前らから見ればまだまだかもしれんが、下級生の教育も大切だからな」
「ふん、いいから行くぞ。ハイエナクソ野郎が来るかもしれないんだろ?」
「ああ、退学処分にしたアストだな。スキルもないくせにSSランク冒険者になんかなれるはずはないからな。人の手柄をよこどりするしか能がないクズのはずだ」
(アストくん……)
昨日、アストくんがわたしたちと同じ宿に泊まっていることに気づき、バイド先生は言った。
あいつは私たちセイファードの手柄を奪いに来たコソ泥だ、どこかで情報を聞きつけて私たちをつけてきたのだ、と。
特にわたし、オリヴィアは情報を横流しする可能性があるから、部屋の外には出るなとまで言われた。
オリヴィアは思う。
(アストくんは横取りなんてしない……!)
だけど、言い出せなかった。聴いてもらえないとわかっていたから。
のど元にこみ上げるような思いを抱えながら、地下4階に降りる。
すると。
「なるほど、ボスフロアか……」
赤い絨毯のようなものが敷かれた広いホール。
その中心に、高さ5メートルはあろうかという動く
奥にはさらに地下に降りる階段がある。戦闘は避けられないだろう。
「先生、どうしますか?」
【鉄壁】のレジーナが聞く。
「――やれるか?」
「うふふ、やれるか、ですって? どうですかぁ、先輩?」
「愚問だな、このエリートにできないわけがないだろォ!」
【暗黒剣士】のアンバーと、【鉄壁】のレジーナは動く巨大
レジーナが攻撃を受け止め、アンバーが敵を討つ作戦だ。
しかし。
「え――」
ブォォオン!!
うごく
パキッという音とともにレジーナの防御魔法が割れ、アンバーともども壁に叩きつけられた。
「キャアアア!!」
「ガハッ!!」
「お、お前ら!!」
バイド先生が敵に駆けより、敵の追撃を受け止める。
――だが。
「ぐっ……!」
Sランク冒険者上位と言われていたバイドでも攻撃を完全に受け止めることはできず、地面に受け流すので精いっぱいだった。
手のしびれを感じながら、バイドは考える。
(バカなっ……! こいつは超Sランクモンスター、私でも勝てないっ! ギルドめ、迷宮の格付けを誤ったな!)
「アンバーさん! レジーナさん!」
オリヴィアはふたりに駆けより、聖魔法ヒールライトで回復を行う。
傷が
「カスが! 遅いんだよ!」
「前衛の支援ぐらいしなさいよ! グズ女!」
「ご、ごめんなさい……」
「お前ら、攻撃が来るぞ!! 避けろ!!」
「っ!!」
オリヴィアと上級生ふたりの間に大剣が打ち込まれる。
「きゃああああああ!」
直撃はまぬがれたが、下への階段側にオリヴィア、上への階段側に残り3人とパーティが分散されてしまった。
「ど、どうすンだよ……」
アンバーがうろたえる。
「先生、あなたなら勝てるのかしら……?」
レジーナも戦意喪失している。
「く……、こうなったら……」
バイド先生は一瞬の間の後、オリヴィアに言った。
「オリヴィア、必ず助けを連れてくる! それまで持ちこたえてくれ!」
「――え?」
(いま、なんて……?)
「そ、そうだ! 逃げるわけじゃない! 一度態勢を整えてくるんだ!」
「あなたも1年生首席ならがんばれるわよね!」
「死ぬなよ!」
「信じてるからな!」
「え、え……」
うごく
「きゃあああ!」
ズガァァァァァン!!
……さっきまでいた場所は赤い絨毯が大きくくぼんだ。その下の床に穴が空いたらしい。
「――あ」
視線を上げると、セイファードの3人が上のフロアへ上がっていく姿が見えた。
(そ、そんな……。見捨てられた……?)
助けにくるって言ったって、何時間後? 何日後? 下手をすれば、ただの嘘なのかもしれない。
こんな強いモンスター相手にどうすればいいの?
「げ、【幻影魔法】ミラージュっ!」
幻影魔法で自分の分身をたくさんつくる。
これで敵が惑わされているうちに上の階に逃げられれば……。
オリヴィアは分身にまぎれ、壁の方に回り込もうとした。
しかし、そのとき。
「ガアアアアアァァァッッ――!」
「……っ!」
うごく
「魔法解除の、波動……!」
中途半端に動いたばかりに、オリヴィアは上にも下にも逃げられない位置に来てしまっていた。
大剣を持ったうごく
「あ、あ……、ホーリーボールっ!!」
プシュン!
うごく
「に、逃げなくちゃ……」
でも、足に力が入らない。立ち上がれない。
(いや…………)
わかってる、もうどうしようもないってことは。
わたしの身体は、もう戦いをあきらめてしまったようだ。
でも……。
(助けて……)
わたしの心は、救世主を待っていた。
うごく
瞳から涙がこぼれる。
つい、言葉をもらしてしまう。
「たすけてください……っ、アストくんっ…………!!」
目をつぶり、死を覚悟した。
そのとき。
――ガキィィィィィン!!
「え……?」
何かが、大剣を受け止める音がした。
そして、セイファード学園の隣のつくえで、よく聞いていた声がした。
「――オリヴィア、あいつらに見捨てられちゃったのか? ほんと最低だよな。あとでぶん殴ってやるよ」
おそるおそる目を開けると。
「――また逢えたな、オリヴィア」
アストが、2本の指で大剣を受け止めているところだった。
「アストくんっ!!」
涙があふれる。
でも、これは恐怖じゃない。
うれしくて、安心してしまって、心がゆるんだのだ。
「さて、まずはあのデカブツを片付けるか。ま、なんとかなるだろ」
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