第13話 【持たざる者】と真実の迷宮
「真実の迷宮?」
町を歩いていると、突然ミミコがダンジョン探索を提案してきた。
「ご存知ですか? ご主人さま」
「ああ、古代の裁判所跡地とか言われているところだろ。なんでそんなところに行く必要があるんだよ?」
「なんでも最深部にはぜったいに嘘を見ぬける振り子があるとか……」
「だから、そんなもの、何に使うんだ?」
「あたしの愛を確かめていただくために、というのは冗談として……、あたしの体験談をお話しさせてください!」
「体験談? 急だな……」
「はいっ!」
ミミコは返事の勢いのまま話し始める。
「むかしむかし、かわいいミミコちゃんという冒険者がいました。ミミコちゃんがDランク冒険者になった日、ひみつクラブのスカウトという方がやってきたのです。
スカウトさんは言いました。30万ガルドを払って、このマル秘マークのバッジを買えば、セイファード城にあるひみつの部屋に入ることができて、王室の高額依頼を受けることができると……」
「悪いがオチが読めた。サギだったんだな」
「はい……。セイファードの門番にバッジを見せても入れてもらえず……。でも、ずっと門で騒いでいたら、城内の牢屋に入れてもらえました! ある意味夢は叶いました!」
「お、おう……」
アホすぎる。
「で、何が言いたい?」
「はい、ご主人さまはSSランクです。きっとご主人さまを利用しようとする悪い人もたくさんいるでしょう。長い冒険者人生、嘘を見ぬく道具はあってもいいのではないでしょうか?」
「ふむ……」
俺はミミコほど不注意ではないが、たしかにSSランクともなれば、どんな奴がよってくるか分からないからな。
「行ってみるか、真実の迷宮」
「は、はいっ! ご主人さま、ミミコが役に立ったと思ったらナデナデをお願いします!」
「まあ、いいだろ」
ミミコをなでながら、迷宮に近い
☆
レイクサイドで馬車を降りると、その名のとおり大きな
「ご主人さまっ、見てください。キラキラしてキレイですよっ」
「たしかにキレイだな」
故郷の海もよかったが、湖もまた落ち着いた雰囲気でいいな。
「とりあえず宿をとってから、散歩してみるか」
「はいっ! 楽しみですっ」
☆
宿屋で2部屋を確保しようとしたが、
「ごめんなさい、今は1部屋しか空いていないんです」
と受付で断られてしまった。
「え、えへ、全然大丈夫です。むしろありがとうございます。ベッドもできれば小さいやつでお願いします!」
「え、あの……ベッドは予備のものを出させていただきますが……」
「それで頼む」
「かしこまりました」
「……お前な、宿の人を困らせるなよ」
「うう、チャンスかと思ったのに……」
まあ、同室で我慢してくれるならありがたい。
あとは俺があまりミミコをよこしまな目で見ないように努めなければ。大事な旅の仲間だもんな。
部屋に入ると、窓から湖が見えた。
「景色、最高ですねっ」
「宿が人気の理由もわかるな」
テラスで食事もできるらしい。まさにリゾート気分といったところか。
「さっそく散歩してみるか」
「は、はいっ!」
宿を出て、ミミコと湖のほとりを歩いていく。
「夕方はまた雰囲気違いますね」
「ああ、オレンジの水面がキレイだな」
だんだんと陽はかたむき、町も別の顔を見せてくる。
「なんだかロマンチックな気分になってきました……」
「気持ちはわかるな」
日常から離れた雰囲気、夜に向けて表情を変える湖。開放的な気分になる。
「ご主人さま、あの木のところで少し夕陽を見ていきませんか?」
下は芝生だし、ゆっくりするにはちょうどいいのかもしれない。
「いい提案だな……。と、思ったら先客がいるぞ?」
「あ……」
木に寄りかかって、夕焼けの湖面をながめている女性がいた。
長く伸ばした桃色の髪に、セイファード学園の制服を着ている。
もしかしたら。
「――オリヴィア?」
「ア、アストくん……?」
それは、セイファード学園時代の同級生オリヴィアだった。オリヴィアのまつげは濡れているようだった。
オリヴィアは目を手でぬぐい、ほほ笑んだ。
「アストくん、どうしてここに……?」
「いや、俺は近くの迷宮に挑戦しようと思ってな。てか、泣いてたのか……?」
「う、ううん、なんでもないよぉ……。ちょっと目にゴミが入っただけ……」
「そうならいいんだが……。オリヴィアは春休みか? なんでここに?」
「……春休み期間前に特別演習が入ったの。わたしを含めた生徒3人と先生でダンジョン攻略をするというプログラムでね、わたしのほかには卒業間近のアンバーさんと、2年生のレジーナさんがいるの」
「そりゃまあ……たいへんなメンバーだな」
各学年のトップが集められたのだろうが、オリヴィア以外は性格が悪いので有名だ。
「わたしは弱いからふたりについていけなくて……。これじゃ、アストくんの隣に立てる日は遠いなあと思ってるの……」
「そんなことはないだろ。オリヴィアは優秀だからな。本当の力が出せれば、みんなから頼られること間違いなしだ」
「そ、そうかなぁ……」
「ああ。落ちこぼれだった俺が言うんだから間違いない。オリヴィアはスキルが3つもあるからな。マスターするのも時間がかかるだろ」
「……ふふ、ありがとう。SSランク冒険者に励まされちゃった。元気でたかも」
「それはよかった」
「ところで、お隣の方は……? わたし、お邪魔しちゃったかな……?」
ミミコは胸を突き出し、ドヤ顔で言った。
「あたしはミミック少女のミミコです。ご主人さまのモノを受け入れるのが役目なんです!」
「え、ご主人様……!? アストくん、まさか……」
オリヴィアは顔を赤く染めて、手でおおった。
「ち、違う! 奴隷じゃない! 旅の仲間だ!」
あわてて否定する。
「ほんとうなの……?」
オリヴィアはジト目で俺を見る。
「本当だ!」
「ふふふ、あはは……」
すると、オリヴィアは楽しそうに笑った。
「アストくん、SSランクになっちゃって、わたしには手が届かない憧れの人になっちゃったのかもと思ったけど、学園のときと変わらないね」
「そうか?」
「うんっ。すこし安心した。わたし、いつかSランクの冒険者になるね。そのときは、わたしもアストくんの横にいたいな」
「ああ、Sランクと言わずいつでも来ていいぞ」
「ううん、大好きなアストくんの足手まといは嫌だから。わたし、そろそろ集合時間だから帰るけど、町の入り口近くの宿屋にいるの。なにかあったらきてね!」
そう言って、オリヴィアは俺たちの宿と同じ方向に帰っていった。
「……ご主人さま、これはライバル出現かもしれません」
「ああ。セイファードも真実の迷宮で、真理の振り子を狙ってるのかもしれないな。さらに言えば、宿も一緒かもしれん」
「え、そうなんですか!?」
「え? お前は何の話をしていたんだ?」
「ご主人さまを取り合う恋のライバル出現かと……。あたし、負けませんっ!」
「はぁ……」
それより、オリヴィアの様子が少し心配だった。
「もしも、上級生のやつらががオリヴィアを泣かすようなら、一度引っぱたいてやってもいいのかもな……」
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