第11話 【持たざる者】への反響

 俺たちは、《陰》重力魔法・浮遊で地下空洞から宙へと浮かび上がった。


「アストはこんなこともできるんだね……、素敵だよ……」


「重力を【持たざる】ようにすればいいだけだからな」


「ご主人さまっ、助けてくださいっ! 変な方に行ってしまいますぅぅぅぅ!」


「まったく……」


 俺はミミコの手を握って、地上へと昇っていく。


 ミミコは、「天にも昇る気持ちですぅぅぅ……」と言って、うっとりしていた。


 やれやれ、本当に天に昇っているのだから、なんのひねりもない感想だ。


 俺たちは、俺が広げた亀裂をとおり、太陽がさす外の世界へ出た。


 すると。


「アスト、なんだこれは……」


 ――魔の森の様子が一変していた。


 鬱蒼うっそうとしていた木々は、その葉を明るい新緑の色に変えていた。暗い緑だったのに。


 そして、どの木も美しい花か、大きな果実をつけていた。


「ご、ご主人さま、足元見てくださいっ。薬草……いえ、特上薬草がたくさん、取り放題ですっ!!」


「魔力キノコもいつの間にかこんなに……。アスト、これはどういうことなんだ!?」


「驚くことはない。俺の魔法で、あの臭い花が不当に集めた栄養を森にかえしただけだ」


「な……きみは超Sランクモンスターを倒すだけでなく、森まで本来のすがたに再生させたというのか……」


「あそこに魔獣……ファングボアがいますけど、キノコを食べているだけで、ぜんぜん襲ってくる気配がありません……。なんだか幸せそうです……」


「魔獣どもも、あの臭花くさばなに魔力を吸われて不機嫌になっていただけなのかもしれないな。この森も《魔の森》ではなく、《恵みの森》などに名前を変えるべきかもしれん」


「アストは規格外すぎる……」


 そんなことを話していると。


「お、おいっ、君たち!」


 ブロードソードを持った冒険者を先頭にした4人パーティがやってきた。


「ここで何があったか知ってるか?」


「私たち、ギルドの緊急依頼を受けてここに来たの」


「森の様子が変だと聞いてな……。異常の中心地に来たら君たちがいたんだ」


「ふ……」


 すると、ラビィが前にでて、身分証をみせた。


「大陸ギルド新聞のラビィだ。真実を愛する記者として証言する。森の変化は、ここにいる冒険者アスト氏が超Sランクモンスター、ラフレシア・アルラウネを単独討伐したことによるものだ」


「な、なにっ!? 1体で国を滅ぼすという、あのモンスターを……!」


「いったいどうやって倒したんだっ!? しかも単独で……っ!?」


「いや、そもそも森の変化とのつながりは……?」


「ふふ……」


 ラビィはしてやったりという顔をして言った。


「――詳細は次の大陸ギルド新聞で♪」


 ☆


『また大快挙! アスト氏、魔の森に巣食う超Sランクモンスターを単独討伐!』


 次の大陸ギルド新聞の一面には、俺の活躍について長々と特集されていた。



『アスト氏は襲い来る敵の触手を手刀で一閃、Sランク冒険者を上回る対応力で敵を圧倒した』


『最後は植物を土へかえすという前代未聞の魔法により、ラフレシア・アルラウネを影も形もなく分解した。なお、このときに土へと供給された栄養素が森に吸収されたことにより、今では魔の森は美しい花、色とりどりの果実、無数とも言える薬草にあふれた《奇跡の森》となっている。モンスターも森の変化とあわせて沈静化したため、興味のある読者諸氏どくしゃしょしはせび現地を確かめてほしい』



「ご主人さま、書いてあるのは事実だけですね」


 俺とミミコはギルド内の食堂で新聞を見ていた。


「ま、どこまで信じてもらえるかはわからないがな」


「ラビィさんもそう思ったから、実際に森を見るようにうながしたのかもしれませんね」


「そうだな……」


 この新聞の売上はふだんの2倍以上になっているらしい。


 大陸中に俺の名前が知れ渡ったということか。


「あ、あのぅ〜、もしかしてアストさんですか?」


 そんなことを考えていると、知らない女性二人組みが声をかけてきた。


「そうだが……」


「キャアーッ、やっぱり! 握手してくださいっ!!」


「あ、ああ……」


「ずるいー! 私もっ!」


「ああ……」


 握手が終わったと思ったら、また次の女性が近づいてきた。


「す、すみませんっ、私も握手してくださいっ」


「はいよ」


 俺は握手に応じる。


 ふぅ。


「新聞の反響ってのはすごいんだな」


「ふーんだ、ご主人さま、大人気でよかったですねっ!」


「なに怒ってるんだ?」


「怒ってませんっ! 大好きなご主人さまを独り占めしたいのに、ちがう女の子が近づいてくるから、ちょっと嫉妬してるだけです!」


「……言語化ありがとな」


「ご主人さまぁっ、あたしとも握手してくださいっ!」


「まあ、いいけど……」


 ミミコと意味もなく握手をしていると、次は低い声がした。


「……貴殿きでんがアスト殿か?」


「……ああ、そうだ」


 ヒゲをはやした50くらいの男だ。かなり筋肉質で、眼帯をしており、先日のSランク冒険者よりも迫力がある。


 あんたは……?と聞く間もなく、男は片膝をついて俺に頭を下げた。


「私はセイファード本部のギルドマスター、グランだ。この度のアスト殿のご活躍に敬意を表する」


「あ、ああ……」


 たかがFランクの冒険者にギルドマスターが頭を下げるとは。この男は物事の本質を見抜く、立派な男なんだろう。


「ラフレシア・アルラウネをギルドが討伐しようとした場合、二桁の人間が死ぬことは確定だった。さらに言えば、アルラウネの寝床を発見できなければ、草原の町フィールズ王都セイファードが闇討ちにあい、甚大な被害を受けただろう。本当に感謝する」


「感謝されるいわれはない。俺は俺にできることをしただけだ」


「――さすがだ。おごることもなく、ギルドマスターの私に何かを要求することもなく、当然のことをしただけと言うのか。噂に聞くとおり、高潔こうけつな精神の持ち主だ」


「そうですよっ、ご主人さまは立派なんですっ」


 ミミコは意味もなくドヤ顔をした。小物ムーブである。


「アスト殿、これを受け取ってはいただけないか。念のためつけ加えるが、アスト殿に義務を負わせるようなものではない」


 そう言って、ギルドマスターは俺にカードを差し出した。受け取って確認すると。


「……SSランク冒険者証?」


「す、すごいですっ!! SSランクは現在この大陸内にはひとりもいませんっ!! しかも、Fランクからの飛び級は例がありませんっ!」


「どうか受け取ってください。そして、ラフレシア・アルラウネのような災厄がこの地に現れたときはなにとぞお力添えを!」


 そう言って、深く頭を下げる。


 やれやれ、ギルドマスターにここまでさせておいて恥をかかせるわけにはいかない。


 俺はギルドマスターからカードを受け取った。


「わかった。俺の力が必要なときは言ってくれ」


「――はっ! 感謝します」


 ギルドマスターは再度深く頭を下げたのであった。

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