第5話 【持たざる者】の名声
地下5階に降りると、階段を取り囲むように、12の透きとおった柱が立ち並んでいた。
大賢者メルキオールの本に書いてあったとおりだ。
――せっかくだから、地下5階のコレクション見てちょ。どうせ、わし、装備できないんだけどさ。いっぱい伝説の武器集めたんじゃよ。あ、欲しかったら持ってってもいいよ。どうせわし、死んどるから。
「ご、ご主人さま、これ……」
「すごいな……」
本の軽い調子とは裏腹に強力な武器がたくさんある。
神剣ラグナロク、神槍グングニル、雷鎚トールハンマー、神刀クサナギ……。
神話でしか知らない武器がたくさん透明な柱の中に封じられている。しかも、ネームプレートつきで。
「メルキオールも愉快なおっさんだったみたいだな」
なにが《持たざる大賢者》だ。
子どもみたいなやつだな。ただ、伝説の武器をコレクションしているあたり、スケールが違うが。
どうせ自分じゃ使えないくせにな。
さて、なんかもらっていくか。
とはいえ、俺も武器を持ったら戦えなくなる。
持って帰るとしたら……。
「ほぇぇ……」
このミミック少女か。
「ミミコ、使える武器あるのか?」
「へ、へ? あたしですかっ!?」
「俺は武器いらないからな。【テイマー】ならムチとかなのか?」
「い、いえ、ミミックと同化してしまったので、装備適正も変わってしまったようです……。しいて言うなら、使えるのは弓矢ですが……、ま、まさかあたしがこの伝説の武器をっ!?」
「せっかくだからもらっていこうぜ」
「お、恐れ多いですぅぅ!」
「そう言えば、さっきはちゃんと言えなかったが、俺はこれから冒険者として名を売っていきたいと考えている。メルキオールの本にも書いてあったとおり、疑似【アイテムボックス】スキルを持つミミコについてきてもらえると助かるのだが……イヤか?」
「い、いやなわけありませんっ! 箱のふたを開けてもらったあのときから、ミミコはご主人さまにお使えする運命ですっ!」
「よし、ありがとう。じゃあ、武器をもらってくれ。一緒に戦うためにな」
「は、はい!」
俺は透明な柱についているスイッチを押して、武器の封印をといた。柱の中から弓矢を取り出す。
「ちょっとこれを持ってみろ」
「はい! ……って、これ、魔弓フェイルノートじゃないですかっ! こ、こんなものをあたしがっ!?」
「使ってみてくれ。そして、俺と一緒に戦ってくれ」
「ふぇっ……、でも……、ううん、決めました! このミミコ、ご主人さまのご期待に応えてみせますっ!」
そう言って、ミミコは伝説の弓を受け取った。
「ダンジョンクリア報酬ってところで、適当にあと2、3個もらってくか。ミミコの頭に入れてくれるか」
「え、え、フェイルノートのほかに……? あたしの頭が宝物庫になっちゃいますぅぅぅ」
騒ぐミミコを放置して、柱に封印された武器を物色する。
「あとはそうだな……剣と杖にしよう」
オリヴィアが仲間になったときに使えるかな。
オリヴィアが卒業後、まだ俺と冒険者をやってくれるというなら、プレゼントしてあげよう。
俺は神剣ラグナロクと世界樹の杖を封印から取り出し、ミミコの頭にくっついているミニ宝箱のふたに突っ込んだ。
「ふぇぇ、あたしのなかに長くて神聖なものが入ってきますぅぅ!」
「……なんか、悪いことをしている気がするな」
結局、剣と杖は、完全にミミコのミミック異空間に収納された。
「便利だな、ミミコは」
「えへへ、ご主人さまのお役に立ててうれしいです!」
ぎゃあぎゃあ騒いでいなければミミコもかわいいんだけどな。
「これからも、わたしのなかに何でも入れてくださいね!」
ただ、やはりアホっぽい。
☆
地上に戻ると、ギルドの受付嬢が驚いた様子で駆けよってきた。
「アストさん、ご、ご無事だったんですか!?」
「まあな」
「このダンジョンに挑戦するひとは、入って1分で逃げるか、一生出てこないかのどちらかでしたので……。ご無事でよかったです。あ、ええと、こちらの方は?」
「あたしはミミコです。ギルドカードもお預けしたはずなんですが……」
「ミミコさん……? ええと、こちらではカードのお預かりは……」
そう言って、受付嬢は手元の資料をめくる。
「ミ、ミミコさんがここに入ったのは1年前ですよっ!? 生きていたんですかっ!?」
「じ、事情がありまして……。それであたしのギルドカードは……」
「規約に基づき捨てました……。言いにくいですが、所持品もすべて処分しております……」
「ふぇぇぇぇ……、ふ、不幸ですぅぅぅ!」
ミミコはぐすぐす泣き出した。すこしかわいそうになってきた。
「……それでアストさん。このダンジョンに3時間はいらっしゃいましたが、なにか収穫はありましたか?」
「ああ、ミミコ、弓を見せてやってくれ」
「ぐすぐす……、どうぞ、ご主人さま……」
俺は弓を受け取り、ギルド嬢に見せる。
「こ、これは……!?」
「魔弓フェイルノートだ。このダンジョンは《持たざる大賢者》メルキオール由来らしい。その弓だけが地下5階に置いてあった。」
最後のはウソだ。
だが、【持たざる者】スキルを持っていないやつがむやみにダンジョンに入らないようにするために、そう言うことにした。
どうせクリアできず、死ぬだけだからな。
ギルド嬢は目を輝かせて言った。
「必中の魔弓フェイルノート……! おとぎ話のなかだけかと思っていました……。この数百年、踏破されなかったダンジョンの奥にはそんなものがあったんですねっ! アストさん、すごいです! すごすぎますっ! これはギルド始まって以来の快挙かもしれませんっ!」
「おおげさだ」
それに、神剣ラグナロクと世界樹の杖も持って帰ってきたからな。ここまで伝えたら、やばい騒ぎになるかもしれないから言わないけど。
「ご主人さま、ほかにラグナロクと世界樹の杖も持ってきたじゃありませんか? お伝えしなくていいんですか?」
「あ、アホっ!」
ミミコは、伝説の剣と杖をいつの間にか手に持って、ギルド嬢に見せていた。
隠す間もなく、ギルド嬢はそれらを確かめていた。
「この魔力……、本物ですっ! 伝説の武器が同時に3つも……。こ、これは大ニュースですっ!! ギルド支部長! 支部長ーっ!!」
ギルド嬢は走ってどこかに行ってしまった。
「元気なひとですね」
ミミコはのんきに言う。
「まずいかな……」
目立ちすぎた気がする……。
☆
翌日、ギルドに掲示された新聞には、こう書いてあった。
『期待の新星アスト! セイファード学園なんか不要! 中退して、即! 3つの伝説の武器を手に入れる!』
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