第8話 機械人形

カァンという音が上で鳴り響いているとき、下ではレヴの全力の戦闘が始まっていた。


開始とともに放り込まれた先には迷路が広がり、いつでも敵との接近があり得るような状態だ。

相手は機械であり、レヴの感も中々当たらない。だが、その機械音まではごまかせなかったようだ。


「残念。」


囮という可能性を割り切って角へ飛び出したレヴはそのまま銃を乱射し始めた。

反動が少ないという利点を生かしてぐるぐる回転し始めたのだ。

だが、敵は見えない。


戦場の真ん中で動きが固定されることの危険性を理解していないレヴではないが、この瞬間だけはリターンがリスクを上回った。

しばらく暴れたレヴは突然その動きをやめて路地へと走り出す。


5秒ほどたって先ほどまでレヴが居たところに弾丸の嵐が撃ち込まれる。


「4か、思ったより釣れたな。」


見れば4体の機械がライフルを乱射していた。

たった5秒の間でその機械たちの背後に回りこんだレヴはその銃口を慎重に頭へと運ぶ。


2つの口が火を噴いて、機械が倒れた。

撃った側のレヴも反射的に伏せた。

その頭上を通り抜けていた弾丸を視認して、冷や汗をかきながら近くにあった通路へと逃げ込む。


「2人だけだが十分か。」


そう呟きながらレヴは通路の側面を走り出し始めた。


「化け物ですか?」

「小僧の戦闘など見たことは無かったが、これは素晴らしいな。」


実はこの試験クリア条件が敵機械の全滅だと謳っているが、傭兵になるためだけならば一人壊すことができたのならばなんも問題ないのだ。

そもそも一人が18人に勝つことを想定されておらず、むしろどれだけ時間を稼ぐことができるか、どれだけ倒せるかに焦点が充てられる。


トレードの面だけでいえば2人倒して無傷のレヴはそれだけで優秀な傭兵だといえるだろう。


「機械音を聞いてからの決め打ち、不発と分かってからの囮作戦、短時間でのマップ把握能力、射撃能力、反射神経、視力。どれか一つでも見せれば高評価だというのに……。」

「まぁ、それでもこの試験は突破できないだろうよ。」

「勿論です。個人が一個小隊、それも狙撃手とエース級の機械がいる部隊を壊滅させることなどできるはずがありません。それこそ傭兵の中の一級品でしょう。」

「そうだな。」


二人の議論が白熱していく中、下ではレヴの仕掛けた作戦がゆっくりと戦場に侵食していっていた。


敵が一人なのにもかかわらず時折数か所から銃声が鳴り響く。混乱という機能がない機械たちではあるが、予想できない結果に狙撃手兼指揮官は少し首を傾げた。


小高い部屋の中で自慢の目を使って戦況を見つめるが、依然として銃声は鳴り響き続けていた。

護衛として入り口を守らせていた二人の内一人を伝令として送る。

しばらくして、戦況が動いた。


突如として爆音が鳴り響き、光がまき散らかされたのだ。

すぐさま銃口を向ける狙撃手だったが、そこにレヴの姿は見えない。


再び爆発が轟く、今度は手前で鳴り響いた。

今度こそと、銃口を向けるが予想外の物にってそれは阻まれた。


こちらに向かって飛んでくる人間を見て、狙撃手は機械でありながら驚愕で目を見開く。

ソレはそのまま狙撃手が乗っている部屋へぶつかり、すぐさま飛び起きた。


「どうやらあたりを引いたようで。」


笑みを浮かべながらその侵入者は手に持った銃の引き金を引く。

狙撃手を倒したことを確認したのちに、レヴは下敷きとなった護衛と戻ってきた伝令の頭にもとどめを刺す。


「これで3、残りは8か。」


「早すぎます。」

「約半数がこの時間のみで死んだか。」

「ええ。敵を発見しても倒さなかったときは少し意外でしたが、まさか爆弾を装着するとは……」

「それで機械たちは処理をしなければいけなくなり、同士討ちか。」

「その後は爆発による衝撃を生かして、一直線に狙撃手のところまで行きましたね。」

「実際にはそう上手くはいかないだろうが。十分な働きだな。」


二人の視線の先にはエースと狙撃手の攻撃を受けてバリアが展開されているレヴの姿があった。


「一個小隊には最低でも狙撃手は二人配属されます。油断でしょうか……」

「小僧は傭兵の仕事内容すらわかっていないような奴だ。知らないのも無理はない。」

「……それでしたら先に座学を行った方が良かったですね。こちら側の不手際でございます。」

「まぁ問題はないさ。傭兵の仕事内容も俺が教えておく。」

「分かりました。……しっかりと教えてくださいよ?情報共有の甘さで死につながることも少なくはないのですから。」

「分かっている。」

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