第7話 試験

何か起きることもなく俺たちの順番が来た。


「こちら傭兵ギルドの受付でございます。ご用件は」

「№17か、久しぶりだな。」

「私は二度と貴方と関わりたくないのです。早くご用件を仰ってください。」

「これはこれは。」


随分と厳しい言葉が自動人形の女性から投げかけられる。


「厳しい言葉だな仲介屋。ここでナンパでもしたのか?」

「……まぁそんなところだ。」


苦笑しながら仲介屋が頭を掻いた。


「まぁまぁそう言わずにさ。今日は俺じゃなくてこの小僧の身分登録をしてもらいに来たんだ。」

「身分登録ですか?まさか傭兵に?」

「そのまさかさ。訳ありでね。」

「悪いことは言わないので今すぐこの男から離れてください。ろくでもない男ですよ、こいつは。」

「そんなことは分かっている。」

「話は良いからさっさと始めてくれ。」

「……分かりましたよ。本名は?」


本名か……、下の名前は分かるが上は。


「レヴ・ナトゥアと名乗っている。」


ナトゥアははるか昔の友人の名を取って付けた。


「ナトゥア様ですね。傭兵を希望されると聞いておりましたが実力のほどは大丈夫でしょうか。」

「ああ。それなりに戦えると思う。」

「そうですか。では一通りの試験を受けてもらいます。」

「分かった。」


受け付けの機械人形と俺たちの間にあった棚が突然消え失せて、俺たちは中へと招き入れられた。


「しばらく来ていない間に随分とハイテクになったじゃないか。」

「そりゃあんなことがありましたからね。」


意地悪そうに笑う仲介屋をきつく機械人形が睨んだ。


「アゲート・ダイア様。その口を二度と開かないでください。」

「はっはっはっ」


ここにきてから随分と仲介屋が笑うようになったな。こいつもだいぶ裏を抱えているらしい。

連れられた先には無機質な灰色の箱や壁が所々に置かれた部屋があった。


「アゲート様の見立て通りなら問題はないでしょうが……。」


意図は大体理解できたが試験とは……。

どこのギルドでもやっていることは同じらしい。


「ナトゥア様の実力を図りたいので武器を預からせてもらってもよろしいでしょうか。」

「もちろん。……さすがにそちらで武器は貸してくださるのですよね。」

「安心してください。傭兵の平均的なレベルを置かせていただきます。」

「それはよかった。」

絶対に昨日使い始めた武器よりも高性能な武器じゃねぇか。


案の定引き換えで貸し出された武器は持っている武器の数段階上のスペックが組み込まれていた。


「こんなもの使っても?」

「もちろんでございます。それと先ほど預かった武器なのですが随分と旧型の物ですね。」

「あぁ。小さな町の爺さんから買ったものだからね。」

「そうですか。」


しばしの沈黙の後、機械人形は仲介屋をにらみつけた。


「仮にも傭兵に入る子にこの装備はどういうことですか?」

「……俺にも考えがあるんだよ。それにそいつにはその武器で十分だ。」

「またそんなこと言って。あなたの倉庫にはいくらでも入っているでしょうに。」

「そんなことは無いさ。」


機械人形の案内で扉の中へ入っていくと、奥の方にこれまた人型の機械が現れた。


「テストの内容ですが、あの機械が15体ほど襲ってきますのでそれをすべて倒せばクリアとなります。」

「機械の攻撃方法は?」

「こちらからは何とも言えません。」

「万が一の危険性はないのか?」

「一度の致命傷を防ぐバリアを体につけさせていただきますので、それが発動したらミスとなります。」

「理解した。……本当に壊してしまって大丈夫なんだよな??」

「えぇ。すぐ治せますので。」


懸念事項が消えたので俺は意気揚々と戦闘開始のスイッチを押した。

サイレンが鳴り始めるとともに奥の機械が動き始める。

同時に、機械人形はその場から消えていた。


「……そうだな。」


今レヴがテストを受けている部屋全体を見渡せる場所で仲介屋は楽しそうにグラスを取った。

グラスを渡した側の機械人形はため息を付きながらそのグラスに自分のグラスをあてる。


「では彼の将来を期待して乾杯といくか。」

「彼も大変ですね。絶対にかかわってはいけない人種に目をつけられたのですから。」

「機械人形のくせに虚言を吐くか。」

「相変わらずの選民思想ですね。まぁそもそも虚言ではないですが。」


互いに罵り合いながらも二人は二度目の乾杯をするためにグラスを合わせた。

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