第6話 中住地区

「これは……」

「ハハッ、凄いだろ。」


バスは桟橋のような場所に付けていたが、ふと下を見るとそこにはうっすらとしか地上が見えなかった。


「天空都市……。」

「都市と呼ばれるほど発展はしてないがな。」


ちょっと間違えたら落ちそうな桟橋を通って税関まで行く。


「ようこそ第19中住地区へ。ご用件は?」

「商売を。」

「分かりましたご武運を。」


とても簡単な税関を通り抜けて町に入っていった。

武器の確認などもされず、見られたのは顔だけだ。


「今のセキュリティーで大丈夫なのか?」

「ここは空中だ。問題を起こして逃れる術はないね。」

「なるほど。」


それはそれで闇組織への資金提供が楽になってしまうような気もするがね。


自動で移動する床に乗って中心部まで進んでいく。

城壁の内側は内部に大きな島があり、そこが文明の中心であるらしい。他の場所は自然であふれており、家も数件しかなかった。どれも貴族が住んでいると見誤うほどの豪邸ではあったが……。


「…………」


道の真ん中で立ちすくむ俺を見て仲介屋が満足そうに笑う。


「さすがの小僧も言葉が出ないか。」


そんな言葉も入ってこないほど俺は圧倒されていた。

前世で見たどんな自然物よりも大きな建物が中央に佇んでいる。

周りに所狭しと建てられている建物の大きさも前世とは比べる間もない。


しばらく止まってしまっていたが、ふと我に返って再び歩き始めた。


「……凄いな。」

「だろ。これが中住地区の基本的な形だ。」

「それにしても下住地区とあまりにも生活レベルが違う気がするのだが……。

「落差が激しいがそれで利益を得ている者もいるからね。どこの世界でもゴミ貯めは必要なんだ」

「それは理解しているが……。」


元居た世界のスラムもこれほどまでの差はなかったような気がするが。


「まぁ、この世界を知らなければあそこでも幸せな者は多いだろうよ。」

「そうだな。」


それは俺も身に持って実感している。新聞と呼ばれるものが普及してから人はそれまで気にしていなかった他の人の財政状況を知ることができるようになってうらやましいという感情が増えたからな。

あの時から異様に事件数が増えた。当時は事件によく追われていたものだ。


「今はどこに向かっているのだ?」


適当に仲介屋について行っているのだがこいつを見失うとすぐに迷子になってしまいそうで少し怖い。いや、それはそれで下層から抜け出すという点から見ればありかもしれないが。


「君の身分登録をするために傭兵ギルドへ向かっているんだ。」

「傭兵?そんなものがこの世界に必要なのか?」

「この世界ね……。」

「……」


ちょっとミスったかもしれない。だが、それは置いておくとして下層以外に武力の必要性を感じないのだが。」


「まぁそのうちわかる。それに傭兵は身分登録として下層の人間が行うのにぴったりの役職だ。」

「なるほどね。」


ある種の救済システムのようなものか。それにしても地位は低そうだが。


人ごみの中でも普通に歩いている仲介屋の後を懸命に追いかけていると、やっと目的地に着いた。

ふらふらになっている俺を置いて先に仲介屋が中に入っていく。

急いで俺も後に続いた。

「自動ドアか。」

「この程度見慣れたものだろ?」


傭兵ギルドという言葉から想像していた建物はそこにはなく、清潔感のある大きな空間が広がっていた。

受付から少し離れた場所にはソファーが並べられており、何人かが思い思いに座っていた。

仲介屋に連れられて受け付けの列へと並ぶ。

受付は10個ほどあり、人の流れはスムーズに進んでいた。


「全自動機械人形か。」

「一昔前までは普通に人を使っていたのだけどもこっちの方が効率がいい。それに感情もあるからある程度の融通も利く。」

「いいことずくめだな。」

「傭兵という職業は小僧が思っているよりも人気が高いんだ。」

「どういうことだ?危険な職業ではないのか?」

「それだけ憧れの職業なのだ。今は危険と隣り合わせの職業なんて傭兵と憲兵を覗けばほとんどないのだから。」

「平和ボケしているがゆえにということか。」

「いや、単純に街を守る仕事がカッコいいのだろうよ。」


俺の世界では逆に争いとは無縁の大きな街の小さな店があこがれの的だったがな。

貴族ですら羨ましがっていたものだ。

それにしても何から町を守るのだろうな……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る