第5話 拡張
翌朝、セットしたアラームが鳴るよりも早くにレヴは目を覚ました。
今日は初めて中住地区に行くためありったけのタルパをかき集め、昨日手に入れた大型のマシンガンと、爺のところで買った小拳銃を仲介屋のところへと持っていく。
「随分と速いじゃないか。」
「不足したものがあったときにいつでも戻れるようにな。」
そういいながら俺はマシンガンと小拳銃をカウンターに置いた。
予想外の商品だったのか、しばらく固まる仲介屋。これを見られただけでも今日来たかいがあったといえるだろう。
「これはどこから?」
「昨日ゴミ漁りの最中に殺り合ってな、戦利品だよ。」
「良いのか?子供には使いにくいマシンガンはともかく、小拳銃は欲しいのでは?」
「もっといいものを手に入れたからな。爺のところで昨日買った小拳銃だが悲しいことに用済みだ。」
「なるほど。で、そのホルスターに新しい銃が入っていると。」
「消音機能付きの高性能電気銃だな。」
「だいぶ性能が高いな……。この辺でそれを保持できるのは自警団しかいないが?」
「知らん。名も名乗らずに戦闘が起きたからな。」
「まぁ、いいか。この二つはこれくらいにはなる。」
「へぇ、結構あるな。」
流石にアレを買うだけの資金は溜まらなかった。
「さぁ、そろそろ行くか。」
その後、仲介屋の店の中でブラブラと時間を潰していると仲介屋がやっと腰を上げた。
「遅いな。」
「この時間じゃないとバスが来ないんだよ。」
大量の荷物を異元袋に入れて仲介屋が店を出る。厳重な警備をかけた後に出発した。
通称バス停と呼ばれる場所に行くと、明らかに場違いなバスが止まっていた。
「すくなくともこの場に持ってくるようなものではないだろ……。」
「あれでも中住の中では下位の物なんだけどもね。」
「そうなのかのかよ……」
フルメタルに包まれたバスは、タイヤがなく地面に浮いていた。
恐る恐る乗っていくと中は意外と広くなっている。
「次元拡張って言ってね。少し中の空間がいじられているんだ。」
「さすがは中住の技術か。」
「初歩的な物だよ。」
ちなみに前世の俺からしたら実際は下住地区の技術でも十分驚きに値するものばっかりである。
俺はまだ見ぬ中層に恐れおののきながらふかふかの席に座った。
10分ほどたち、ようやくバスが動き始めた。
直後に言いようのない不快感、すなわち機体の上昇が始まる。
空に恐怖はない、それこそ生身で飛び回っていた時期もある。だが、自分の力が関係なく無機質に飛ぶような存在には乗ったことがなく、ひどい違和感と恐怖が付き纏ってくる。
「そういえば小僧は空を飛ぶのは初めてだったな。」
「まぁ、そうだな。ちょっとばかし感覚の違いに戸惑っている」
「すぐ慣れる。」
そういうと仲介屋は隣で寝始めた。少しでも故障したら死ぬような世界でよくもこんなに図太くなれるのかと感心する。
少し時間があるし、前世の話でもしようか。
元居た世界の名は【グレイル】と呼ばれていた。
この世界の童話からとるのならば文字通り【剣と魔法の世界】が最も表現として近いのだろう。
最もマスケット銃のようなものはすでに開発され、戦争にも導入されていたが……。
だが、今の世界の火力とは比較にならないほど弱い。
確かに俺を含め一部の人間はこの世界の住人よりもはるかに強かったが、それは俺が低住地区の住民しか見ていないためだろう。最低限の能力者がここまで強いのだ。
例えば銃の威力はこちらの一流魔術師の威力に匹敵する。最下層に住む人間がそれほどまでの力を手に入れているのだから、格段に生活レベルが変わるという中住地区では宮廷魔術師クラスの能力を持った人間が跋扈しているのだろう。
剣や弓の扱いであれば一流の俺だが、流石に初めて扱う武器はまだ慣れていない。魔法が使えれば別なのだろうが、この世界では魔力が極めて薄いため本当に弱い能力しか使えない。
どうにかして以前レベルに使えるようになれば問題ないのだが……。
「何を考えこんでいるんだ。」
「あぁ……少しな。」
気づけば、バスは止まり目的地についていた。
周りにせかされるようにバスから降りる。
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