第9話 大尉
試験が終わってくつろいでいるレヴのもとへ二人が下りてくる。
こっちの奮闘を見ながら飲んでいたらしい。仲介屋の体から酒の匂いがかすかに香った。
「昼間から良いご身分だな。」
「安心しろ、酔ってはない。」
「そんなこと見ればわかる。」
流石にそこまで強い酒は飲まないだろうよ。
「ナトゥア様。こちら傭兵カードになります。」
いつ作ったのかはわからないが、銀色のカードを機械人形から渡された。
しかし良いのだろうか。
「俺は試験を失敗したのでは?」
「そんなことはありませんよ。この試験はそもそも成功を前提として作られていませんので。」
「成功を前提として作られていない?」
「ええ。いくら敵が旧型だとは言え、一般的に普及されている装備だけで1個小隊を相手にできる訳がないですか。」
「そうなのか?」
俺10人は倒したぞ?
最後は理不尽に殺されたから何も言いたくないが。……そう考えると確かに無謀だな。
「もしかして十分過ぎた?」
「ええ。普通の合格ラインが1体をしとめ5分ほど時間を稼ぐ、もしくは2体をしとめてゲームオバーになるですからね。」
やらかしたと言うほかないだろう。こちとら下層から一時的に来ているだけなのだから。
仲介屋が先に行き、俺は機械人形にカードについての説明を受けていた。
「Dランク?」
「傭兵ランクについて少しだけ説明させていただきます。一番下がF最高がSでして一般的にはBを超えるとベテランと呼ばれる傭兵となります。」
「となるとDランクはどのレベルになるんだ?」
「一般的に中堅となっていますね。ですがナトゥア様の場合ですとDの中でも下位に相当すると考えられます。これは戦闘能力ではなく、経験と武器の差が主に原因となっておりますね。」
「なるほど。」
俺はそこそこ良い評価を頂いたようだ。
「しかし一介の受付人がランクを気軽に決めてもいいのか?」
「問題ありません。私は基準に従って格付けしているだけですので。さすがに今回は上に支持を仰ぎましたけどね。」
「その場合個人情報は……。」
「その点は大丈夫です。実名などは一切言っておりませんので。」
「ならよかった。」
ロビーに戻るとちょっとした騒ぎが起きていた。
無視して出て行こうと仲介屋を探すが見当たらない。
すると先ほどの機械人形がこちらの服を少しつかんだ。
「どうし……「アゲート様でしたらあちらの集団に絡まれております。」」
「受付で対応したりしてくださりは……。」
「できませんね、というかしません。絡んでいる集団が大物というのもありますが、絡まれる方の問題が大きすぎますので。」
「店としてそれはどうなんだ。」
「いずれ分かります。」
このまま待っていても埒が明かないので仕方なく集団へと向かった。
「何やっている仲介屋。こんな奴らに構っていないで帰るぞ。」
「いっただろ?ガキ待たせているから早く帰らせろって。」
「お前にガキ?拾われた方も災難だな。」
どうやら仲介屋に絡んでいたやつは相当強いらしい。後ろの集団はそれほどでもないが、目の前にいる男の纏う覇気は尋常ではなかった。
一体仲介屋は何をやらかしたのだろうか。
「何をやらかしたんだ?」
「何もやってない。向こうが勝手に絡んできただけだ。」
「はぁ……。こっちはお前に挨拶をしただけだろうが、絡むとか人聞きの悪いことを言わないでくれないか?」
「だったらさっさと返してくれないか?」
「それはだめだ、こちらはまだ挨拶が終わっていないからな。2年前の借りを返したいの返したいんだよ。」
笑顔でいう男だったが、その目は笑っていなかった。
少しだけ後ろの集団が離れると、男は少し腰を落とす。
レヴの予想に反して直後に生じた音は鈍かった。
男の進行方向をきれいに割った仲介屋が相手の膝を壊したのだ。
そのまま男の頭を右手で押さえながら仲介屋はドスの利いた声で話し始めた。
「借りの返し方が間違えているだろ。俺は3度出ていきたいと言ったよな。」
「………」
「あの時の行動に文句があるならそれを覆すだけの力を手に入れてから来い。紅蓮隊隊長の【焼炎】さんよ。」
仲介屋がつかんでいた頭を離すとすぐに男は立て直した。
無視して出て行こうとする俺たちを止めようとした後ろの有無武蔵はレヴが蹴散らしていった。
「変わったな【大尉】」
「准尉、お前に何がわかる」
男の最後の言葉を仲介屋は見向きせずに切り捨てた。
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