第2話 機械人形
一歩路地に入ると空気ががらりと変わる。天井は紐やら洗濯物やらが多くかけられているせいで光が入らず、薄暗い。こういったところではよく強盗に出くわす。
「……」
その証拠に、今も何者かがこちらの後を追っている。
修理屋に続く道とは反対方向の道に回り、その場で止まる。
しばらくたつとコソコソと男が路地の向こう側を覗くように顔を出した。
その瞬間、すぐ下で隠れていたレヴは腹に向かってアッパーカットを繰り出した。
その隙にレヴは背後に回り、ナイフを首元に添える。
小さな力ながらも急所に直撃してしまったため男はうずくまった。」
「動いたらわかるな。」
「ああ……。」
「目的は……、言うまでもないか。」
「……弁解させてくれ。幼い娘がい——」
言い終わるよりも速く男の手が動いた。
それを離れたところから見ていたレヴはニヤリと笑う。
その場所から動き出そうとしたレヴであったが、そこで予想外なことが起きる。
「弁解の余地なし。死ねッ」
レヴとはまた別の影が天から落ちてきたのだ。
ソレは寸分たがわず男の首元にナイフを突き立てる。
結局何もできないまま男は絶命した。
「幼い娘がいたならば12歳を襲うような下種びた発想はしないだろうよ。」
「まったくだな。」
驚きながらも吐き捨てるようにレヴが言い、それに追従して男を殺した少女が遺体を蹴り上げる。
「それで
「見回りをするために屋根の上を走っていたら興味深いものを見つけたわけだ。」
自分のことを自警団だと言い張る少女の手足は機械で出来ていた。
「そういうことではなく、なぜ
「?……勘違いしているようだが私は
「は?ではその手足は?」
「義手だ。育ての親が技術者でな、事故で捥げた手足を新たに作ってくれた。」
「なるほど。それは申し訳ないことを言った。」
「対して気にしていないから問題ないさ。では私はこれで。」
「あぁ……。」
驚異的な速さで過ぎ去っていく少女を見送りながら、足元の遺体をちらりと一瞥してレヴもその場から去っていく。
「嵐のようだったな。」
数時間後ネチャネチャと音を立てながら何らかの生物がやってきて、男を飲み込んでいく。そして、その痕跡は跡形もなく消え去った。
修理屋についいたレヴは金属でできた重い扉を苦労しながら開けていく。
「爺、油付けておけって言っただろっ」
「……申し訳ない。この年でボケが回っていてな」
「油もらうぞ。」
「助かる。」
雑に散らかった金属部品や、金属製品、工具の中から油を探し出し、レヴは扉に刺していく。
レヴの前世の世界の時代はこの世界では何千年も前の時代であり、当然レヴは金属製品のことなど知らなかった。
だが、レヴの体には知識として産み落とされてからこの年に至るまでの経験が積み込まれていたため、さほど抵抗なくこの世界のことを理解している。
「それで今回は何を持ってきたのだ?」
「壊れた電子機器だ。何に使うのかはわからん。」
俺がそれをほいっと投げると、あわてて爺の助手がキャッチした。
「雑に扱うなよ?儂の助手が捕まえられなかったら商品にならんではないか。」
「爺の助手なら大丈夫だろ。」
レヴが助手を見上げると、笑って機械の手を振ってきた。
そう、助手はこの低住地域では極めて珍しい
ちなみにだが、この世界の機械はすでに感情と呼ばれるものを手に入れている。特殊な技術が必要であるがもととなる人形があれば結構簡単に作れたはずだ。
助手とあいさつを交わしている間に爺が簡単な解析を終わらせたらしい。
「珍しい電子機器だな。おそらく情報機器だ。」
「それが?」
にしては重いのだが……。
「十数世代前のものだよ。使うこともできるはずだが骨董品としての需要は高い。」
「なんでそんなものを捨てるんだ?」
「一つはその価値を知らなかったか、もう一つは価値を知っててなお要らないほどの金持ちだったか、さらにもう一つは何世代も前過ぎて治す方法を知らなかったか。」
「なるほどな。……爺は治せるのか?」
「もちろんだ。この地区は時代に取り残されているからな、まだ取扱説明書も残っているぞ。」
「いいのか悪いのか……。」
爺が治しているあいだ、俺は助手に頼んで商品を見せてもらっていた。
「なんで爺はこれだけの腕があるのに表に店を立てないんだ?店を出す金は十二分にあるだろ?」
「……おそらくですが私に配慮してのことでしょう。機械人形はよく狙われますので。」
「それもそうか。」
なんてことない雑談を交わしながら商品を見ていると、俺の目に飛び込んでいたものあった。
用語解説
機械人形=脳以外の全ての体の部位が機械でできている。
完全機械人形=脳も含め全ての体の部品が機械でできている。
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