第46話 時間稼ぎ
前にいる危なそうな目つきの人と、目が合っている。
髪型はモヒカン頭をしていて、服装は前衛的なオシャレ服。両肩にトゲトゲした肩パットをつけていて、その他の部分は地肌が見えている。下半身へと目をやると、ところどころ破れたズボンを履いている。そして、足には硬そうな真っ黒なブーツを履いている。
その男は、こちらをじっと見つめたまま、笑いながら近づいてくる。何をしてくるかわからない雰囲気を出しながら、一歩一歩距離を縮めてくる。路地にいる人たちは大体が同じ目をしていて、私たちがどう動くかを観察しているようだった。
これは、どうしたら良いんだろう……。モンスターと対峙した時も怖かったけれども、それに似たような怖さがある。モンスターの方が行動する理由を持っている分、マシなのかもしれない。なにを考えているかわからない、なにをしてくるかもわからないという点で、もしかすると、モンスター以上に怖いかもしれない。
「少年、ちょっと回れ右して、戻ろうか……。こっちの道は間違えていたっぽいんだ……」
「そうなの……? 僕は、お姉ちゃんになら、どこにでもついていくから大丈夫だよ」
そう答える少年は、相変わらず下を向いていて、今の状況が分かっていないようだった。ずっと恥ずかしそうにしながら、ちょっと嬉しそうな顔をしてる……? 今さら人込みにでも酔ったのかな……?
とりあえず、私は少年の手を引きながら、元の安全そうな道へと戻ろうと後ろを振り返った。すると、後ろにも、同じような格好をした、目つきの危ない男が立っていた。
男は首を傾げながら、こちらに聞いてきた。
「お嬢さんたちは、どこへ行こうっていうのかな? ここの通りへ来たっていうことは、わかってて来たんだろ? もしかして、何もわからず来ちゃったのかな? ヒャッハッハ!」
戻る方の道にいる男も、こちらをめがけて進んできた。路地は一本道になっているので、前と後ろを挟まれたら逃げ場がない。危ない二人組もだが、周りにもいる人たちも、危ない目を細めながら楽しそうに笑ってこちらを見ている。私たちが、何をされるのかわかっているような……。
うぅ……。なんで私は、運が悪いのかな。この状況、どうしようもないじゃん……。いつもの仕事場だったら、『転生ボタン』を押して、強制的に転生させて終わらすのに……。逃げ場も無いし……。
そうだ!
最後の手段として、二匹を大きくするっていうのもありなんじゃないかな……。
――街中で、グランちゃん、フィンちゃんにパラメーターを割り振ることはできません。
「な、なんでよ! こういうピンチの時にこそ、使わないとじゃないの!?」
――街中では元の大きさに戻さないことを条件に街に入っています。
――その約束を破ってしまうことになるため、元の大きさに戻そうとした段階で、徳ポイントは失われます。
――よって、元の大きさには戻せません。
「なによ、それっ!! ケチケチ!! というか、そんなこと言ってる場合じゃないじゃん! あいつら二人からパラーメー夕ー吸い取れないの?」
――パラメー夕ーを吸い取る場合には、対象の認識が必要となります。
――対象を認識するためのスキャンには、時間がかかりますがよろしいでしょうか?
「しょうがないよ、やるしかないし! その間時間を稼げばいいってわけでしょ? すぐに開始しちゃって!」
――かしこまりました。開始いたします。
私のポケットが光り出した。光っているのは、周りの人たちにも見えるはずだけれども、誰も徳の玉の方は見ていないようだった。近づいてくる二人も、目線の顔から目線を離さずに、不気味に笑いながら足を止めなかった。
まさか、人間相手に徳の玉を使うことになるとは、思わなかったけれども。こんな目をしている人たちなんて、なにをされるかわからないし……。万が一の場合に備えて準備はしておかないと、私がみんなを守れなくなっちゃうからね。
ここに来てしまったのは、私の責任だし。みんなを守るのも、年長者である私の務めだからね。近づいてくる人たちの目、やっぱり怖いなぁ……。うううー……。
助けが誰もいない状態でも、何とか頑張るしかない。今なら、先輩の気持ちが良くわかります。今度神界に戻れたとしたら、先輩に美味しいご飯を貢ましょ。今まで私を守ってくれていて、ありがとうございましたって。
よし!
情けないこと言ってないで、どうにか時間を稼がないと。時間を稼ぐためには、この人たちの興味のあることを探り当てて、そちらに興味を持っていけば良いはず。そんなやり方も先輩に教わったクレーマーの対処なんだ。
「……ちょ、ちょっと、あなたたち。何が目的なのかはわからないですが、もしかしてお金か何かですか? そうだとしたら、カバンから取り出しますんで、少し待っててくださいませ!」
人間の欲求は、大体がお金であることが多いと聞いたことがある。お金があれば、なんでもできるからと。魔法が使えるとか、そういうことを差し置いて、転生時に欲しい物第一位は、お金だったのです。安定的な暮らしができるように、上位身分に生まれるとか、そういうのも含まれてますけれども。
だから、それを手元にちらつかせれば、この人たちもそこに寄ってくるはず! そして、それを探すふりをしておけば、ある程度の時間が稼げるはず!
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